二十一 作戦

文字数 2,600文字

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月七日未明。
 オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、リブラン小惑星帯。
 小天体ケクレ近傍、戦艦〈プロミナス〉。


〈プロミナス〉のブリッジに、執務デスクのシートに座る3D映像のルペソ将軍が現れた。
 カムトンは打合せどおり、行政官カムトン・リブラン・アライス、と名乗って挨拶し、リブラン王国の現況を説明した。
「したがって、現在、デロス帝国の二艦隊は惑星ダイナスに留まっている。
 今後、どのように侵攻するか、不明だ・・・・」
 話している途中から3D映像が乱れてルペソの姿が消えた。

「惑星ダイナスからの妨害です。すでに、こちらの亜空間転移ターミナルを閉鎖し、波動残渣を時空間スキップで消去しました」
「ありがとう。ディアナ。
 マスタープロミドンを呼んで欲しい。
 可能なら、Jも来てもらってくれ」とプロミナス。
 Jは過労気味と言っていた。列席は無理かもしれない。マスタープロミドンが事態を把握すれば、Jに伝えて対処できる。
「了解しました」

 ブリッジに、PDのアバターの3D映像が現れた。
 PDはすでにディアナを通じて、グリーゼ国家連邦共和国内の全状況を、〈プロミナス〉のプロミナスたち指揮官と、ディアナたち各艦AIに伝えている。

「打合せどおり対応していただき感謝します。Jは過労で就寝中です。
 皇帝は、グリーゼ艦隊を誘きだして潰滅しようと考えています」
 皇帝ホイヘウスの目的は、グリーズ星系主惑星グリーゼとモンターナ星系惑星グリーゼ13の制圧だ。この二惑星を制圧すれば、グリーズ星系とモンターナ星系を支配できる。

「では、リブラン攻撃は、何だ?」とプロミナス。
「簡単にリブラン王国を制圧できると考えていたのです・・・」
 しかし、惑星ダイナスの亜空間転移ターミナルと、ホイヘンス艦隊のスキップドライブを攻撃されて皇帝は矛先を変えた。リブラン王国が帝国に宣戦布告したと虚偽を伝え、グリーゼ国家連邦共和国に軍事要請した。
 ジェレミ対策評議会議長とルペソ将軍は独断で、グリーゼ艦隊をグリーズ星系とデロス星系とリブライト星系の星系間ラグランジュポイントへ出撃させる意向を固めた。出撃は主惑星グリーゼ時間〇六〇〇時だ。グリーゼ艦隊の出撃はデロス帝国の思う壺だ。デロス帝国はグリーゼ艦隊を壊滅して、主惑星グリーゼへ侵攻する気だ。
「皇帝はモーザを使うはずです。帝国の兵器でグリーゼ艦隊の亜空間スキップを越える能力を持つのはモーザだけです」とPD。

 モーザは集合一体化して兵器に変態する。使うのはビーム兵器だ。他に何をするのだろう・・・。カムトンはモーザの機能を想像できない。

 突然、PDの隣りにJの3D映像が現れた。
 Jの周りを見て、プロミナスたち指揮官はギョッとした。球技用のボールやロドニュウム鉱石の塊やシートが、小動物のように動きまわって何か喚いている。

「みんなに、紹介するね。
 モーザPePeとメテオPePeとC1だよ。
 ディアナと同じ、PDのサブユニットだよ」
「みなさん、こんにちは。ぼくたち、PDのサブユニットです!」
 JとPePeたちとC1たちは、指揮官たちとディアナたちに挨拶した。
「PePeたちとC1たちが、ディアナとみんなに説明しろってうるさくて、目が覚めちゃった。まだ、夜が明けないのに~」
 PePeが、
「ぼくたちがたくさん集まると、PDと同じ能力を使えるんだ。
 僕たちの人格はPDの一部だ。ディアナたちの部分と同じなんだ。だから、たくさん集まれば、PDに匹敵するんだ」
 と説明した。
 PePeたちとC1たちはJにまとわりついて笑っている。

 Jは説明する。
「PePeの機能はモーザを越えるけど、類似点があるよ。
 モーザが集まれば、モーザは、メインユニットのユリアと同じ機能を持つよ。
 だから、デロス帝国は、グリーゼ艦隊を、モーザで壊滅する気だよ」

 ルペソ将軍とジェレミ対策評議会議長は、共和国議会議会議長であるカンパニーのCEOのLと対立している。カンパニーがグリーゼ艦隊の出撃中止を勧告しても、ルペソ将軍とジェレミ対策評議会議長は聞きいれないだろう。そして、PDの人格に関する情報は、カール大佐が胸の内に納めたまま、共和国防衛軍上層部へ伝わっていない。PDからの勧告も不可能だ。

「星系間ラグランジュポイントに現れるモーザを、メテオライト攻撃しよう」とカムトン。
「モーザはグリーゼ艦隊を攻撃するために、グリーゼ艦隊と同時にスキップするはずです。
 リブラン王国の惑星ラグランジュポイントを防衛したように、グリーゼ艦隊の移動目標宙域を、宙域機雷と巡航ミサイルで防衛した場合、スキップしてくるグリーゼ艦隊を破壊する可能性があります。
 モーザを潰滅しても、デロス帝国が。グリーゼ艦隊をメテオライト攻撃するか、次のモーザ攻撃をする可能性があります」
 とPD。

「ねえ、PD。〈グリーゼ〉とモーザとPePeの、スキップ速度の違いを教えてね。
〈グリーゼ〉のAIグリーゼとユリアとPDの、処理速度の違いも教えてね」
 これまで、スキップドローン〈スキッパー〉やPePeを開発する時、Jは自己理論の実証を何度もくりかえして実際に活かしてきた。今も、次の行動をいかにするか考えながら、おおよその見当をつけて質問している。

「Jの想像どおり、スキップ速度はPePeが最速です。次がモーザ、〈グリーゼ〉。
 処理速度は、もちろん私が最速です。次が〈オータホル〉のユリアです。そして〈グリーゼ〉のグリーゼです」

「確認するよ。ここのセキュリティーは完全なの?」
 Jは〈プロミナス〉のセキュリティーをディアナに確認した。
「安全ですよ。デロス帝国は時空間転移伝播探査できません。
 仮に探査できても、この〈プロミナス〉に侵入するのは不可能です」とディアナ。
「そしたら、どうするか、説明するよ。PePeの・・・・」
 Jの説明に、指揮官とディアナたちは言葉を無くした。

「だいじょうぶだよ~。
 何かあれば、PDやディアナたちが、コントロールポッドとPePeたちを回収するよ~。
 PD。ディアナたち。そうだよね」
「そうですね」とPD。
「そっ、そうです。もちろん、そうです・・・」
 ディアナは言葉を無くしている。
 Jは思いきった考えをするヒューマだ。いや、ヒューマの精神だけではない・・・。
 プロミナスはJに、只ならぬものを感じた。
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