少し少し近付く分かれ道

文字数 1,598文字

「さて、僕達は魔法を使えるけど、回復魔法は無理だ。だから、せめて毒消しの野草や実は覚えて欲しい」
「うん」

「毒を持つ生き物から、攻撃をされない為の対処法もある。だけど、対策をしていても無駄なことは、何時だって起きる。だから、そう言うの時の為に知識は持っておいた方が安心だ」
 兄は弟の頭を撫で、弟は恥ずかしそうに笑う。

「動物は、本能的に毒消しの野草を選ぶ。だけど、人間にはその力が無いからね。代わりに知識で補うしか無いんだ」
 兄は地面を見ながら進み、弟は兄の後を追い掛ける。

「ちょっと歩くだけでも、様々な植物が生えている。それは有用なものだったり、害にしかならなかったり、処理の仕方次第で毒にも薬にもなったり……木の実も、熟し具合によっては毒でしょ? 他の植物も、単純には分けられない。それに、似た見た目のものもあるから……分かり易いものから覚えていこう」
 兄は、少しずつ弟に知識を与え、弟は一つ一つ兄から貰った知識を覚えていった。そうしている内に日は傾き、兄弟は道すがら得た食糧を持って小屋へ向かった。

「小屋で食べてから戻ろうか。今日は美味しい果物も採れたし、新鮮な内に食べてしまおう」
 弟は元気良く返事をし、兄弟は得た食糧を素早く腹におさめた。そうしてから兄弟は小屋を出、本来の住処に帰還する。

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「今日は、素材の買い取りをしてくれる人達に、ザウバーの顔を見せに行こう。いきなりザウバーが店に行くより、僕が紹介しておく方が後で話が進みやすいだろうからね」
 弟は首を傾げ、兄は和やかに笑った。

「今までは、お金になる素材や肉は僕が売りに行っていた。採取や狩りだけでは、手に入れられないものもあるからね。それらを買う為に、何かを売ってお金に換えておくんだ。お腹を満たすだけで生きていける動物とは違って、人間として生きていくには、どうしたってお金が必要だからね。服を一から作れるなら、それも変わるかも知れないけど……いや、そこまでは考えなくて良いかな」
 兄は、弟の少し先を歩き、道を案内しながら話を続けた。

「知識を手に入れる為には、学校へ入るのが手っ取り早い。だけど、それには沢山のお金が要る。貯めるのは大変だけど……それ以上に得られるものがあるのなら、賭けてみる価値はある」
 徐々に声を小さくしながら言葉を紡ぎ、兄は黙った。兄は黙ったまま道を歩き、その背中を弟は追い掛けた。

 歩き続けた後、兄弟は露店の並ぶ区域に出た。兄は、顔なじみの露店商に挨拶をしながら、売れる物を次々に換金していった。
 そうしながら、兄は商人と弟を知り合わせ、時間をかけて露店を回った。素材によって売る店は変わり、兄は挨拶だけで済ます時もあった。

 露店が並ぶ区域から少し離れると、そこにはこじんまりとした建物が在った。その建物の正面には窓は無く、堅木で作られたドアは重々しい雰囲気を出している。
 また、建物の外壁に苔に覆われ、濃緑色の蔓がひしめき合って天を目指していた。兄は、弟に店の外で待つ様に言い残し、一人で小さな店に入った。

 兄は、十数分は店で何かをなし、それから弟の元に戻った。弟が見る限り、兄の所持品に変化は無かった。だが、兄の表情は満足そうで、それを見た弟は安心した様子で息を吐く。

「さあ、普段は手に入らない物を買って帰ろうか。調味料やナイフは、何時もの場所からは手に入れられないからね」
 兄は目を瞑り、立ったまま何かを考えた。

「ナイフはまだ使えるけど、調味料は……」
 そう呟いてから兄は目を開き、弟を見下ろした。弟が着ている服は小さく、丈が足りていない部分もあった。

「ザウバーの新しい服も買おう。これからのことを考えて、大きめの服が良いね。子供服なら、使われなくなったものが安く売られているから、予備も」
 兄は微笑み、露店が並ぶ区域に向かい始めた。その後、兄弟はささやかな買い物を楽しみ、帰路につく。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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