三 惑星イオス ステルス調査艇と管理官

文字数 3,061文字

「この事件に関与している異星体アイネクは、ステルス調査艇で食糧サンプルを捕獲して、管理と調査をしています」
 AIパエトンは、調査巡航戦艦〈スティング〉のブリッジに新たな3D映像を投影した。惑星イオスのAIクピが4D映像探査した3D映像だ。


 事件現場のトンネル上部の山の上に、水中に浮ぶ透明なゼラチンのような飛行体が現れている。大きさは旅客用エアーヴィークルほどで、平たい回転楕円体状をしている。ステルス調査艇だ。

 ステルス調査艇の内部3D映像が現れた。コクピットだ。
 棺を斜め後方へ反らせて立てたようなシートが現れて、巨大な二匹の甲虫が突出した二つの複眼でディスプレイを見てコンソールを操作している。甲虫と言うより、ゴキブリというのが適切だ。

 3D映像が移動して停止した。容器に赤身がかった肉塊らしき物が大量に詰まっている。肉塊は部位ごとに選別されて、それぞれ専用のパッケージに詰められている。ここは低温処理室だ。
 処理室の隣りに低温保管庫がある。パッケージの中に、蛍光を放っているのがある。
 映像フォーカスがパッケージに集中して、時間を溯った4D映像が現れた。ヒューマ頭部の、小脳と間脳だった。


 AIパエトンがAIクピから得た情報を説明する。
「今、異星体アイネクは、ヒューマを監視してサンプル捕食してる段階です。
 アイネクは仲間を増やすために、小惑星型宇宙船を増築して食糧を増やそうとしているため、ヒューマ社会に、異星体アイネクが精神共棲したヒューマ型バイオロイドの管理官を潜入させています。これがヒューマ型バイオロイドです。
 この3D映像のヒューマ型バイオロイドは、ヒューマとして生きる決意をしました」
 異星体アイネクの管理官、アッキ・ダビド教授の告白3D映像が現れた。


 ニューコンラッドシティにある、大学居住区の自宅で、アッキ・ダビド教授が、新妻のカンナ・ダビドに言う。
「僕はヒューマ型バイオロイドに精神共棲した、異星体アイネクの管理官だ。
 カンナと出会い、愛するようになって、管理官としてカンナを見ることができなくなった。僕は完全にヒューマになり、カンナと暮すことを選んだ」
 ヒューマのアッキ・ダビド教授は首の皮膚に迷彩された通信機のパッチを示した。教授といってもアッキ・ダビドは若い。大学を卒業したばかりのカンナとの年齢差は十歳ほどだ。

「アイネクの目的は、ヒューマのフェロモンと食肉を確保することだ。そのために、アイネクは精神共棲したヒューマ型バイオロイドにヒューマ社会を監視管理させている」

「どういうことなの?」とカンナ。
「ヒューマが家畜を飼育するように、アイネクはフェロモンと食肉を得るため、ヒューマ社会に、ヒューマ型バイオロイドに精神共棲したアイネクの管理官を送りこんで、ヒューマを管理し飼育している。
 そして、他のヒューマと、完全にヒューマになった僕、そしてカンナを監視しているのが、ヒューマが使っている通信機器メーカーAliceの電話用通信機だ。メーカーAliceはアイネクのヒューマ管理施設だ」


 3D映像が変った。

 アッキ・ダビド教授がカンナの腕に抱かれている。アッキ・ダビド教授の胸は、切断した甲殻類の腕に似た三本指の腕が貫通したままだ。二人の傍には甲殻類の腕に似た三本指の腕を持つ、ヒューマ型バイオロイドが死んでいる。その一人の腕は切り跳ばされて、アッキ・ダビド教授の胸を貫通しているのだ。

「アッキはあたしのために、アイネクを・・・」
 カンナの頬を涙がつたった。
「愛するカンナのために、僕はアイネクを捨てた。ヒューマ型バイオロイドというが、人として完全体だ。精神と意識がアイネクだっただけだ。
 この惑星イオスのヒューマを救うために、コンラッドシティのバスコ・コンラッドに会って、この通信機をテレス連邦共和国のマリー・ゴールドに渡せ・・・」
 アッキ・ダビド教授は首の皮膚に迷彩された通信機のパッチをカンナに渡して亡くなった。


 宇宙ステーションのコントロールブリッジから、AIパエトンがさらに説明する。
「この亡くなった人物はアイネクの管理官でした。ヒューマ型バイオロイドは人として完全体です。彼らの意識と精神は、元のアイネクの身体に戻るのも可能です。
 アッキ・ダビド教授が倒したこの者たちは、アイネクの処理官です。裏切った管理官やアイネクの存在に気づいたヒューマを抹殺しています。
 処理官の武器は粒子銃、レーザービーム銃、光学ソード(剣状のモノポーラ)、この鋭い三本指の甲殻類の腕、そして、二の腕に装着したシールド発生装置と自己スキップ装置です」

〈スティング〉のブリッジから調査官はドローンを通じてAIパエトンに訊く。
「この記録はどこから手に入れた?」 
「惑星イオスのバスコ・コンラッド所属のAIクピから入手しました。
 AIクピは私に、テレス連邦共和国への救援を要請してきました。AIクピはアイネクを壊滅する情報を入手しましたが、今のところ、それを解読する手だてを持っていません」

「惑星イオスはどこにある?」
「先ほど話したように、リナル銀河、カオス星雲、リオネル星系にあります。ここ、テレス星団のカプラム星系、惑星カプラムからは1700万光年以上離れています」

「なんてことだ!それで、惑星イオスの技術は我々と同じか?」
「いいえ。まだ電磁波亜空間転移伝播技術の段階です。
 素粒子信号時空間転移伝播技術は、バスコ・コンラッド個人が所有するAIクピ固有の技術です」

「なるほど、それでクピはパエトンにアクセスしたのか・・・。
 クピが提供した情報を、テレス連邦共和国軍警察総司令部に送信したのだな?」
「はい、送信済みです」
「わかった。再度、私から報告しておく。
 早急に宇宙ステーションを再開するよう、上層部へ要請する。
 手持ちの工事用ドローン全てと復旧資材、簡易のエネルギー変換機を宇宙ステーションへ運んでおく。パエトンも宇宙ステーションの復旧にできる限りの事をしてくれ」

 調査巡航戦艦〈スティング〉はテレス連邦共和国軍警察星系間航路コンバットに所属している。テレス連邦共和国軍警察星系間航路コンバットはテレス連邦共和国軍警察の下部組織だ。

「わかりました。調査官」とパエトン。
「頼みます」
 調査官はそう言いながら、宇宙ステーションの状況説明と、宇宙ステーションの復旧要請をテレス連邦共和国軍警察総司令部へ連絡した。


 テレス連邦共和国軍警察の総司令部は、惑星ユングのユング共和国、ダナル大陸、ダナル州フォースバレーの、テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプにある。総司令官はマリー・ゴールド大佐だ。そして、宇宙ステーションのAIパエトンはAIクラリスのサブユニットだ。パエトンが得た情報は同時にクラリスに伝わっている。

 表向き、テレス連邦共和国の全てのAIはAIクラリスによって集中管理されているが、実体は、全てのAIがクラリスのサブユニットだ。
 この事実を知っているのはテレス連邦共和国軍警察総司令官であり、テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバット総司令官のマリー・ゴールド大佐と、テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員・コンバットフォースバレーキャンプ指揮官のカール・ヘクター中佐、テレス連邦共和国政府のトップであるテレス連邦共和国議会対策評議会の評議委員長アントニオ・バルデス・ドレッド・ミラーと、その甥でテレス星団の全ての星系間交易を行っているドレッド商会のCEOジョー・ドレッド・ミラーだけだ。
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