二 論文

文字数 1,269文字

 ガイア歴、二〇五七年、五月。
 オリオン渦状腕、ヘリオス星系、惑星ガイア、ハワイ、マウナケア天文台。


 一年後。
 ケプラーはプエルトリコのアレシボ天文台における
『SETI(地球外知的生命体探査 Search for Extra-Terrestrial Intelligence)』
 を高く評価して、賛同するコメントをあらゆる科学誌に表明した。AIクラリスから提案された、論文発表のための地盤固めである。
 そして、増加している出生率から、未来の人口増加と太陽挙動の異変から生じた異常気象による食糧難を懸念する論文、
『新たな地球外知的生命体探査と惑星移住計画』
 を、モリス・ミラーとAIクラリスの共著で作成し、雑誌ネイチャーに寄稿した。

 ネイチャーが発売されると同時に、ケプラーとモリス・ミラーとAIクラリスは論文についてBBCの取材を受けた。誰もが考えそうだが科学者が考えそうにない、的を射た、科学者としてはあまりにとっぴな論文だったからだ。


 ネイチャーを手にしたモリス・ミラーは、
「どう評価されるでしょうね?」
 宿舎の居間とも呼べる会議室のソファーに座って、TVを見つめた。論文がどのような反響を呼んだか、BBCで放送される刻限が迫っていた。

 マウナケア天文台の同僚たちは奇妙な気持で放送を待っていた。地球外知的生命体探査を提唱するなら、プエルトリコのアレシボ天文台が主流だ。マウナケア天文台はSETI(地球外知的生命体探査)とは無関係だ。
 ここマウナケア天文台には、
「論文に重きを置くなら、アレシボ天文台にゆくべきだ」
 と思っている観測スタッフもいる。彼らは、そうなれば、
「ポストが二つ空いて、単なるオペレーターから主任研究員になるチャンスが生まれる」
 と考えている。

 放送時刻になった。論文は大好評で、天文学学術会議はおろか、自然科学のあらゆる学術会議で興味を持たれていた。現在、行われているプエルトリコのアレシボ天文台における『地球外知的生命体探査』
 に加えて、さらに大々的かつ迅速に、
『新たな地球外知的生命体探査計画』
 を国際的に行おうとする段階にまで、科学者の意見がまとまった旨が放送された。

「やりましたね。博士!」
 モリス・ミラーが畏まってケプラーを『博士』と呼んで敬意を払っている。

「モリスとクラリスのおかげだよ。このままだと転属かな?アッハッハッ!」
 ケプラーは半分はジョークのつもりだった。
「惑星探査ですね」
 モリス・ミラーは本気に受けとっている。

 論文発表の成功を喜ぶ者。ポストが空くと出世をもくろむ者。転属に同行して新たな出世を試みようと考える者。純粋に論文を評価する者。マウナケア天文台の宿舎会議室は割れんばかりの大騒ぎになった。

 論文が認められた結果、天文学国際学術会議は、天文学者ジョージ・ケプラー博士と天文学者でありエンジニアであるモリス・ミラー博士を、プエルトリコのアレシボ天文台に転属した。二人を、
「新たな地球外知的生命体探査」
 の最高責任者と最高技術責任者に任命し、アレシボ天文台の設備拡充に乗りだした。
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