謎の指輪
文字数 2,015文字
食事を終えた後、アークは慣れた様子で支払いを済ませ、宿泊施設にダーム達を案内した。そして、宿泊費の支払いは済ませてあることを告げると、アークは改めて魔族討伐についての礼を述べる。
「今回も助かりました。これは、ささやかなお礼です」
アークは頭を下げ、小さな菓子折を差し出した。
「今晩食べても構いませんし、ザウバーのご機嫌取りに使っても良いでしょう」
その話に少年は笑った。そうして、ダーム達はヘイデルに一泊し、それから早い内に買い物を済ませてザウバーの待つマルンへ向かう。
マルンの小屋で待つザウバーと言えば、すっかり一人に慣れていた。そんな仲間に対して、ダームはアークから受け取った菓子折を差し出して言う。
「はいこれ、アークさんから。僕達はご飯とか泊まる場所とか色々やって貰ったけど、ザウバーには何も出来なかったから……って」
ザウバーは、差し出された菓子折を訝しそうに見た。そして、それを受け取ると、蓋を開けて中身を見る。
「それと、今回使わなかった分の魔力回復薬も、アークから渡された」
ザウバーが菓子折の中身を確認している最中に、ベネットは魔力回復薬の入った袋を取り出した。ザウバーと言えば、ベネットの持つ袋を見つめ、それから中身を壊さぬよう丁寧に受け取る。
「要は残り物か。それでも、大分助かるな」
その物言いに、ダームは何かを言おうとした。しかし、それを言ったところで何も良いことが分かっているのか、少年は口を閉じる。
「ヘイデルで食料も買い込んできた。これから、調理するが、昼には出来上がるだろう」
そう言ってベネットはザウバーの前から姿を消した。一方、ダームは机に置かれたマグに気付いて顔をそちらへ向けた。
「これ、何でマグに枝を挿して……」
少年が話し始めた時、ザウバーは気怠そうに息を吐いた。
「理由は、俺にしか分からないことだ。魔法を使えないお前には、想像も付かないようなことだよ」
その返答に、ダームは不審そうな眼差しをザウバーに向ける。
「痛い目をみたいなら止めねえぜ? だけど、俺は注意したからな?」
ザウバーの話に、ダームは首を傾げた。そして、目線が変わったことにより枝の先に通された指輪を見付け、少年は目を見開く。
「これ、もしかして……クルークの洞窟前に落ちていたやつ? あの指輪、色合い位しか確認出来ていなかったけど」
ダームは様々な角度から指輪を眺め、ザウバーは諦めた様子で説明を始める。
「そうだよ。だから、軽い気持で触るなよ? 俺だって、直接触らない様に枝に挿して持ち帰ったんだから」
ザウバーは片目を瞑り、細く息を吐き出した。
「魔法を使えない人間には、指輪に封じられた魔力を感じられないだろうし、魔法を使えてもその系統の知識が無いと詳しいことは分からない。だから、それが分かるまでは放置しておくのもな……下手にアークが調査に出て、拾いでもしたら面倒なことになりかねねえ」
吐き捨てる様に言い、ザウバーは指輪を見る。闇を溶かし込んだ様な宝石が塡められた指輪は、周囲の何も映し出すことはない。
「封印出来れば一番なんだが、下手に手を出すのも危険だ。それに詳しい奴が居るなら、そいつに託すのが一番なんだが」
ザウバーは、殆ど独り言の様に小さな声で言葉を紡いだ。
「その伝手も、俺には無いからな」
自嘲気味に言うと、ザウバーは苦笑した。一方、ダームは青年の話が理解出来ていない様子で黙っている。
「ま、魔法使いが塡める指輪にも色々あるってことだ。魔力消費を抑えるものだったり、魔法の威力を上げるものだったり。それを作れるのは、知識と器用さを持った奴だな。だから、大抵は何十年も魔法を研究している様な奴にしか作れない。真似して作ったとしても、効果がないだけならマシな方だ」
それを聞いたダームは、不思議そうに問い掛ける。
「効果がないだけがマシってどういうこと?」
「そりゃ、マイナスの効果が出ちまうってことだな。ただでさえ材料は手に入りにくいし、術を刻み込むのは簡単なことじゃない。それなのに、いざ出来上がって装備したら、魔力の減りは早かったり、魔法が弱まったり、下手したら魔法が発動しなくなるなんてことまである。ま、それを逆手に取って、敵を無力化する為にも使われるけどな」
ザウバーは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。そして、枝に挿した指輪を指し示すと、話を続けた。
「この指輪からは、良い効果も悪い効果も期待出来そうな何かを感じる。だが、その何かが俺には分からないし、分からないからこそ、こうやって触れない様に扱っている。お前だって、得体の知れないものには触りたくはないだろ?」
その問いに、ダームは数秒間考えてから肯いた。そして、少年は調理の手伝いに行くと言って退室する。
部屋に残ったザウバーと言えば、持ち帰っていた資料の調査を再開した。そして、青年は食事の準備が出来るまで、ひたすらに手掛かりを探し続けた。
「今回も助かりました。これは、ささやかなお礼です」
アークは頭を下げ、小さな菓子折を差し出した。
「今晩食べても構いませんし、ザウバーのご機嫌取りに使っても良いでしょう」
その話に少年は笑った。そうして、ダーム達はヘイデルに一泊し、それから早い内に買い物を済ませてザウバーの待つマルンへ向かう。
マルンの小屋で待つザウバーと言えば、すっかり一人に慣れていた。そんな仲間に対して、ダームはアークから受け取った菓子折を差し出して言う。
「はいこれ、アークさんから。僕達はご飯とか泊まる場所とか色々やって貰ったけど、ザウバーには何も出来なかったから……って」
ザウバーは、差し出された菓子折を訝しそうに見た。そして、それを受け取ると、蓋を開けて中身を見る。
「それと、今回使わなかった分の魔力回復薬も、アークから渡された」
ザウバーが菓子折の中身を確認している最中に、ベネットは魔力回復薬の入った袋を取り出した。ザウバーと言えば、ベネットの持つ袋を見つめ、それから中身を壊さぬよう丁寧に受け取る。
「要は残り物か。それでも、大分助かるな」
その物言いに、ダームは何かを言おうとした。しかし、それを言ったところで何も良いことが分かっているのか、少年は口を閉じる。
「ヘイデルで食料も買い込んできた。これから、調理するが、昼には出来上がるだろう」
そう言ってベネットはザウバーの前から姿を消した。一方、ダームは机に置かれたマグに気付いて顔をそちらへ向けた。
「これ、何でマグに枝を挿して……」
少年が話し始めた時、ザウバーは気怠そうに息を吐いた。
「理由は、俺にしか分からないことだ。魔法を使えないお前には、想像も付かないようなことだよ」
その返答に、ダームは不審そうな眼差しをザウバーに向ける。
「痛い目をみたいなら止めねえぜ? だけど、俺は注意したからな?」
ザウバーの話に、ダームは首を傾げた。そして、目線が変わったことにより枝の先に通された指輪を見付け、少年は目を見開く。
「これ、もしかして……クルークの洞窟前に落ちていたやつ? あの指輪、色合い位しか確認出来ていなかったけど」
ダームは様々な角度から指輪を眺め、ザウバーは諦めた様子で説明を始める。
「そうだよ。だから、軽い気持で触るなよ? 俺だって、直接触らない様に枝に挿して持ち帰ったんだから」
ザウバーは片目を瞑り、細く息を吐き出した。
「魔法を使えない人間には、指輪に封じられた魔力を感じられないだろうし、魔法を使えてもその系統の知識が無いと詳しいことは分からない。だから、それが分かるまでは放置しておくのもな……下手にアークが調査に出て、拾いでもしたら面倒なことになりかねねえ」
吐き捨てる様に言い、ザウバーは指輪を見る。闇を溶かし込んだ様な宝石が塡められた指輪は、周囲の何も映し出すことはない。
「封印出来れば一番なんだが、下手に手を出すのも危険だ。それに詳しい奴が居るなら、そいつに託すのが一番なんだが」
ザウバーは、殆ど独り言の様に小さな声で言葉を紡いだ。
「その伝手も、俺には無いからな」
自嘲気味に言うと、ザウバーは苦笑した。一方、ダームは青年の話が理解出来ていない様子で黙っている。
「ま、魔法使いが塡める指輪にも色々あるってことだ。魔力消費を抑えるものだったり、魔法の威力を上げるものだったり。それを作れるのは、知識と器用さを持った奴だな。だから、大抵は何十年も魔法を研究している様な奴にしか作れない。真似して作ったとしても、効果がないだけならマシな方だ」
それを聞いたダームは、不思議そうに問い掛ける。
「効果がないだけがマシってどういうこと?」
「そりゃ、マイナスの効果が出ちまうってことだな。ただでさえ材料は手に入りにくいし、術を刻み込むのは簡単なことじゃない。それなのに、いざ出来上がって装備したら、魔力の減りは早かったり、魔法が弱まったり、下手したら魔法が発動しなくなるなんてことまである。ま、それを逆手に取って、敵を無力化する為にも使われるけどな」
ザウバーは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。そして、枝に挿した指輪を指し示すと、話を続けた。
「この指輪からは、良い効果も悪い効果も期待出来そうな何かを感じる。だが、その何かが俺には分からないし、分からないからこそ、こうやって触れない様に扱っている。お前だって、得体の知れないものには触りたくはないだろ?」
その問いに、ダームは数秒間考えてから肯いた。そして、少年は調理の手伝いに行くと言って退室する。
部屋に残ったザウバーと言えば、持ち帰っていた資料の調査を再開した。そして、青年は食事の準備が出来るまで、ひたすらに手掛かりを探し続けた。