五 コロニー探査

文字数 3,804文字

 ニガル近郊のテーブルマウンテンの頂きから、〈ガジェッド〉の4D探査ビームがニガル近郊の入植コロニーへ走った。
 コクピットに、テーブルマウンテンに近いコロニーの4D探査映像が現れた。

「これ、見て!時間を溯るよ・・・」
 マリーは、4D探査映像に現れた、テーブルマウンテンに最も近いコロニーのドームを示した。
 時間を溯ると4D探査映像から一つのドームが消えた。ドームは直径8キロメートル、灰色のドームは他のコロニーと同じだが、波動残渣が示す、過去のコロニー群の4D映像に、マリーが示したテーブルマウンテンに最も近いコロニーは、存在しなかつた。

「このコロニーが現れたのは、何日前だ?」
「30日前だ・・・」
 マリーは4D映像を拡大した。
 直径8キロメートルのドーム内に町が現れた。ドーム内に、地下資源開発プラントはいっさい存在しない。あるのは見覚えない町の風景だ。

「これは・・・こんな町はこの惑星アルギランにも、惑星イオスにも無い。
 いったい、どこの惑星の町だ?」
 マリーは驚いている。

「もしかしたら・・・」
 バスコは思いあたることがあった。
 ここ惑星アルギランは、リナル銀河カオス星雲・アルギリウス星系の第二惑星だ。そして、故郷のイオス共和国がある惑星イオスは、リナル銀河カオス星雲・リオネル星系の第三惑星だ。

 かつての惑星アルギランは水の豊富な惑星だった。特に低緯度帯はアナウスのような亜熱帯の湿地で、植物は湿地特有の丈の短い植物が多く動物は水棲の種が多かった。
 そこで、イオス共和国はテレス連邦共和国を通じてオリオン国家連邦共和国にテラフォーミングの協力を求めた。
 なぜなら、オリオン国家連邦共和国のヒューマ(人類)は、ヒューマを入植させて食糧にしようとした、キトラ帝国の収斂進化した獣脚類のヒューマノイド、ディノスやラプトを壊滅してテレス星団に入植し、
オーレン星系惑星キトラを、カプラム星系惑星カプラムに、
ファレム星系惑星エルサニスを、フローラ星系惑星ユングに、
ファレム星系惑星レワルクを、フローラ星系惑星ヨルハンに、
 テラフォーミングして、現在のテレス連邦共和国に至った過去があるからだ。
 そして、オリオン国家連邦共和国の協力の下にテラフォームされた惑星アルギランは、人が住める惑星として現在に至っている。


「マリー。渦巻銀河ガリアナのヘリオス星系惑星ガイアのヒューマ(人類)の生活様式を探査してくれ。ドーム内の居住施設と同じ物があるはずだ」
「了解・・・・」
 しばらく4D映像探査した後、
「あったぞ。これだ・・・」
 マリーが探査4D映像をコクピットに投映した。

 渦巻銀河ガリアナ、オリオン渦状腕オリオン国家連邦共和国ヘリオス星系惑星ガイア中緯度帯の、植物が繁茂した地帯のヒューマ(人類)社会の家庭が現れた。


 ファミリーの父親らしき人物が、外出しようとしている娘に食器を洗うように命じている。三人家族だ。親子三人分だ。母親も父親もまだ外出はしない。父親と母親は何もしないで家にいるのに、父親は娘に、食器を洗うように強要している。しかも、食洗機があるのに、手で洗え、とである。父親と母親は何もしないで眺めているだけだ。

 娘は勤務先へ移動するため急いでいたが食器を洗った。
 結局、娘は利用交通機関に間に合わず、父親が送る羽目になった。

 利用交通機関から娘は知人に連絡する。知人は多忙だが、娘の連絡に応対すると、まもなく娘が勤務先につく時刻になった。知人が連絡を切り上げようとすると、娘は、
『交通機関が遅れているからまだ到着しない。話をはぐらかして連絡を絶とうとするな!』
 と怒る。 知人は憤慨しながらも、丁寧に話して連絡を絶つ。

 知人は思っている。
『あの娘の家族は、何かがおかしい・・・。一般的ヒューマ(人類)とは違う・・・』
 だが、知人は娘が居る時空間が、知人が居る空間と異なっているのに、気づいていなかった。

 勤務が休みの朝。娘は、
『クリニックへ行って薬を貰わなければならない日だが身体がだるくてベッドから起きられない』
 と知人に連絡する。

 知人が急ぐ薬か否か尋ねると、娘は、
『急ぎではない』
 と答える。
 知人は、それなら体調が良い時クリニックへ行けばよい、と連絡するが、娘は、
『勤務先へ提出する書類が必要なのでクリニックへ行く。
 身体のだるさは大したことは無い』
 と伝える。
 知人は娘の連絡に呆れながらも、無理はするな、気をつけてゆけ、と返信して連絡を終える。

 その後、娘から知人に連絡はない。どうしたのか、と思っていると、
『クリニックに着いた』
 と娘から連絡が来た。
 だが、娘は提出書類は持ってきたが、診察に必要な保険証の類をいっさい忘れたと伝えた。知人は連絡を聞いて唖然とする。
 これでは無理して出かけたことが無駄になる・・・。
 知人がそう思っていると娘から、
『なんとか診察をしてもらえることになった。薬の処方箋ももらえて、証明書も書いてもらえることになった』
 と連絡が来た。

 娘は持病があってクリニックへ定期的に通院している。
 クリニックへ行く時の必需品を常に携行するようにしているはずだが、こうしたことがしばしば起こる。
 知人は娘に、常に体調の記録と予定を日記に書け、と話して女は最近ようやく日記を書くようになった矢先の出来事だった。
 今日の予定と準備を女は日記を書かずにいたようだ・・・。俺の忠告は効果はなかった・・・。
 そう思いながらも知人は、何はともあれ診察を受けてその他の事が予定どおり進んだな、と思っていたが、診察時間が過ぎたはずの正午を過ぎても女から連絡はない。そこで知人は午後一時過ぎに女に連絡した。すると、
「なに?買い物中」
 と連絡が来た。知人はしばし呆然とした。こいつ、異常だ。物事の考え方がヒューマ(人類)とは違う。姿形はヒューマと区別はつかないが、ヒューマとは別の種族だ・・・。


 コロニーを4D探査しているマリーは感じた。
 この娘は異質だ。家族も異質だ。この異質はヒューマ(人類)の性質とは違う・・・。この者たちは、いったい何だ・・・。

 マリーの思考を感じてクピが言う。
「惑星ガイアのヒューマの亜種だよ。ヒューマ社会にヒューマの亜種の収斂進化したのが紛れて交配して、亜種はわからなくなったけど、また亜種が出てきたんだよ」
「先祖返りか?」
「そうとも言うよ。亜種は感情的で、独断的で、自分の事だけを考えてるよ」
「独裁者だな」
「そうだよ。そういう者を育てるのが、コロニーの目的だよ」

「コロニー内にいるのは、ヒューマでなくてエイプか?」
「そうだよ。確認のためにサンプルを取るね・・・・」
 クピは4D探査ビームを使ってコロニー内の者たちから、髪の毛や皮膚、体液などのサンプルを牽引ビーム捕捉した。
「すぐ分析するね」

 クピがサンプルを分析しているあいだに、バスコは、これまでに気づいたコロニー内の異変を話した。コロニーと呼んでいるが、実際はコロニー用の惑星移住用戦艦だ。

「4D探査映像の娘は、知人とどうやって連絡してるんだ?惑星ガイアは1700万光年の彼方だぞ!」
「惑星イオスのコンラッドにあるバスコの岩窟住居と同じだわ。
 ホワイトホールがあるよ」

 惑星イオスのコンラッドにあるバスコの岩窟住居は、新形態のホワイトホールを通じて、ドラゴ渓谷のネイティブ居留区にある祖父の岩窟住居と行き来できる。
 それと同じような物が、〈ガジェッド〉が着陸しているテーブルマウンテンの麓にあるとマリー言うのだ。

「うん。今までホワイトホールと呼んでたが、実際はワームホールだな。祖父ちゃんの岩窟住居へ行き来できるんだから。
 祖父ちゃんの家へ行って帰ってきたように、コロニー用の惑星移住用戦艦からの通信が惑星ガイアに行き来してるんだろうな・・・」
「飛行艇なんかも行き来してるんだろうか?」

 マリーがワームホールの大きさを気にして、4D探査映像のフォーカスをコロニーの道路がコロニーの隔壁部に繋がっている部部へ移動した。コロニー用の惑星移住用戦艦の一階の床がコロニー内の地面だ。そして道路が一階の地面からコロニー隔壁に延びている。そこには、渦巻く漠とした平面を垂直にしたような半円形のトンネルの入口に似たような物がある。

「わからない。まずは、ミッションを実行しよう」
 バスコはそのトンネルの入口に似たような物がワームホールの入口と精神波思えなかった。
「了解。車両ごとスキップするしかない・・・・」
 マリーは考えこんでいる。〈ガジェッド〉と集団通勤用の車両を比較したら、〈ガジェッド〉の方が遥かに質量が大きい。集団通勤用の車両を充分に転送スキップ(時空間転送)できる。
「ワームホールの出口を換えたらどうなの?」
 クピがサンプル分析の合い間にそう言った。
「そんな事が可能か?どうやってするんだ?」
「恒星アルギリウスへ4D探査(素粒子(ヒッグス粒子)信号時空間転移伝播探査)ビームを送って、亜空間内にビームの波動残渣を残すの。いくつもだよ。そうするとワームホールの方向が波動残渣の斥力で弾かれるから、たくさんビームを放って ビームの波動残渣で、ワームホールを囲うようにするんだよ」

「わかった。やってみよう」
 バスコとマリーは納得した。集団通勤用の車両を一台ずつ恒星アルギリウスへ転送スキップするより、罪悪感が薄れる。 

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