冷や飯も解き卵を混ぜて焼くとそれだけで美味しい

文字数 1,648文字

 ザウバーとベネットは、それぞれに資料の調査を始めた。ただ、ザウバーの部屋には既に多くの資料が置かれている為に、調べ終えた資料の置き場に難儀していた。

 一方、ベネットは空箱を用意し、確認し終えた資料を丁寧に収めていった。その作業は着々と進んでいき、直ぐに箱は満たされた。また、肉を煮込んでいるダームは、それぞれの鍋から味見と言いながら肉を口に運んでいた。

 煮込みの足りない肉は硬く、ダームは火の番をしながら咀嚼を続けた。そうしている内にも鍋の水分は蒸発してゆき、少年は水を足しながら肉を煮込み続ける。

 煮込んでいく内に、肉は段々と柔らかくなっていった。すると、ダームのつまみ食いの速度は上がり、鍋の中の肉は減っていった。

 肉の量が明らかに減ったところで、ダームはつまみ食いを止めて鍋に蓋をした。そして、鍋を加熱していた火を消すと、食卓にパンの入った袋を置いた。 

 ダームは、そうしてから取り分け用の皿を用意し、肉を食べる用にカトラリーも用意した。それから、煮込んだ肉をよそう皿を鍋の横に置き、少年は仲間を呼ぶ為に部屋を出た。

 ダームは、ザウバーとベネットに調理が終わったことを告げ、直ぐに煮込み終わった肉をよそい始めた。ザウバーとベネットは食卓に置かれた皿の前に座り、ダームは自慢げな表情を浮かべて仲間の反応を待つ。

「味付けはしていないから、先ずはお肉の味だけで楽しんでみて」
 それを聞いたザウバーは苦笑いを浮かべるが、ダームの言う通り煮込んだだけの肉を食べた。

「確かに、旨いっちゃ旨いな」
 それを聞いたダームは、果物と共に煮込んでおいた肉をザウバーに差し出した。その肉からは仄かに甘い香りが漂い、ただ煮込んだ肉より解れていた。

「じゃあ、こっちのお肉はどう? 果物と混ぜたやつ」
 ザウバーは、ダームに促されるまま肉を口に運び、その柔らかさに顔を綻ばせた。

「思ったより、旨くなるもんだな。だが、これは本当に肉だけを食べたい奴のやることだ」
 それを聞いたダームは首を傾げ、散々味見をした肉を一口食べる。ダームには、ザウバーの言いたいことが分からないのか、首を傾げたまま唸り出した。

「例えば、パンに合わせてみろ。スープが欲しくなってくるから」
 ザウバーの意見を受けたダームは、素直にパンを袋から取り出して食べた。少年は、乾燥して硬くなったパンと肉を交互に食べ、それから口を尖らせる。

「確かに、パンをスープに浸けて食べたくなる。シチューと合わせたら、絶対に美味しいなって」
 ダームは肩を落とし、手に持ったパンを眺めた。彼は、そうしてから目を瞑り、長く息を吐き出す。

「ま、あくまで硬くなったパンに、何もしないで食べるのはつまらないって話だ。ちょっと待ってろ。適当にパンに手を加えてくるから」
 魔力が回復したのか、ザウバーは元気そうに調理台へ向かった。ザウバーは、パンを薄く切ると溶き卵に浸し、焼きながら調味料を軽くかけた。

 卵に火が通ったところでザウバーは皿に料理を移し、硬くなったパンを使い切るまでそれを繰り返した。青年は、味見をすることが無かったが、それでも味に自信がある様だった。

「ほら、試してみろ。こうすりゃ、硬くなったパンも楽しんで食えるから」
 ザウバーに促されるまま、ダームは出来たての料理を手に取った。ダームは、黄色く染まった薄いパンを食べると、頬を綻ばせる。

「ちょっと手を加えただけで、こんなに変わるんだね」
「だろ? 料理ってのは、そう言うもんだ。火を通せば、毒を持っていない食材なら大抵食える。だが、たまにはそれ以外の方法も試したくなるもんだ。ま、材料と調理場次第で出来ることが変わるから、移動中は難しいけどな」
 そう言ってザウバーは笑い、ダームは新たなパンに手を伸ばした。しかし、ザウバーはパンを乗せた皿を高く掲げ、ダームに取られないように対策する。

「これ以上は、座って食え」
 ザウバーは、手に持った皿をテーブルに置くと椅子に座った。それを見たダームも椅子に座り、三人の食事が始まった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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