一 惑星ナブール 転送品

文字数 5,069文字

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月十日。
 オリオン渦状腕深淵部、アッシル星系、惑星ナブール、ナブル砂漠、オアシスミルガ、モスク。


「J。Lから連絡だよ」
 PePeがLの4D映像をJの前に投映した。
「なんなの?やっと、ルペソ将軍を発見したんだよ!」
 Jは4D映像のLを見た。Lはグリーズ星系惑星グリーゼのグリーゼ国家連邦共和国にあるカンパニーの研究ユニットにいる。

 4D映像のLが伝える。
「4D映像が乱れやすいんだ。一ヶ所にいて欲しいんさ。
 今日は、やっと、見つけた・・・。
 ジェレミが永久幽閉の刑になったさ。恩赦は無しだ。
 精神と意識を石板に幽閉されて、共和国議会議事堂前の広場に敷設され、国民に踏みつけられるべ。永久に・・・。石板が精神ヒッグス場の役目をしてるべ。石板が割れれば、その時、精神と意識は消滅するべさ・・・」

「了解したよ。
 こっちは、ルペソ将軍を発見したよ。ルペソは、ここで武装勢力を指揮してるんだ。
 この惑星を掌握しようとしてる。
 ルペソをここから排除するのに、兵器が足らないんだよ・・・」
 衝撃波とともにモスクの壁が破壊して、Jの頭上に降ってきた。遅れて銃声が響いている。

「狙撃してきた!急いで、兵器を送ってね!」
「どこだ。そこは・・・」
 4D映像が乱れている。
「ここはアッシル星系の惑星ナブールだよ。
 ナブル砂漠、オアシスミルガのモスクにいるよ」
 4D映像が乱れて消えた。同時に、
「うわっ!」
 二発目の銃弾の衝撃波とともに、Jはのけぞったまま吹き飛んだ。

 だが、まもなく、
「ああっ!」
 Jは防御エネルギーフィールドに包まれたまま、瓦礫の中から跳び起きた。
「死ぬかと思ったよっ!
 ねぇっ、PePe!なんでなの?
 どうして、銃弾くらいで、シールドごと吹っ飛ぶの?」
「ごめんね、J・・・。
 シールドのアンカービームが、ロドニュウム弾の衝撃に耐えられなかったんだよ・・・」
 PePeがJの肩の上を浮遊しながら伝える。なんだかばつが悪そうだ。

「よ~し!もう、ゆるさないよ!
 狙撃手を攻撃するよ!」
「了解です!」
 PePeはJの肩に乗った。
「狙撃銃の銃身へ、砂をスキップしてね。それで・・・」
 Jは両手を握って開いた。
「ボムッ!」
 その瞬間、モスクの破壊された壁の間から数百メートル先に見える、レンガ建ての二階から煙が立ち昇って爆音が響いた。

「やったね!負傷者は?」
「コントロールポッドに守られたから、死傷者はいないよ。
 ねえ、J。PDから、荷物が届くよ・・・」
その瞬間、直径五メートルほどの金属球体のポッドが砂の上一メートルほどの空中に現れて砂地に着陸した。転送されたのは採掘用装備の人型搭乗可動式採掘装備だ。人型搭乗可動式コンバット装備、つまり人型有人機動兵器ではない。

「何だって、こんな装備なんだろう・・・」
 LとPDアクチノンのことだ。何か考えがあるんだろうな・・・。だけど、やっぱり、兵器が足りないよ。こんなんじゃ宇宙戦艦を攻撃できないよ・・・。

 そう思っているJの周りに、黒いバトルアーマーを身に着けた兵士たちが現れた。
「うわっ!PePe!攻撃して!」
 ルペソ将軍に先制攻撃されたぞ!完全にお手上げだ!武器が無い!PePeの時空間スキップ機能だけだ。何にもできないよ!

 慌ててPePeが状況を伝える。
「味方だよ~。惑星ガイアのトムソだよ。ニオブのニューロイドの特殊部隊だよ。
 ガルとレグと総指揮官のカムトは、宏治の息子だよ。Jの甥たちだよ」
「何だって?」
 Jは、どう見てもJより年上のカムトを見つめた。だけど、バトルスーツとバトルアーマーで目と目の周囲しか見えない。

「オレはカムトだ。俺たちはヘリオス星系惑星ガイアの、ニオブが精神共棲したヒューマの子孫だ。トムソと呼ばれてる。
〈アクチノン〉のPDアクチノンの要請でスキップした!
 装備と武器を持ってきた。これを着けてくれ」

 カムトは、回転楕円体型の転送カプセルを開いた。内部に、バトルスーツ、ロドニュウムバトルアーマーがある。バトルアーマーの装備は、MA24改多機能KB銃、MI6粒子ビーム拳銃、超小型ミサイルP型迫撃弾、超小型多方向多弾頭ミサイル・リトルヘッジホッグ、巡航ミサイル型手榴弾BB巡航弾、レーザービーム銃、コンバットレーザーナイフがある。


「バトルスーツとバトルアーマー自体がAIのPDだ。
 装備装着、と精神思考すれば、バトルスーツとバトルアーマーが自動で装着する。
 スーツとアーマーのPDが操作と我々に関する全てを説明してくれる。
 アーマーを外す時は、それなりに、思考すればいい」
 そう、カムトがJに説明した。

 Jは、甲冑を着こんだ惑星ガイアの中世の騎士みたいだと思って、バトルスーツとバトルアーマーに身を包んだカムトをじっと見ている。
 Jの視線に気づいて、カムトが言う。
「ジェニファー伯母さん、聞いてるか?」
 カムトを見つめるJは我に返った。

「伯母さんはよしてよ。あたしは十代だよ。
 どう見たって、あんたより若いよ・・・」
 あたしの時間感覚で、半月前までは確か一歳だった。
 そして昨日までは九歳だった。
 今は・・・・。
「十五歳だよ~」とPePe。

 カムトは苦笑した。時空間スキップをくりかえせば無理はない。時間的不均衡は免れない現象だ。その上、精神共棲が加われば、世代など有っても、無いのも同じだ・・・。

「あんたの精神と意識は、私の父の姉の耀子だ。
 バトルアーマーのPDは、あんたの育ての親のPDガヴィオンだ。
 PePeのPDはPDアクチノンだ」とカムト。

「ガヴィオンとアクチノンは艦艇名じゃないの?」
「古代の精神生命体だったニオブが、PDの名を艦隊の旗艦名にしたんだ。
 オレはトムソの総指揮官のカムトだ。
〈V1〉部隊はアリーが指揮官。パイロットはバレル。他に兵士三名。
〈V2〉部隊は、指揮官がミラ。パイロットはガル。他に兵士三名。
〈S1〉部隊は、指揮官はジョリー。パイロットはレグ。他に兵士三名だ。
 部隊名は、我々が使用している艦艇名だ。
 現在、我々の戦艦〈オリオン〉は惑星ナブールの静止衛星軌道上にいる・・・」
 カムトは空を指さした。Jは説明を聞きながら、バトルスーツとロドニュウム装甲のバトルアーマーを身に着けた。同時にガヴィオンのPDの精神思考がJの心に、精神空間領域に飛びこんできた。

『PD!久しぶりだね。あたしは元気だよ!
 また会えて、とってもうれしいよ!』
『活躍はPDアクチノンを通して見ていますよ。
 私とPDアクチノンはシンクロしてますからね』
『そうだったね』
『この惑星ナブールの状況を説明しますね』

 バトルスーツを介したPDガヴィオンによれば、アッシル星系惑星ナブールには三つの勢力が存在する。
 惑星ナブールの資源を独占して近隣惑星へ販売し、暴利を独占しているナブール政府。
 民主国家樹立を成し遂げるために政府に反発している、反政府勢力の国民戦線。
 犯罪者を兵員とする武装勢力。これをルペソ将軍が掌握している。

 近隣の惑星の勢力も三分化している。
 政府を支援して資源を輸入している、レッズ星系の惑星シンアとロッカール。
 国民戦線を支援する、ベスチ星系の、惑星コビアンとオセアン、エウロネ。
 武装勢力を支援する、各惑星の反政府勢力と犯罪組織。

 惑星ナブールの支配闘争に、惑星ナブールのみならず近隣諸惑星の利害が絡んでいる。
 周辺惑星の勢力は、惑星ナブールの動乱につけ込んで、惑星ナブールに侵攻しようと虎視眈々と狙っている。


 カムトが言う。
「過去、ガイアで似たような紛争があった。
 祖父母たちはPDガヴィオンに指示して、情報収集衛星からナノ単位に絞った強力なレーザービームで武装勢力の武器をことごとく破壊した。武装勢力がシールド技術を持っていなかったから可能だった。
 惑星ナブールに、まだシールドが存在しないが・・・・」
 しかし、惑星ナブールの衛星軌道上にいる戦艦〈オリオン〉から、ナノ単位に絞った強力なレーザービームで武装勢力の武器を攻撃はできない。
 アーク・ルキエフが意識内進入したルペソ将軍の武装勢力が壊滅すれば、政府勢力を支援する惑星と、国民戦線を支援する惑星の全面抗争へ進むからだ。その時、抗争は惑星ナブールの地上だろう。

「ダディーとマミーはどこなの?」
「このオアシスミルガにいるよ~」
「もしかして、ルペソ将軍に捕えられたの?」
「二人にもPePeがいるよ。安心してね」
 PePeが3D映像を投影した。DとKの3D映像だ。
「ここに銃声は聞こえないよ」とJ。
「二人はオアシスの東にいるよ。銃声は風の向きで聞こえないよ」とPePe。
 Jは空を見あげた。空には雲一つ無い。オアシスの西、ナブル砂漠の大きな遺跡から熱い風が吹いている。

 空を見あげるJの背後に、複数の陰が急接近した。頭上を無音のステルス型攻撃ヘリが飛んできた。高高度にはステルス型爆撃機とステルス型戦闘機がいる。攻撃ヘリの上空にステルス型の攻撃型兵員輸送機がいる。全て無音だ。

『政府軍だ!モスクと同化すると精神思考しろ!』
 カムトの精神波が響くと当時にトムソたちがモスクの壁へ散開した。
 Jは瞬時に、モスクと同化と心に思った瞬間。頭部アーマーのバイザーが閉じた。同時にバトルアーマーのシールドがモスクの壁に擬態した。

 政府軍の爆撃機が、一キロメートル以上先の大きな遺跡に巡航爆弾を投下して旋回した。戦闘機は遺跡へ巡航ミサイルを放って急上昇し、大きな遺跡から煙を立ち昇らせた。
 さらに、攻撃ヘリが低空から巡航ミサイルを放ち、遺跡は炎と煙に包まれた。
 政府軍の巡航ミサイルは小型だが強力で、攻撃を逃れる機動兵器をどこまでも追尾して壊滅している。
 遺跡近くに数機の兵員輸送機が着陸した。付近の小さな遺跡の陰へ兵士が散開している。


 センサーが大きな遺跡の煙の中に何かが光るのを感知して、Jとトムソのバトルアーマーが頭部装甲の遮光モードを強化し、位相反転シールドを多重強化した。
「武装勢力は、高度な兵力を持ってる!」
 カムトがそう伝える間に、大きな遺跡の煙から眩い閃光と、強力な電磁パルスが放たれた。その威力は電磁パルス魚雷を遥かに上まわっている
 一瞬に攻撃ヘリが墜落した。戦闘機と爆撃機が異様な飛行軌道を描いて、ナブル砂漠の彼方へ消え、煙が立ち昇った。追いかけるように爆発音が響いた。

『これでは政府軍に勝ち目はないな。国民戦線も勝ち目はないぞ・・・』
 カムトから失望の思いが伝わった。
『今まで戦闘が続いていたってことは、三つの戦力が同じってことだね?』
 Jが精神波でそう伝えた。

 惑星資源を独占販売して利益を独占しているナブール政府と政府軍。政府を支援して資源を輸入しているレッズ星系の惑星シンアとロッカール。

 民主国家の樹立をめざしている反政府勢力の国民戦線。国民戦線を支援するベスチ星系の惑星コビアンとオセアンとエウロネ。

 ルペソ将軍が掌握する、犯罪者を兵員とする武装勢力。

これら三戦力が均衡している。

『そういうことだ。対策を考えよう・・・』
 カムトがシールド内で固化して昆虫のサナギのようになった。
『うわっ!うわっ!急になんなの?』
 Jは仰天した。
『クリプトビオシス(乾眠)、思考中です』
 JのバトルスーツからPDがそう言った。

その時、子どものラプトがモスクの壊れた壁の隙間から顔を出した。
「見なくていい!頭を出すんじゃないよ!
 トムソは固化して黙っちゃうし、ガイドのラプトはチョロチョロするし・・・」
 Jは、モスクの壊れた壁の隙間から顔を出しているラプトの子どもの頭を、壁の間に押し戻した。その直後、衝撃音が耳元を掠めて銃声が響いた。
 百分の一秒でも遅れたら、こいつの頭は熟れたザクロだぞ・・・。
「お前はガイドなんだ。戦闘しなくていいんだから、隠れてて!」
 Jは、ふたたび壁から顔を覗かせようとする子ども、チョ・マンヌ・デ・ラプトスの頭を壁の間へ押し戻した。

 これまで、PePeの4D映像探査だけでは、武装勢力の細部までは知れなかった。そのため、オアシスミルガで、いちばん情報通だと聞いたラプト、チョ・トバイとチョ・マンヌのデ・ラプトス親子を雇った。だけど、親子そろって役立たず。足手まといだけだった。カムトたちが来たから、もう、ガイドの必要は無くなった。ダディーとマミーのガイドしている親父のチョ・トバイ・デ・ラプトスは生きてるかしら・・・。
 Jは、そう思った。
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