魔族討伐の為に洞窟へ

文字数 1,525文字

「そろそろ、戦闘準備をした方が良いでしょう。馬車は狙われると弱点になりかねないので、洞窟付近からの攻撃は届かない位置に隠しておきます」
 アークは馬の速度を落とし、緩やかに馬車は停止した。その後、アークは御者台から降り、馬車の戸を開ける。

「私は、ここで馬車の番をしています。二体の魔物にすら後手を取る私が戦闘に加わっても、足手纏いになるのは目に見えていますから」
 苦笑いを浮かべながら、アークはダーム達を見た。この際、少年は悲しそうな表情になって何かを言いかける。しかし、それよりも前にベネットが話し始めた。

「分かった。魔族を倒しきるまで、アークは馬車を守っていてくれ。部下への指示を出さなくて済む分、攻防共に集中しろ」
 ベネットは、そう伝えてから馬車を降りた。この際、アークは頭を下げながら、ベネットへ肯定の返事をなした。

「ま、さくっと倒して戻ってくるから、それ位なら大丈夫だろ」
 ザウバーは軽く笑いながら馬車を降り、アークの背中を強く叩いた。その後、ザウバーとアークは顔を見合わせ、右手を上げて叩き合わせる。

「ザウバーの言った通り、魔族を倒して戻って来るから。だから、アークさんは安心して待っていてね」
 そう言って、ダームは馬車から飛び降りた。一方、アークは無人になった馬車の戸を閉め、少年を見下ろす。

「はい、ここでお待ちしておりますよ。ですから、ダームは安心して戦ってきて下さい」
 アークは柔らかな笑みを浮かべ、ダームを見た。すると、少年は朗らかな笑顔でアークを見上げる。

「じゃあ、行ってくるね」
 ダームはクルークの洞窟へ向かって歩き始め、仲間がそれに続いた。アークは、三人の背中を見送り、馬車の周囲を警戒し始める。

 ダームが小道に沿って歩いて行くと、洞窟の方に黒い塊を二つ見つけた。その塊は意思を持った様子で動き、三人の方へ向かってくる。

「成る程。こりゃ、アーク一人じゃ守り切れないわ」
 呟く様にザウバーは言い、ダームは戦闘の為に剣を構えた。

「ザウバーは、魔力を温存しておいてくれ。何より」
 ベネットは呪文を唱え、近付いてきた魔物を一気に攻撃した。光の矢に射られた魔物は浄化され、形を崩しながら霧散する。

「あの魔物には、光の力が効きやすい。倒した証拠が必要ないならば、下手な手加減も無用だしな」
 それを聞いたザウバーは小さく笑い、殆ど消えてしまった魔物を眺めた。

「確かに、手加減は要らねえな。さて、前菜は済んだし、メインディッシュも堪能といくか」
 ダームは頷き、周囲を警戒しながら前進した。すると、またしても黒い塊が動き始めた。しかし、それが向かってくる様子はなく、ダームは困った様子でザウバーの顔を見る。

「誘われてんのか、単に動けねえのか分からねえが、辺りが暗くなると面倒なのだけは確かだろ」
 その一言で、ダームは臆することなく歩みを進めた。すると、黒い塊の動きは大きくなり、洞窟まであと少しの位置でダームの方に駆けてきた。

 今回の魔物も、ベネットの魔法で倒された。しかし、魔物は先程のものより、一回り大きな個体だった。

「さて、敵も本気を出してきたのかねえ?」
 ザウバーは、ローブの中から杖を取り出した。彼は、その杖をしっかりと握り、そこに魔力を注いでゆく。

「或いは、こちらの出方を、魔物を使って探っているか……何にせよ、戦闘が長引くのは得策ではないな」
 ベネットは、服越しにアークから渡された小瓶を確認した。小さな瓶は確かにそこにあり、ベネットは何処か安心した様子で息を吐く。

「どんな理由があったって、僕は進む。アークさんとも約束したから」
 ダームはしっかりとした足取りで歩いた。すると、その目線の先には、クルークの洞窟入り口が見えてくる。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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