五 亜空間航行

文字数 2,645文字

 ヘリオス艦隊の亜空間航行にともない、4D映像に現れた艦隊進路前方に漂う無数の銀河は一瞬にぼやけた。同時に、銀河の放つ光は、艦隊を覆う光のパラソルへ変化し、艦隊進路前方に急激に広がった。進路後方の銀河は、無数の赤い筋に変化して艦隊航跡を中心に集まり、漆黒の空間に色彩を無くしていった。

 ヘリオス艦隊の速度が増すと、進路前方の眩い覆いは、さらに眩い光の曲面に変化した。
 数々の銀河は凄まじい速度の眩い光線となって、光の曲面の中心から四方へ移動し、時空間はさらに広大な光の平面に変わった。進路後方は、赤い筋状になって光を失い、時空間から消えていった。

 防御エネルギーフィールドに包まれた艦内から、直接、この時空間の織りなすドップラー現象は認識ではなかった。今は、コントロールデッキの4D映像から記憶に留めるだけであり、直接、認識できるのは、自己のエネルギーレベルが高まって、単独で存在できる精神エネルギー体になり得る未来のことだろう。


 ヘリオス艦隊が移動速度を減少させた。時空間は眩い光の曲面から虹色の覆いに変り、さらに、大きな光の集合になって光の粒子に変化した。膨大な数の光の粒子は大きく渦巻いて円盤状の姿を鮮明に現した。約百億個の恒星系を持つ目標の渦巻銀河ガリアナだった。

 ヘリオス艦隊は、ガイア時間にして数万光年の彼方から、ガイア時間にしてて直径十万光年にもおよぶ渦巻銀河ガリアナの膠着円盤を、ガイア時間にして数万光年の彼方から見る位置に停止した。
 5D座標によれば、他の四艦隊もこの銀河をガイア時間数万光年の彼方から見る位置に停止して、目標の恒星系へ再発進する段階にあった。

 目標とするヘリオス星系は、我々の目の前に位置した渦巻銀河ガリアナの中心からガイア時間三万光年ほど離れた銀河赤道円盤上にあった。

 ヘリオス艦隊の亜空間航行は時空間瞬間移動だが、クルーは精神エネルギーを使い果たして疲弊していた。移動によって使い果たされた精神エネルギーの減少から、ヘリオス艦隊の眩い輝きは薄れ、今は各艦艇の形と大きさをはっきり識別できた。

 ヘリオス艦隊は大司令艦〈ガヴィオン〉を中心に、突撃攻撃艦〈フォークナ〉四隻、攻撃艦〈ニフト〉一隻、回収攻撃艦〈スゥープナ〉一隻の計六隻の副艦と百六十隻の搬送艦、小型偵察艦二十隻から成りたっている。
 艦隊中央の大司令艦〈ガヴィオン〉は八個の曲面を持つアステロイド型幾何学立体で大きさは二十キロレルグ、約二十キロメートルにおよぶ。
 回収攻撃艦〈スゥープナ〉は、プロミドンのような八面体形状(ピラミッド形を底面同士で二個くっつけた形状)で八個の曲面を持つ幾何学立体で、機能上、〈ガヴィオン〉に匹敵する二十キロレルグの大きさだ。
 攻撃艦〈ニフト〉は五キロレルグ。四隻の突撃攻撃艦〈フォークナ〉は三キロレルグでいずれもアステロイド型だ。
 百六十隻の搬送艦は直径十キロレルグの円盤状だ。二十隻の偵察艦も五十レルグから百レルグの円盤状をなしている。そして、大指令戦艦と副艦には小型アステロイド型攻撃艦が各艦の大きさに応じた隻数、最大長キロレルグ数の百倍以上搭載されている。

〈ガヴィオン〉がヘリオス艦隊から銀河方向へ移動して停止した。
 副艦の一隻が艦隊から離れ〈ガヴィオン〉のはるか前方、銀河方向に現れた。三隻の副艦は〈ガヴィオン〉の左右と後方へ〈ガヴィオン〉を中心にした平面内へ十字形に等距離を隔てて移動した。残る二隻の副艦は〈ガヴィオン〉の上下に移動した。
 青白く輝く〈ガヴィオン〉が眩く輝きを増した。六隻の副艦も同様に眩く輝き、六隻を結ぶ立体空間は〈ガヴィオン〉を中心に輝き、副艦の囲む空間全体が〈ガヴィオン〉と同じ輝きを放った。
 百六十隻の搬送艦が一瞬に、六隻の副艦を結ぶ空間内へ移動した。全艦艇が防御エネルギーフィールドを張ると、ヘリオス艦隊は副艦を頂点にした強固な防御エネルギーフィールドに覆われた。超高速航行を可能にするプロミドン立体編隊の再編成だった。

 プロミドン立体編隊の再構成により、パイロットの精神エネルギーは増幅されて全艦隊に拡がり、クルーの不足したエネルギー場はふたたび安定した。
 クルーが瞬時の休息と安定したエネルギー場を確保するには、同一思考をくりかえす強い意識、プロミドン立体編隊の再構成の意識を、外部からほんのわずかに与えるだけで事足りた。それらは、惑星ロシモントで空間移動を何度か試みた我々が、経験的に知った事実だった。


 プロミドンが開発されると同時に、我々は、エクトプラズムに探査ビームを同調させたプロミドンを、巨大スキップドローンに搭載し、数々の銀河へ送りこんだ。
 渦巻銀河ガリアナのヘリオス星系に送りこんだプロミドンは、恒星ヘリオスが十個の惑星を持ち、エクトプラズムの波動残渣から、かつて第四惑星アーズに生命が誕生していた事実と、現在、第三惑星ガイアに生命反応と精神エネルギー反応があり、類人猿の幼形成熟、ネオテニーが進化過程にある事実を伝えた。
 我々は目的地に第三惑星を選んだ。第四惑星に生命が皆無な理由について、第四惑星に送りこまれたプロミドンは、何ら情報を伝えなかったが、理由は想像できた。

 ヘリオス艦隊に同乗しているクラリック階級は、精神生命体になった彼らの思考が、すぐさま他の精神生命体に伝わる事実を忘れていた。惑星ロシモントで世襲化された意識を今なお維持し、彼らが「存在」によって選ばれた階級である、と自負して止まなかった。
 クラリックの上層部、特にアーク位とビショップ位は、第三惑星の生命体が進化するのを待つより、彼ら自身が第四惑星に降り立ち、みずからを物質化させて新たな世界を創造し、ロシモントで失墜させた彼らの地位と権力を、ふたたびこの惑星で得ようと考えていた。

 我々精神生命体の立場は、ロシモントを離れる以前から大きく変化していた。時空間に存続が許されるのは我々の種のみではない事実を、クラリック階級の上層部はすっかり無視していた。
 クラリックの考えは、第四惑星に送りこまれたプロミドンと大司令艦〈ガヴィオン〉と副艦に搭載された、七基のプロミドンを用いれば可能だったが、我々にプロミドンの使用を許可した「存在」の意志に反するのは明かだった。


 ふたたび亜空間移動が行われ、ヘリオス艦隊は目標としたヘリオス星系の第三惑星ガイア周回軌道上に現れた。惑星ガイアからの距離は三十万キロレルグ(約三十万キロメートル)だった。
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