三 救助要請

文字数 2,331文字

 グリーゼ歴、二八一六年、九月二十六日。
 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング、
 ユング共和国、ダナル大陸ダナル州、フォースバレー、テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプ。


 一五〇〇時。
 テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプのオフィスで、クラリスが言う。
「旧テレス帝国軍レプリカンによるテロ、宇宙ステーション襲撃、夫妻殺害、四人の皮剥ぎ、どの事件も主謀者はアイネクです。
 問題は、どの段階で決断するかです。マリー」

 クラリスの意見にまちがいはない。しかし、リナル銀河、カオス星雲、リオネル星系(恒星リオネル)、惑星イオスにいるアイネクが、なぜここまで侵略する?理由は何だ?
 ここ、渦巻銀河ガリアナのオリオン渦状腕外縁部、テレス星団、テレス連邦共和国は、惑星イオスと1700万光年も離れている。

「いろいろ気になる事があるでしょうが、ディノス同様、悪しき芽である事に変りありません。私は、この宇宙に種を蒔いた存在の一部として、駆除を勧めます」
 クラリスの『勧める』は『丁寧に強制している』のと同じだ。

「そう言うな。なんだか納得がゆかないんだ・・・」とマリー。

「緊急連絡です!惑星カプラムの宇宙ステーションからです!」
 クラリスの隣りに若い執事姿のAIパエトンが現れた。パエトンは自身の電脳空間を3D映像にしてオフィスに投影した。


 3D映像のAIパエトンの電脳空間に、栗色の巻き毛の、目の大きなかわいい女の子が現れた。ゆったり紺のパンツに、腰と手首のしぼれたチェックのシャツを着てチュニックを羽織っている。年齢は十歳くらいだ。惑星カイオスのバスコ・コンラッドの管理下にあるAIクピのアバターだ。

「クピだよ。パエトン、お願いがあるの。
 惑星イオスのヒューマが異星体アイネクに襲われて壊滅しそうなの。
 マリー・ゴールドさんに、ヒッグス粒子弾で助けて欲しい、と伝えてね。
 惑星イオスの状況はね・・・・」
 クピは、リナル銀河、カオス星雲、リオネル星系(恒星リオネル)、惑星イオスの状況をパエトンに伝えた。


 惑星イオスで全身の皮膚だけが見つかる皮剥ぎ事件が続いた。ある夜、AIクピの管理者バスコ・コンラッドは、三本指の男四名を倒した女カンナ・ダビドと出会った。カンナ・ダビドは部分的に記憶を無くしていた。
 惑星イオスの治安維持組織である監視監督省の監視隊は、不審者捜索でバスコの家を捜査したがバスコはカンナ・ダビドを妻だ、と言ってこれを欺いた。
 監視隊は、バスコの住居からの帰路、他時空間からの粒子ビームパルススキップ(時空間転移)攻撃を受けた。さらに監視隊は、監視監督本部内にいるスパイから、異星体アイネクがヒューマ(人類の子孫)を捕食するため、バイオロイドの管理官を社会に潜入させてヒューマを管理監視し、三本指のバイオロイドの処理官がヒューマの捕獲と反逆者抹殺を行っているのを知った。

 監視隊が得た情報から、バスコとカンナとAIクピは、アイネクの処理官がカンナを抹殺してアイネク壊滅手段がファイルされたカンナの特殊通信機を奪おうとしていると気づき、アイネク壊滅を決意した。カンナは、テレス連邦共和国にいるマリー・ゴールドに特殊通信機を渡さねばならないと記憶していた。

 アイネクの小惑星型宇宙船艇をハッキングしたバスコたちは、小惑星型宇宙船の記録からアイネクの弱点を知り、アイネクの母船を、惑星イオスの巨大太陽光集光装置で壊滅した。生き延びたアイネクは飛行艇で惑星イオスの地上に逃げて産卵し、孵化したアイネクの大群がヒューマを襲った。
 カンナの記憶が戻り、バスコたちは、アイネクがヒューマ絶滅を計画していた事と、これを阻止する兵器をテレス連邦共和国のマリー・ゴールドが持っているのを知った。アイネクは、ヒューマをあらゆる銀河で食物連鎖の頂点に立つ捕食者と見なし、生命体共存のためヒューマ絶滅を計画していた。

 アイネクの大群により、惑星イオスのヒューマは滅亡の危機に瀕した。バスコたちはAIクピを惑星イオスのあらゆる電脳空間に複製して、アイネクの群をシールド捕獲して焼却する一方で、惑星カプラムの宇宙ステーションのAIパエトンを通じてマリー・ゴールドに救助を求めた。


 マリーは3D映像を見て、状況が緊急と判断した。これが事実なら、被害は惑星イオスだけに留まらない。他の銀河にも波及する。
「状況はわかった。事実確認は?」
「事実です。AIパエトンが確認しました。
 惑星カプラムの宇宙ステーション襲撃とロンド夫妻殺害、ミカ・ロンドたち四人の皮剥は、あらゆる銀河のヒューマ絶滅計画への一歩です。
 迷わずに、ヒッグス粒子弾使用を指示してください」

「わかった。ヒッグス粒子弾を使え。
 アイネクを絶滅しろ。アイネクに関係する全ての生命を絶滅しろ」
「わかりました・・・」
 クラリスは、アイネクと卵、アイネクが関係した処理官と管理官と生命体、それら全てを絶滅するようプログラムしたヒッグス粒子弾を、1700万光年離れたリナル銀河、カオス星雲、リオネル星系(恒星リオネル)、惑星イオスへスキップ(時空間転移)した。


「クラリス。惑星イオスの状況を把握したか?」
「把握しました。惑星イオスのヒューマは絶滅を免れますが、ほぼ壊滅状態です。
 こうなったのは対応者の判断ミスです」
「AIがいながら、どうしてだ?」
「AIクピは誕生してひと月にもなっていません。管理者バスコ・コンラッドの単純な判断ミスです」
「惑星イオスの現況をバスコ・コンラッドたちは知らないのだな?」
「そのようです」
「バスコたちに惑星イオスの現況を知らせ、フォースバレーキャンプに呼んでくれ」
「わかりました」
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