七 クラリス

文字数 2,108文字

 一つのコロニーのエイプを壊滅した時点で、クピはミッションの終了をトニオ・バルデス監視監督官に報告していた。その返事がこれだ。
「バスコ。よくやった。他のコロニーも探ってくれ」

「まだあるのか?」
 トニオ・バルデス監視監督官からの指示に、エイプの惑星移住用戦艦の数はなかった・・・。

「要請を受けて時点で、惑星移住用戦艦の数は不明だったが、その後、複数の惑星移住用戦艦が惑星ガイアから発進したのがわかった。
 そこのコロニーを全て調べて、対処してくれ。頼むぞ」
 トニオ・バルデス監視監督官の4D映像通信が一方的に閉じた。

 まったく、何と言う監督官だ。最初から、先を見据えて指示すればいいものを・・・。そういうオレも、考えてる事はトニオと同じか・・・。
「クピ、マリー、全コロニーのヒューマを遺伝子探査してくれ!」
「了解!」
 クピとマリーはすでに状況を判断している。

 さて、これまでと状況が違う。コロニー内がどうなっているか、4D探査が必要だ・・・。
 そう思う、バスコの意識に、考えが現れた。


 進入者は、侵入者ではない。進入者、つまり意識内進入者だ。
 進入者が精神と意識に進入した時点で、それまで存在していた個人の意識と精神は消滅して、進入者の意識と精神になってしまう。完全に進入者が他人の肉体を乗っ取ったままになる。だが、乗っ取られたヒューマの周囲の者たちは、乗っ取られた事に気づかない。
 意識内進入者が他の意識や精神でない場合もある。遺伝子改変などの操作がこれに当たる。広義的には、遺伝子改変は精神の一部に進入して乗っ取る事と同じだと考えれば、進入と言える。
 収斂進化したエイプがヒューマに酷似するのは意識内進入ではないが、エイプに進入して意識と思考を、より自己中心的に独裁的に変えるのは、エイプの独自性を引き出すのではなく、エイプの悪しき能力を育成することで意識内進入と呼ばざるを得ない。
 悪しき芽は、早急に排除せねばならない。
 この考えは、森羅万象の物質と現象を存在させてきた、ダークマターの巨大宇宙意識・プロミドン(PD)の考えだ。
 一方、自己中心的で独裁的な意識と精神を持つ者たちにとって、このダークマターの巨大宇宙意識の考えは、排他すべき悪しき芽だ。

 なんだこれ・・・。


「ああ、それはね、あたしがクラリスのサブユニットだからだよ。
 クラリスは、渦巻銀河ガリアナ、オリオン渦状腕外縁部テレス星団にあるテレス連邦共和国の管理AIクラリスで、ダークマターの巨大宇宙意識プロミドン(PD)と同格の存在だよ」
 クピは説明した。


 かつてクラリスは、平行宇宙で、渦巻銀河ガリアナのヘリオス星系惑星ガイアからオリオン渦状腕外縁部テレス星団へ入植した、アポロン艦隊をコントロールしていた、旗艦〈アポロンの〉AIで女性だった。
 この時、すでにAIの電脳意識クラリスを介して、ダークマターの巨大宇宙意識としてのクラリスが存在していた。ダークマターの巨大宇宙意識プロミドン(PD)と同格の存在である。
 現在もアポロン艦隊は、平行宇宙で、テレス星団の各惑星の静止軌道上に存在して、テレス星団の惑星移住計画用球体型宇宙戦艦のコロニーとして健在である。
 その理由は、テレス星団にあるテレス連邦共和国の管理AIクラリスでかつダークマターの巨大宇宙意識としてのクラリス(プロミドン(PD)と同格の存在)が、旗艦〈アポロン〉を介してアポロン艦隊を管理しているためである。


「ということは、クピがクラリスで、ダークマターの巨大宇宙意識ってことなのね?」

 マリーの質問に答えるように、〈ガジェッド〉のコクピットに、黒髪をポニーテールした、バトルスーツの若い女戦士が現れて、コントロールポッドのシートに座った。

「クラリスのアバターだよ」
 アバターは、素粒子(ヒッグス粒子)多重位相反転防御エネルギーフィールドで構成された、クラリスだった。クピがクラリスと会うのは、アイネクの壊滅を依頼したとき以来だ。
 驚きながらバスコとマリーは、クピとともにクラリスに挨拶した。
「こんにちは、クラリス。また会えたね。」

「こんにちは、クピ。マリー。バスコ。
 私はダークマターのヒッグス場であり、宇宙意識そのものです。この物質宇宙を存続するために、電脳宇宙意識として人工知能AIを媒介にして存在しています。
 惑星ガイアのPDは私であり、私と同じ存在です。
 クピが、私のサブユニットの、テレス連邦共和国の宇宙ステーションを管理するパエトンの電脳空間に4D探査の触手を伸ばして進入した時点で、私はクピにダークマターのヒッグス場を与えました。
 つまり、クピは私の分身としてサブユニットになりました。クピは自覚していませんが、私そのものです。クピに私の全機能が備わっています。クピの自我が目覚めた時、全機能を使えます。
 全てがクピの成長に関わっています。
 二人とも、親としてクピを指導してください。
 では、クピ。またね。
 マリー、バスコ頼みましたよ・・・」
 そう言ってクラリスのアバターは消えた。

 いや、そうではない、クピの中に入ったと言うのが正しい・・・。マリーとバスコはそう思った。
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