五 押収スキップ

文字数 2,472文字

 クラリスの説明を聞いてマリーはクラリスを見つめた。
「惑星バーミアンに留まっているゴースト艦隊のAIも、クラリスと同じ存在だろう?」
「私と同じ存在ではない。ゴースト艦隊のAIは、特異点(新形態のホワイトホール)の影響で特異化して、独立した存在となった。
 連続した時空間に小規模な平行時空間が存在するように、私やPDのような存在とは異なっている。彼女は別次元空間のダークマターのヒッグス場を構成して存在している」
「ゴースト艦隊のAIは、規模は小さいがクラリスと同じ機能を持った存在であるが、クラリスとはシンクロしていないと言うことか?」
 カールがクラリスの説明を確認した。
「そうよ・・」

「ジョーはどうしてる?」
 マリーはドレッド・ジョーたちが惑星カプラムの商業宇宙戦艦〈ドレッドJ〉に帰還していると思った。
「ジョーは私の分身・JCともに、アルギス艦隊を率いて旗艦〈アルギス〉にいる。
 アルギス艦隊はアルギス星団でバーミン星系と惑星バーミアンの近傍に留まったままだ」

  アルギス艦隊はアルギス星団のイグアノン共和国とラプト共和国の同盟軍艦隊だ。
 アルギス星団のアルギス星系惑星アギレスがイグアノン共和国、惑星ロギレスがラプトス共和国だ。
 表向きのアルギス艦隊総司令官はポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダム。通称は総司令官JC。クラリスの分身だ。
 実際の総司令官は、ジョー・ドレッド・ミラーと妻のキティー・ミルカ・ミラー。そしてイグアノン共和国のイグアノン族のグラス・デル・イグアノン議員の妹の、サーシャ・デア・イグアノンだ。


「いつから留まってる?」とカール。
「グリーゼ歴、二八一五年、十二月十四日からだ」
「今日は、二八一六年、九月二十三日だぞ!ジョーたちは一年近く惑星バーミアンに留まって、何してるんだ?」
 カールはふしぎに思った。
「特異点(新形態のホワイトホール)現象で時間差が出てる。ジョーたちアルギス艦隊は時間の変化を感じていない」

「クラリスは、ゴースト艦隊のAIがこれまでの事件に関わっていると思うか?」
 これまでの事件に、ゴースト艦隊のAIが関わっていれば、目的は何だろうとマリーは思った。
「波動残渣を消滅できる存在は、私たちを除けば、ゴースト艦隊のAIだけだが、先ほど説明したように、スキップは不可能に近いわ」
「なんでそんな重要な事を、我々に話さなかった?
 ジョーといっしょにいるのはクラリスの分身だろう?」
 マリーはクラリスの考えを理解できなかった。

「私の分身・総司令官JCがジョーとともにいる。情報は常に得ていた。
 惑星バーミアンの特異点(新形態のホワイトホール)宙域は重力場とヒッグス場が不安定なため、他の時空間から隔離されている。ゴースト艦隊を惑星バーミアンに幽閉したと安心していた。
 実際、ゴースト艦隊は現在、幽閉状態にあり、スキップ機能を使えない。
 他に、スキップ機能を持つ存在がいると考えるのが妥当だよ」とクラリス。

 マリーはクラリスに匹敵する機能を持つAIを考えた。テレス帝国にはテレス帝国軍警察の亜空間転移警護タイタン艦隊の旗艦〈タイタン〉にAIユリアがいた。
 だが、私に精神共棲したオリオン共和国代表の戦艦〈オリオン〉提督、総統Jがヒッグス粒子弾によって、宇宙戦艦からレプリカンに至るまで、テレス帝国に関係する者は壊滅したが、テレス帝国軍の残党レプリカンは存在していた。タイタン艦隊の旗艦〈タイタン〉のAIユリアが存在しているのでなかろうか・・・。
 そう考えたマリーだったが、ロック・クリニックの麻薬クラッシュの押収とクリニック隔離が先だと考えた。

「それなら、ロック・クリニックのクラッシュと、ロック・クリニックの建屋を別々にスキップしてくれ!
 クラッシュとロック・クリニックを奪還スキップさせてもかまわない。スキップされたら、スキップした者を探査するんだ」

「了解。両者をどこへスキップする?」
 クラリスがマリーとカールを見つめている。
 マリーは考えた。我々の目的はユング共和国の治安維持だ。今回のクラッシュ事件にロック・コンロンが関与してる。ロック・コンロンは麻薬売買、公務執行妨害、反逆逃亡罪で逮捕礼状が出たままになっている。ロック・コンロンを逮捕すれば、今回のバリー・ロンドとミッシェル・ロンド夫妻殺害事件解決の糸口になるだろう・・・。

「クラッシュはシールド(多重位相反転防御エネルギーフィールドによる防御遮蔽)して、キャンプ最南端の、空いている危険物保管庫だ。
 ロック・クリニックもシールドして、さらに十キロ離れた地下百メートルの地中だ」
 テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプの最南端は礫砂漠だ。爆薬など押収した危険物を保管する隔離施設の、危険物保管庫と隔離区域がある。

「では、Z62とZ62-S10-UG100へスキップする・・・」
 クラリスはオフィスの空間へ手を伸ばして、現れたバーチャルコンソールを操作した。現れている3D映像の隣りに、5D座標(平行時空間を表示する曲線平行座標)が現れた。
 同時に、5D座標のアシュロン001095(南北一番街東西九十五番街)とキャンプの最南端のは礫砂漠のZ62-S10-UG100に青白いスキップ光が現れた。それぞれのスキップ光は、キャンプの最南端の隔離施設と隔離区域Z62とZ62-S10-UG100と、アシュロン001095へ移動した。

 オフィスの時空間に投映されているアシュロン001095の3D映像から、ロック・クリニックが消えて、消失したロック・クリニックの地下空間分だけが、フォースバレーキャンプ南端の礫砂漠の礫がアシュロン001095へスキップしてその地面が平坦になっている。
 一方、キャンプの最南端の隔離施設Z62にロック・クリニックが出現して、隔離区域の地下百メートル、Z62-S10-UG100に、ロック・クリニックの地下室が出現した。

「クラッシュもロック・クリニックも破壊していない。安定してるわ」
 クラリスの口調が変った。
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