五 発進準備
文字数 1,985文字
ガイア歴、二八〇九年、七月。
位置 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング、静止軌道上。
商業宇宙戦艦〈ドレッドＪ〉。
パーティーは二十四時間続いた。クルーは酔いつぶれて〈ドレッドＪ〉は静寂に包まれた。ジョーはクラリスに警戒を促した。キティーの眼差しが緊張へ変った。
「次元変換して本来の時空間にジョーとキティーの睡眠画像を映してる。安心していいわ」
「俺たちは酔いつぶれて寝てる。これで二十時間ほどはじゃまされない」
ジョーは司令室の会議テーブルで、相向いにいるキティーを見つめた。
キティーはスタークラッシュのグラスを手にしている。
スタークラッシュは、果汁と各種香辛料を混ぜたアルコール五十五パーセントの酒だ。
一般カプラムにヒューマの麻酔薬は麻酔効果が少なく、香辛料は麻酔効果が激しい。
カプラムのニュカムはヒューマの麻薬と香辛料のどちらにも独自の解毒能力がある。キティーもジョーとカプラムのニュカムだ。
キティーはスタークラッシュを一口飲んで、溜息をつくように大きく息を吐いた。
「寝物語は何？あらためてプロポーズか？」
多少スタークラッシュのアルコールと香辛料が効いて、キティーはいたずらな眼差しをジョーに向けている。
「〈ドレッドＪ〉は、帝国の商業ギルド・アシュロン商会の所属になった。
実質はテスロン共和国の商業ギルド・アシュロン商会の所属だ・・・」
〈ドレッドＪ〉のクルーはカプラムだ。クルーの家族は惑星カプラムに居住している。テレス帝国が惑星ユングに築いた惑星ユングの首都アシュロンへ、家族を移動するわけにはゆかない。家族がクルーと行動をともにすれば、いずれ帝国との戦闘に巻きこまれる。
家族が惑星カプラムと惑星ユングのどちらにいても、惑星テスロンからの違いは三十光年と五光年の違いでしかないが、惑星カプラムに家族を残す方が、気持の上で戦闘に巻きこまれる可能性が低くなる。
「家族をユングへ呼びたいと思う者たちに、どう対応するかを考えねばならない」
ジョーにクラリスが事も無げに言う。
「距離に違いがあれば、対応する私に余裕が生まれるわ」
「あたしに、その者たちを説得しろってか？」とキティー。
「皆、晩年は郷愁に駆られる。カプラムは惑星カプラムへ帰りたいと思うだろう」
「あたしは艦があってあんたが居れば、どこだってかまわない。子どもがいるクルーも、皆、そう思ってる。
この艦の商業艦は建前だ。実際は商業艦を模した攻撃用宇宙戦艦で、スペースコロニー用宇宙戦艦でもあるんだ。そう説明したのは司令官のあんただろう？」
キティーはジョーに向って言い、苛立ちを隠すようにスタークラッシュを飲んだ。
確かにジョージだった当時のジョーは、ギリィにそう説明した。
「キティーは、クルーの家族をユングへ移したいか？」
キティーはジョーの考えがよくわかった。スキップはこの椅子から隣の椅子へ移るようなものだ。三十光年も五光年も大差は無い。キティーは、テレス帝国が惑星カプラムを攻撃する時、惑星ユングのアシュロン商会も攻撃すると考えている。
キティーはスタークラッシュを飲んで呼吸を整え、フロアを指さした。
「クルーにとって艦は我家だ。クルーの配偶者と子どもはここにいる。あんたのように。
だけど、テレス帝国軍との交戦を考えれば、可能な限り、クルーの一族をアポロンのスペースコロニーへ分散させるのが安全策だろうさ・・・」
「いい考えだ。スペースコロニーの住人なら、革命分子とは思われない」
スペースコロニーの住人は研究者が多い。テレス連邦共和国の再建などのような、惑星規模の不動産に興味を持つ者はいない。
キティーはさらに説明を続ける。完全にクラッシュを解毒している。
「スペースコロニーへ移住させる方法は・・・」
カプラム星系惑星カプラムに居住している〈ドレッドＪ〉クルーの親族は、八百年ほど前に惑星ガイアから入植したヒューマ、天文学者ジョージ・ケプラー博士と天文学者で天文エンジニアのモリス・ミラー博士たち、科学者やエンジニアの末裔だ。老いも若きも、みなそれなりに自然科学に多大な知識を持っている。テラフォーミングのエンジニアとして、いつでも活動できる者が多い。
キティーは、スペースコロニーに居住しているエンジニアの補給要員に〈ドレッドＪ〉クルーの親族を送りこもうと考えていた。
「この考えは認められるか？」
「すばらしい考えです。全員を一度に移動できません。数人ずつにしましょう。それなりに時間がかかりますよ」とクラリス。
「時間がかかってもいい。辻褄が合うよう、コロニーエンジニア補給要員の要請を変更してくれ」とジョー。
「わかったわ、ジョー。今から、実行する」
クラリスは空間に指を走らせ、コロニーエンジニア補給要員の要請計画を４Ｄ映像表示して、現れた項目を変更した。
位置 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング、静止軌道上。
商業宇宙戦艦〈ドレッドＪ〉。
パーティーは二十四時間続いた。クルーは酔いつぶれて〈ドレッドＪ〉は静寂に包まれた。ジョーはクラリスに警戒を促した。キティーの眼差しが緊張へ変った。
「次元変換して本来の時空間にジョーとキティーの睡眠画像を映してる。安心していいわ」
「俺たちは酔いつぶれて寝てる。これで二十時間ほどはじゃまされない」
ジョーは司令室の会議テーブルで、相向いにいるキティーを見つめた。
キティーはスタークラッシュのグラスを手にしている。
スタークラッシュは、果汁と各種香辛料を混ぜたアルコール五十五パーセントの酒だ。
一般カプラムにヒューマの麻酔薬は麻酔効果が少なく、香辛料は麻酔効果が激しい。
カプラムのニュカムはヒューマの麻薬と香辛料のどちらにも独自の解毒能力がある。キティーもジョーとカプラムのニュカムだ。
キティーはスタークラッシュを一口飲んで、溜息をつくように大きく息を吐いた。
「寝物語は何？あらためてプロポーズか？」
多少スタークラッシュのアルコールと香辛料が効いて、キティーはいたずらな眼差しをジョーに向けている。
「〈ドレッドＪ〉は、帝国の商業ギルド・アシュロン商会の所属になった。
実質はテスロン共和国の商業ギルド・アシュロン商会の所属だ・・・」
〈ドレッドＪ〉のクルーはカプラムだ。クルーの家族は惑星カプラムに居住している。テレス帝国が惑星ユングに築いた惑星ユングの首都アシュロンへ、家族を移動するわけにはゆかない。家族がクルーと行動をともにすれば、いずれ帝国との戦闘に巻きこまれる。
家族が惑星カプラムと惑星ユングのどちらにいても、惑星テスロンからの違いは三十光年と五光年の違いでしかないが、惑星カプラムに家族を残す方が、気持の上で戦闘に巻きこまれる可能性が低くなる。
「家族をユングへ呼びたいと思う者たちに、どう対応するかを考えねばならない」
ジョーにクラリスが事も無げに言う。
「距離に違いがあれば、対応する私に余裕が生まれるわ」
「あたしに、その者たちを説得しろってか？」とキティー。
「皆、晩年は郷愁に駆られる。カプラムは惑星カプラムへ帰りたいと思うだろう」
「あたしは艦があってあんたが居れば、どこだってかまわない。子どもがいるクルーも、皆、そう思ってる。
この艦の商業艦は建前だ。実際は商業艦を模した攻撃用宇宙戦艦で、スペースコロニー用宇宙戦艦でもあるんだ。そう説明したのは司令官のあんただろう？」
キティーはジョーに向って言い、苛立ちを隠すようにスタークラッシュを飲んだ。
確かにジョージだった当時のジョーは、ギリィにそう説明した。
「キティーは、クルーの家族をユングへ移したいか？」
キティーはジョーの考えがよくわかった。スキップはこの椅子から隣の椅子へ移るようなものだ。三十光年も五光年も大差は無い。キティーは、テレス帝国が惑星カプラムを攻撃する時、惑星ユングのアシュロン商会も攻撃すると考えている。
キティーはスタークラッシュを飲んで呼吸を整え、フロアを指さした。
「クルーにとって艦は我家だ。クルーの配偶者と子どもはここにいる。あんたのように。
だけど、テレス帝国軍との交戦を考えれば、可能な限り、クルーの一族をアポロンのスペースコロニーへ分散させるのが安全策だろうさ・・・」
「いい考えだ。スペースコロニーの住人なら、革命分子とは思われない」
スペースコロニーの住人は研究者が多い。テレス連邦共和国の再建などのような、惑星規模の不動産に興味を持つ者はいない。
キティーはさらに説明を続ける。完全にクラッシュを解毒している。
「スペースコロニーへ移住させる方法は・・・」
カプラム星系惑星カプラムに居住している〈ドレッドＪ〉クルーの親族は、八百年ほど前に惑星ガイアから入植したヒューマ、天文学者ジョージ・ケプラー博士と天文学者で天文エンジニアのモリス・ミラー博士たち、科学者やエンジニアの末裔だ。老いも若きも、みなそれなりに自然科学に多大な知識を持っている。テラフォーミングのエンジニアとして、いつでも活動できる者が多い。
キティーは、スペースコロニーに居住しているエンジニアの補給要員に〈ドレッドＪ〉クルーの親族を送りこもうと考えていた。
「この考えは認められるか？」
「すばらしい考えです。全員を一度に移動できません。数人ずつにしましょう。それなりに時間がかかりますよ」とクラリス。
「時間がかかってもいい。辻褄が合うよう、コロニーエンジニア補給要員の要請を変更してくれ」とジョー。
「わかったわ、ジョー。今から、実行する」
クラリスは空間に指を走らせ、コロニーエンジニア補給要員の要請計画を４Ｄ映像表示して、現れた項目を変更した。
