二十一 未来のあるべき世界の基礎

文字数 2,628文字

 二〇二五年、九月一日、月曜、九時。
 理恵の出勤後、出版社の木村から、月末に送った原稿の寸評メールが届いた。文章の最後に追伸があった。
「元気な様子に安心してます。いつものように忙しくなりました。N市に行けません」
 省吾は出版社の異変が解決したのを理解した。
 前回木村からメールをもらった時、自宅に誰かが侵入すると省吾は警戒したが、家に侵入した者はいなかった。省吾が家に居て侵入できなかったらしかった。

 省吾は日記を書くためデスクトップパソコンをスリープし、タブレットパソコンを起動して考えた。


 今日までの腐敗した政治の原因は議院内閣制を支配してきた官僚と官僚政治にある。
 官僚も議員もその多くが帝都大学卒で、学閥を成している。議員になる場合、国家公務員を辞めて議員になる場合か、元議員の二世三世が議員になる場合が多い。その結果、議員も大臣も、政治担当期間が短いため、帝都大学を卒業して定年まで政府組織を支配している官僚を動かせず、官僚に牛耳られた既存の政治体制のまま、政治が成されてきた。また、政治悪の元凶は、同じ大学の先輩だ後輩だとか、政党の派閥だとかの、儒教思想に影響された妙な仲間意識や同朋意識にある。

 学閥がない一般企業なら能力ある者が上に立ち、そうでない者はそれなりに下位にいる。
 官僚の世界は見栄があり、同期の官僚が上に昇ると、他の同期が他組織へ移動する天下りが慣例化されている。
 定年に達した公務員の天下りは官僚に限った事ではない。閣僚も議員も、企業に関連した国家法人を作って、昇格できなかった官僚と定年に達した公務員を再就職させ、企業に特権を与えて自分たちの天下り先の企業にした。
 閣僚と議員は不要な国家事業を画策して、天下り先の企業に利益をもたらし、国家法人を存続させて理事等に利益をもたらした。それら国家法人と企業は、官僚の天下りを率先して受けいれ、天下った人物を通じて、企業利益や法人の理事等に利益をもたらす政策を政府官僚に依頼し、政府官僚はそれなりの優遇策を講じてきた。
 政府でさえ、天下りを禁止すると言いながら、そのつど、名称を変えて官僚の再就職を斡旋する組織を政府内に作った。

 これまでの政治は国民のためではない。為政者が利権と利益を得るための手段だ。
 官僚が天下り先を作るため、仲間内で政府を好き勝手に動かしてきただけだ。今後、このような者を絶対に許してはならない。
 官僚と閣僚と国会議員と国家法人の理事やそれらに準ずる組織の幹部が、どれだけ高給を得ているか国民は実体を知らない。資本家や企業主や経営者が、実労せずに莫大な利益を得ているのも国民は知らない。

 二〇〇八年九月十五日、アメリカ合衆国の投資銀行、リーマン・ブラザーズが破綻し、世界的金融危機の引き金になった。確率論を無視した馬鹿げた金融工学の結果から、世界同時不況に陥ったが、合衆国は国際的な責任を取らなかった。これが日本国内で起こったなら、日本は世界各国から非難の的になったはずだ。
 合衆国の自動車会社が破綻した際、経営者は自家用ジェットで公聴会に乗りつけたが、大統領から批判されただけで、批判はその場だけに留まり、資本を持つ企業や経済界が政府より強い立場にある事実を示した。日本でも、外国人の雇われ経営者が私腹を肥やしたまま国外逃亡するなど、資本を牛耳る者の横暴は目に余る・・・。

 政治の裏に、得体の知れぬ存在がいる。俺と理惠を拉致しようとしたクラリックか?

 敗戦後以来、政府の背後には合衆国がいる。
 日本の原発は合衆国から導入した動力試験炉に始まり、イギリスから導入した原発で、東海発電所が商業発電を開始した事に始まる。
 日本には多くの河川があり、水源が豊富だ。ダムを作らなくても、小規模発電を多数行えば、水力発電でエネルギー供給可能なはずだったのに、経済界と政府はエネルギーの源泉を石油消費による火力へ向かわせ、原子力へ向かわせた。

 やはり、政治|と経済の背後に、得体の知れぬ存在がいる・・・。

 これまで日本政府は、民主主義を名乗ってはいるものの、民主国家でない資本主義国家である合衆国政府の動きに追随してきた。
 今後は、合衆国政府と日本政府に、これ以上馬鹿げた政策をさせてはならない。

 この考えはまちがっていない・・・。

 第二次大戦後の戦勝国の支配によって資本主義は市場経済へ移行した。
 表向きはグローバルな資本主義経済下の民主化などと言われたが、市場経済は大量の化石燃料を消費し、二酸化炭素を増加させて地球温暖化を引き起した。各国が、経済発展に伴う二酸化炭素発生量を削減しようと唱える中、合衆国にしろロシアにしろ中国にしろ、発生する二酸化炭素の削減に同意せず、今なお化石エネルギーを採掘して、自国の経済を潤そうとしている。

 グローバルな資本主義経済の発展の根幹は、経済格差だ。
 経済の発展は、資金援助や投資を受けた非資本保有層や発展途上国など経済発展途上フィールドからの、利息の回収による金融資本主義に根ざしている。資本家が発展途上の集団に資金を貸付けて働かせ、利益をむしり取っているに過ぎず、利益の多くが地下資源確保に当てられている。

 現在、グローバルな資源は友好的かつ有効的に使われなければならない時代だ。
 もはや、いつまでも第二次世界大戦戦勝国が、国連の安全保障理事国などと主張して、世界を牛耳る時代ではない。地球の資源は人類の共有財産だ。戦勝国が独占すべき物ではない。

 合衆国は国連加盟を求めるパレスチナに対し、自国の国益だけで拒否権を発動して、自国内の経済を牛耳るユダヤ人の顔色をうかがってイスラエルを承認し、世界平和から中東を遠ざけようとしてきた。。
 元を正せば、中東問題は第二次大戦中、連合国側がアラブ諸国とユダヤ人に、中東の同一の土地に建国を約束したのが原因だ。つまり、国家を持たなかったユダヤ人と、中東の部族国家のパレスチナ人を騙して同盟国側と戦わせ、連合国側が勝利した戦争だった。
 従って、金融資本主義思想のイスラエルを支持する合衆国が、パレスチナの独立を認めるはずがない。同様な事が、イスラム諸国の独裁政府に武器供与して民主化に反対する、ロシアと中国にも言える。

 マリオンは俺の考えを認めてる。マリオンは、戦勝国家の金融資本主義や利己的国家主義やクラリックと対立する・・・。
 省吾は【未来のあるべき世界】を考えながら、日記を書いた。
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