四 バトルアーマーのAI

文字数 4,096文字

『さて、我々はどうする?』
『政府組織へ乗り込むさ。AI。我々を、政府内のヒューマのように迷彩できるか?』
 Lは脳内インプラントを通じて、バトルアーマーに訊いた。

『できるよ~。政務次官みたいにダークスーツ着るの?
 それとも技術次官みたいに作業服にする~?』
 懐かしい響きが俺の脳内インプラントから湧きあがった。
 この声は・・・。

『クピだよ!クラリスが、惑星アルギランにいたバスコとマリーの精神と意識を、惑星ガイアにスキップ(時空間転送)したんだよ~』
 惑星アルギランは、リナル銀河・カオス星雲・アルギリウス星系の第二惑星だ。そして、惑星惑星ガイアは、渦巻銀河ガリアナのオリオン渦状腕ヘリオス星系の第三惑星地球だ。


 俺は思い出した・・・。
 俺とLとクピは、つまり、俺とマリーとクピは、惑星イオスのイオス共和国監視監督省中央総監視監督本部の、トニオ・バルデス監視監督官の指示で、エイプ壊滅のために惑星アルギランに派遣され、惑星ガイアのレプティリアが送りこんだエイプを壊滅した。

 惑星ガイアはリナル銀河・カオス星雲・アルギリウス星系の第二惑星だ。一方、ここ惑星ガイアは、渦巻銀河ガリアナオリオン渦状腕ヘリオス星系の第三惑星ガイア、地球だ。両惑星は1700万光年も離れている。
 ワームホールを利用して、惑星アルギランにエイプを送りこんだのは、惑星ガイアのレプティリアだった。俺たちはレプティリアだけを攻撃するバクテリアがいる小天体を惑星ガイアに転送スキップ(時空間転移)してレプティリアを壊滅した。
 その後始末に、クラリスは俺たちを惑星ガイアにスキップ(時空間転移)した・・・。
 クピから、過去の4D映像が脳内インプラントを介して現われた。


 レプティリアが住む地球上の各地に、突如、小天体が現われた。
 小天体から大気中へ拡がったバクテリアはレプティリアに感染し、レプティリアの死滅が始まった。

「これで、何もしなくてもレプティリアは壊滅だよ~。
 ねえ、バスコとマリー。おうちへ帰れるよ~」
 クピがそう言った時、コントロールポッドのクラリスが意味ありげに微笑んだ。

 もしかして・・・。バスコは不吉な予感がした。
 クラリスは黒髪をポニーテールにしたバトルスーツの若い女戦士、素粒子多重位相反転防御エネルギーフィールドで構成されたアバターだ。AIを介してこの平行宇宙に現われている宇宙意識、つまり電脳宇宙意識だ。クラリスが望むAIが存在すれば、宇宙意識のクラリスは、どの平行宇宙にも存在できるはずだ・・・。
「クピ。そういうことだな?」
「うん。でも、あたしは、よくわかんないよ~」

「そうでもなさそうだよ。
 クラリス。私たちは家に帰るんだろう?」
 マリーがクラリスに確認した。

 ここはリナル銀河・カオス星雲・アルギリウス星系の第二惑星アルギランだ。
 家は、リナル銀河・カオス星雲・リオネル星系(恒星リオネル)・第三惑星イオスのコンラッドシティーにあるバスコの岩窟住居だ。

『バスコもマリーも、AIが内蔵された戦闘気密バトルスーツとバトルアーマーを着用しています。AIによって身体環境は保護され、かつ、宇宙戦艦と同等の防衛機能と擬態機能があります。クピも私も、AIが有る限り存在できますよ』

「何だって?」とバスコ。
「やっぱり。嫌な予感がしてたんだよね」
 マリーが苦笑いした。

『装備されてる武器と兵器は御存じの通りです』
 クラリスがそう言うとバスコとマリーの意識に記憶が現われた。

 バトルアーマーには、MA多機能KB銃、MI4粒子ビーム拳銃、N型迫撃弾(超小型ミサイル)、BA巡航弾(巡航ミサイル型手榴弾)、レーザービーム銃(バトルスーツ内蔵型)、コンバットナイフ、スカウター通信機バトルアーマーには、それらと防御エネルギーフィールドのシールドを管理するAIがすでに装備されている。
 これでバトルアーマーの重量は30kgを越えるがバトルアーマーの機能を維持するPDドライブ(プロミドン推進装置)によって、装備のバトルアーマーは無重量化とステルス化が成され、同時に、望むスタイルの衣類に変身できる。

『さあ、移動しましよう・・・』
 クラリスは、隣の家へ行くように調子でそう言った。


 脳内インプラントを介した4D探査映像が消えた。同時に、戦闘気密バトルスーツにバトルアーマーを纏ったクピが現われた。バトルアーマーのAIを介して現われたアバターだ。

『クピ。これまでの状況はわかった。俺とマリーの身体はどうなってる?魂を抜かれたまま、惑星アルギランのテーブルマウンテンの〈ガジェッド〉の中か?』
〈ガジェッド〉は、俺たちが使っていたカージオイド型単葉エアーヴィークル、ステルス調査艇だ。

『マリーとバスコはテーブルマウンテンの頂きの〈ガジェッド〉の中だよ。
 あたしとクラリスが次元変換したから、二人はここでの時間を瞬きする一瞬にしか感じてないよ』とバトルアーマーのAI、クピ。

『それって、あたしとバスコを騙してるってことね』とマリー(L、茶居玲香)。



 交番内に、黒髪をポニーテールにしたバトルスーツの若い女戦士が現われて椅子に座った。クラリスのアバターだ。クラリスはバトルアーマーのAIを介して現われている。
『夢を見ているのと同じです。
 さて、作戦を練りましょう。政府内に潜入する服装はバトルアーマーで迷彩できます。潜入後、どうしますか?』

 さらにクラリスは言った。
『今後は紛らわしいので、バスコ(C、軽部平太)、マリー(L、茶居玲香)、クピと呼びますよ』
『了解した』
 俺はマリーとクピに確認した。二人とも頷いている。

『ヒューマノイド一人が異星体(エリアン)の集合体で、集合体の司令部は頭部にあります。司令部を見つけて壊滅するというのは、頭部を破壊することです。
 ヒューマノイド自体が異星体(エリアン)の一部隊です。ヒューマノイドたちを指揮する、ヒューマノイドはいません。異星体はヒューマノイドの体内だけで連絡を取り合っています』とクラリス。

『それならどうやって異星体を壊滅する?』
『宿主の組織を再生できぬよう、組織細胞を破壊するのです』
『何だって?』


『異星体は宿主に寄生して、宿主の有機組織を異星体に迎合するよう変化させました。異星体が消えても、宿主は元には戻りません。死ぬだけです。
 エクスブローダー弾の物理的攻撃には限界があります。
 宿主の身体に、異星体に迎合する有機組織の細胞がある限り、頭部の司令部を壊滅しない場合は再生します。その様子を確認したはずです。
 異星体を壊滅するのではなく、宿主の組織細胞自体を再生不可能な細胞に変異させるか、破壊すれば良いのです』とクラリス。

『組織細胞が再生しないように細胞改変するか、組織細胞を破壊するのだな?』と俺。

『そうです。ヒューマノイドになる者たちの遺伝子は、ヒューマとは異なります。ヒューマノイドになる者たちは旧ヒューマ遺伝子を持っていますが、ヒューマの遺伝子には旧ヒューマ遺伝子はありません。
 旧ヒューマ遺伝子にのみに反応する化学物質でヒューマノイドの組織細胞を破壊するのです』

『そんなヒマがあるなら、毒ガス攻撃だよ。政府組織はヒューマノイドに乗っ取られてる。省庁内の空調に毒ガスを混入さりゃあいい』とマリー。

『毒ガスを使うなら、同一時刻に全ての官公庁内に毒ガスを捲かねばなりません。それができますか?』
 クラリスはマリーを見つめた。


『それは不可能だ・・・』とマリー。
 全てのヒューマノイドが官公庁内に留まっているとは限らない毒ガス発生装置を各官公庁の空調に仕掛けて、同一時刻に毒ガスを発生させても、ヒューマノイドを壊滅できない。・・・。

 俺は思いついた。
 官公庁職員は登庁と退庁時、セキュリティーゲートを通る。セキュリティーゲートでヒューマノイドは3D探査ビームを浴びる。この時、ヒューマノイドに特殊薬剤を注入すればいい。注入する薬剤は、旧ヒューマノイドのDNAだけに反応する薬剤だ・・・。
 何だ?クラリスの考えと同じだ・・・・。
 やはりLの兄、茶居孝史の免疫細胞をヒューマノイドに注入するしかない・・・。

 マリーが言った。
『それと、官公庁にどうやって移動するんだ?アルギランのコロニーのエイプをワームホールで恒星アルギリウスへ送ったように、ヒューマノイドを恒星ヘリオスへ転送スキップすりゃあいいさ。
 クピ、ヒューマノイドを転送スキップに、ターゲットロックオンできるだろう?』

『できるよお~』
『クラリス、エイプを恒星アルギリウスに送ったんだ。ヒューマノイドを恒星ヘリオス(太陽)へ転送スキップしていいよな?』
 マリーはそう言ってクラリスを見つめた。

『まあ、良いでしょう』
 クラリスは乗気では無さそうだ。乗気でなくったって、クリラスは了承してんだ。早いとこ、実行に移そう・・・。
『クピ。異星体と異星体が体内に侵入したヒューマノイドを、恒星ヘリオスへ転送スキップしてくれ』
 俺はクピにそう指示した。

『はい・・・。したよ』
 あまりにも早い対応に俺は驚いた。
『何だって?』
『終わったよ。外を見てね。全て片づいてるよ』
 戦闘気密バトルスーツにバトルアーマーを纏ったクピのアバターが、シャッターの外を示した。

 銃眼となっているシャッターの隙間から外を見ると、倒したはずのヒューマノイドはいない。流れた緑かがった血液もない。
 と言うことは、Lの兄、茶居孝史が話していた異星体は、一匹残らず恒星ヘリオス(太陽)へ転送スキップ(時空間転送)されたのか?

『そうだよ~』
『クピ!こんなに簡単に片づくなら、エクスブローダーを打ちこむ必要は無かったぞ』
『あたしが現われる前だから、気にしなくていいんだよ』とクピ。
『まあ、そういうことだ。気にするな。バスコ』
 マリーは気軽にそう言った。

 あまりに簡単すぎる。こんなに簡単に片づくはすがない・・・。
 だが、クラリスが現れれば、こんなものか?なにせ、クラリスは電脳宇宙意識だ。それも宇宙意識が電脳意識空間を媒介にして現われている、電脳宇宙意識なのだから・・・。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み