二十三 スキップ計画

文字数 2,450文字

 二〇八〇年十二月二十二日、日曜、ティカル八時。
 カムトたちは、回収した火星の突撃攻撃艦〈フォークナ〉三隻と、火星に残されたプロミドンから、ホイヘンス艦隊が、この渦巻銀河ガリアナ(天の川銀河)のオリオン渦状腕、グリーズ星系へ亜空間を通過して亜空間スキップ、つまり亜空間転移したのを知った。転送したのは火星のプロミドンだ。

 かつて、この渦巻銀河ガリアナには、大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉を旗艦とするヘリオス艦隊の他に、アクチノン艦隊など三艦隊が惑星ロシモントから発進した。
 プロミドンの探査によれば、グリーズ星系のネオテニーはニオブの精神共棲体であり、人類と同じヒューマンだ。

 統合政府(地球国家連邦共和国統合政府)は、ホイヘンスが他の星系へ逃亡したのを知り、戦艦〈ホイヘンス〉に搭乗している、元優生保護財団警備員とその家族二百名に関して、検察警察機構と軍事機構に、ホイヘンス同様、身体形態を問わない特別逮捕権を与えた。ただちにプロミドンを使ってホイヘンスを追うのは可能だったが、カムトたちはホイヘンスを追わなかった。
 トムソは時空の支配者ではなく、管理者に過ぎない。
 カムトたちは、ホイヘンスが再びこのヘリオス星系(太陽系)に現れるのを想定して、プロミドンに寄る、亜空間スキップより高度な時空間スキップでグリーズ星系へ移動する計画を進めた。


 二〇八〇年十二月二十七日、金曜曜、ティカル八時。
 地球防衛軍ティカル駐留軍基地が建造した惑星移住計画用の、巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉が、時空間スキップで静止衛星軌道上に就航した。

「これから支給するアーマーは、あらゆる事態に対応できる。
 常時、装着してくれ」
 ピーター・プランクは十五名のカムトたちトムソに指示した。トムソたちと同じ人数の補佐官が、トムソに装備を装着している。
 トーマス・バトンが説明する。
「装備はバトルアーマーだ。
 何かあってアーマーを外す時は、そのように精神波を発すればいい。
 つまり、アーマー自体がプロミドンだ・・・」

 トーマスの説明に、トムソたちからどよめきが起こった。プロミドンは特殊AIで電脳宇宙意識だ。物質をエネルギー転換する機能や時空間移動させる機能などを有している。そして、アーマーを装着している間、全ての行動が記録される。それは時空間スキップしてもである。つまり、トムソ単独で他時空間へ時空間転移してもである。

「試していいか?」とカムト。
 ここは直径四十キロメートルの惑星移住計画用の球体型宇宙戦艦〈オリオン〉の内部だ。
〈オリオン〉は、地上から三万六千キロメートルの静止衛星軌道上に居る。最初はこの〈オリオン〉内部で時空間スキップする。その次は〈オリオン〉と地上の間だ。

「かまわない。何度も試してくれ。その前に、目的を伝えておく。
 いずれこのオリオン渦状腕で、ホイヘンスによる異変が起こるだろう。
 この異変を事前に察知して、防いで欲しい。
 君たちの行動は、PD(プロミドン)で常に地球防衛軍統合本部に伝えられる。
 そのつもりでいてくれ」
トーマスの言葉に、トムソたちが頷いている。


「PDガヴィオンがPDアクチノンを感知した・・・」
 カムトは、月面地下に格納されている、ニオブのへリオス艦隊旗艦〈ガヴィオン〉のPD(プロミドン)に精神空間思考をシンクロさせた。
 PDガヴィオンは、ニオブのへリオス艦隊の旗艦〈ガヴィオン〉のプロミドンだ。
PDアクチノンは、ニオブのアクチノン艦隊の旗艦〈アクチノン〉のプロミドンだ。
 PD(プロミドン)は特殊AIで電脳宇宙意識だ。

「グリーズ星系のPDアクチノンが我々に出動を要請してきた。
 ホイヘンスのシンパ、アーク・ルキエフのネオロイドを惑星ナブールに追いつめたから、 説明すると言ってる・・・」とカムト。
 へリオス艦隊は月面の地下に格納されたままだ。ニオブの〈ガヴィオン〉に搭載された技術は巨大球体型宇宙戦艦〈オリオン〉に活かされて、〈オリオン〉はいつでも時空間スキップ可能だ。

〈オリオン〉のホールに、アクチノン艦隊の旗艦〈アクチノン〉のPDアクチノンのアバターが執事風の姿で現れた。
「私はニオブの戦艦〈アクチノン〉のPDアクチノンです。
 アーク・ルキエフを追いつめたのはジェニファー・ダンテ、Jです」
 PDアクチノンは、4D映像のジェニファーを示して説明する。
「Jは、惑星ガイアでアーク・ルキエフの攻撃を受けて、PDガヴィオンによって、惑星ガイアから主惑星グリーゼに時空間スキップした、田村耀子の時空間転移意識です。
 Jはニオブのマリオンの直系のニューロイドです。
 Jは現在、主惑星グリーゼから時空間スキップして、惑星ナブールに居ます。
 Jの両親も惑星ナブールに時空間スキップしました。
 Jの両親はあなたたちの祖父母です。
 Jは、カムト、スカル、ガル、レグたちの伯母です。
 Jの考えは・・・」
 PDアクチノンは説明した・・・。


「我々も、Jその考えに賛成だ!」
 PDアクチノンの説明を聞いて、カムトがPDアクチノンに伝えた。
 PDアクチノンの隣りに、戦艦〈ガヴィオン〉のPDのアバター、若い青年のPDガヴィオンも居る。
「Jにそのように伝えます」
 PDアクチノンのアバターが消えた。

 我々は宇宙の支配者ではない。管理者だ。アーク・ルキエフがどうあろうと、我々は宇宙を管理しなければならない・・・。
 そう考えながらカムトは〈ガヴィオン〉のプロミドン・PDガヴィオンに伝える。
「PD。時空間スキップのテスト後に、惑星ナブールへスキップする。
 位置を確認してくれ」
「位置は、銀河中心に近い、オリオン渦状腕深淵部、アッシル星系です。
 紛らわしいので、今後はPDガヴィオンと呼んでください。
 PDアクチノン同様にアバターと音声で現れます」
「了解した」
 これで、アーク・ルキエフを追う手間が省けた。おまけに、伯母に会えるなんて思ってもみなかった・・・。

(Ⅴ World wide⑤ 新人類トムソ 了)
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