魔族討伐の序章
文字数 1,738文字
アークと別れてからダームとベネットは買い物を済ませ、マルンへ向かった。そこで、二人はヘイデルで起きた出来事をザウバーへ説明し、これからの予定を話し合う。
話し合いの最中、ヘイデルにおけるザウバーの悪評についても触れられた。しかし、ザウバーは既に顔を隠すローブに加え、口元を覆う布の準備を済ませていた。
その手際の良さにダームは驚いてみせるが、ザウバーは「準備する為の時間は、充分だったからな」と返した。実際、ダーム達は予定より長くヘイデルに滞在しており、それらの準備をする時間は充分にあった。
また、ザウバーが用意した装備は、元々彼が学校で使っていたもので、やや小さくなっている。この為、ローブ等はヘイデルでのみ身に付けることになった。
ダーム達は、マルンで出来るだけの装備を整え、アークの待つヘイデルに向かった。アークは、既に馬車の手配を済ませており、それは直ぐにでも出発出来るよう調整もなされていた。
「お待ちしておりました。馬車の準備は出来ています。また、ヘイデル病院院長から、特別製の魔力回復薬の提供も御座いますよ」
アークは、馬車に積まれた木箱を持ち上げてみせた。木箱の中には、暗い緑色をした液体入りの瓶が並べられ、それは厚手の布で丁寧に包まれている。
「魔力回復薬の材料費は、警備兵の予算から捻り出しました。回復薬の材料を運送していた馬車を守り切れなかったので、書面上では使い物にならなくなった材料を買い取った形ですが……まあ、実際は院長との話し合いにて、警備兵が使う程度なら適当に回復薬を作成しておくと」
アークは、木箱から瓶を取り出してみせた。それは、彼が病院で飲まされたものより大きく、中の液体も幾らか濃い。
「馬車に積んだまま運ぶのも良いですが、直ぐに飲める様に持っていた方が良いかも知れません。この前のことも含め、魔物が馬車を狙ってくる可能性もありますから」
そう言ってから、アークは瓶をベネットに手渡した。それから、アークはザウバーの方に顔を向ける。
「貴方も魔力回復薬を持っていた方が良いでしょう。いざという時に退避するには、どうしても貴方の魔法が必要になります」
アークは木箱から瓶を取り出し、ザウバーへ差し出した。一方、ザウバーは瓶を受け取ると、それを太陽にかざす。
すると、瓶は太陽の光を受けて光り、中の液体は幾らか透けて見えた。しかし、それは液体越しに先が分かる様なものではなく、ゆっくりと濃淡が流動する程度であった。
「見た目は受け付けないかも知れませんが、効果は保障出来ますよ。使わなければならない程に、魔力を消耗する事態にならないのが一番ですが」
アークは苦笑し、木箱の蓋を優しく閉めた。彼は細く息を吐いてから、少年の方へ向き直る。
「用意出来たのは魔力回復薬だけなので、ダームには何も無くてすみません」
その謝罪にダームは首を横に振った。
「謝らないで、アークさん。僕は魔法を使えないし、魔力回復薬は必要無いから」
少年は、ベネットの方に目線を向け、話を続けた。
「それに、もし怪我をしてもベネットさんが回復してくれるから……回復薬も必要ないしね」
ダームは笑顔を浮かべ、アークの顔を真っ直ぐに見た。対するアークは小さく頷き、木箱を元の場所に戻す。
「では、問題が無いようなのでクルークの洞窟に向かいましょう。馬車の制御は私が行いますので、皆さんは洞窟の近くに着くまで休んでいて下さい」
アークは、ダーム達に馬車へ乗るよう促した。この為、ダームは馬車に乗り込み、それにベネットやザウバーが続く。
三人が馬車に乗り込んだ後で、アークは御者台に腰を下ろした。それから、アークは馬に指示を与え、馬車はゆっくりと走り出す。
ヘイデルの街を出た馬車は、次第に速度を上げた。馬車はある程度整備された道を進み、徐々にクルークの洞窟へ近付いていく。
この間にも、細かな作戦が話し合われ、それは微調整を加えながら形をなしていった。そして、馬車が走りにくい道に至った時、アークは馬を走らせる速度を落とした。
「目的地が近付いてきているので、警戒だけはしておいて下さい」
アークの話に、ダーム達は肯定の返事を返した。その後も馬車は進み、クルークの洞窟との距離は縮んでいった。
話し合いの最中、ヘイデルにおけるザウバーの悪評についても触れられた。しかし、ザウバーは既に顔を隠すローブに加え、口元を覆う布の準備を済ませていた。
その手際の良さにダームは驚いてみせるが、ザウバーは「準備する為の時間は、充分だったからな」と返した。実際、ダーム達は予定より長くヘイデルに滞在しており、それらの準備をする時間は充分にあった。
また、ザウバーが用意した装備は、元々彼が学校で使っていたもので、やや小さくなっている。この為、ローブ等はヘイデルでのみ身に付けることになった。
ダーム達は、マルンで出来るだけの装備を整え、アークの待つヘイデルに向かった。アークは、既に馬車の手配を済ませており、それは直ぐにでも出発出来るよう調整もなされていた。
「お待ちしておりました。馬車の準備は出来ています。また、ヘイデル病院院長から、特別製の魔力回復薬の提供も御座いますよ」
アークは、馬車に積まれた木箱を持ち上げてみせた。木箱の中には、暗い緑色をした液体入りの瓶が並べられ、それは厚手の布で丁寧に包まれている。
「魔力回復薬の材料費は、警備兵の予算から捻り出しました。回復薬の材料を運送していた馬車を守り切れなかったので、書面上では使い物にならなくなった材料を買い取った形ですが……まあ、実際は院長との話し合いにて、警備兵が使う程度なら適当に回復薬を作成しておくと」
アークは、木箱から瓶を取り出してみせた。それは、彼が病院で飲まされたものより大きく、中の液体も幾らか濃い。
「馬車に積んだまま運ぶのも良いですが、直ぐに飲める様に持っていた方が良いかも知れません。この前のことも含め、魔物が馬車を狙ってくる可能性もありますから」
そう言ってから、アークは瓶をベネットに手渡した。それから、アークはザウバーの方に顔を向ける。
「貴方も魔力回復薬を持っていた方が良いでしょう。いざという時に退避するには、どうしても貴方の魔法が必要になります」
アークは木箱から瓶を取り出し、ザウバーへ差し出した。一方、ザウバーは瓶を受け取ると、それを太陽にかざす。
すると、瓶は太陽の光を受けて光り、中の液体は幾らか透けて見えた。しかし、それは液体越しに先が分かる様なものではなく、ゆっくりと濃淡が流動する程度であった。
「見た目は受け付けないかも知れませんが、効果は保障出来ますよ。使わなければならない程に、魔力を消耗する事態にならないのが一番ですが」
アークは苦笑し、木箱の蓋を優しく閉めた。彼は細く息を吐いてから、少年の方へ向き直る。
「用意出来たのは魔力回復薬だけなので、ダームには何も無くてすみません」
その謝罪にダームは首を横に振った。
「謝らないで、アークさん。僕は魔法を使えないし、魔力回復薬は必要無いから」
少年は、ベネットの方に目線を向け、話を続けた。
「それに、もし怪我をしてもベネットさんが回復してくれるから……回復薬も必要ないしね」
ダームは笑顔を浮かべ、アークの顔を真っ直ぐに見た。対するアークは小さく頷き、木箱を元の場所に戻す。
「では、問題が無いようなのでクルークの洞窟に向かいましょう。馬車の制御は私が行いますので、皆さんは洞窟の近くに着くまで休んでいて下さい」
アークは、ダーム達に馬車へ乗るよう促した。この為、ダームは馬車に乗り込み、それにベネットやザウバーが続く。
三人が馬車に乗り込んだ後で、アークは御者台に腰を下ろした。それから、アークは馬に指示を与え、馬車はゆっくりと走り出す。
ヘイデルの街を出た馬車は、次第に速度を上げた。馬車はある程度整備された道を進み、徐々にクルークの洞窟へ近付いていく。
この間にも、細かな作戦が話し合われ、それは微調整を加えながら形をなしていった。そして、馬車が走りにくい道に至った時、アークは馬を走らせる速度を落とした。
「目的地が近付いてきているので、警戒だけはしておいて下さい」
アークの話に、ダーム達は肯定の返事を返した。その後も馬車は進み、クルークの洞窟との距離は縮んでいった。