十一 スター・ウォーズ計画㈠

文字数 2,288文字

 二〇二五年、帝都、十二月十二日、金曜、十一時三十分。
       ワシントンD.C.、十二月十一日、木曜、二十一時三十分。

 ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室で、合衆国大統領ジョージ・ジャクソンは、東南アジア・オセアニア国家連邦日本政府のホットラインを受けて、全世界が国家連邦化してゆく、と国際情勢を判断し、国家統合会議に加盟する意志を固めた。
 ただちにテレビ放送で、
《朝鮮のミサイル発射に対して、合衆国は、東南アジア・オセアニア国家連邦と国家統合会議を指示し、国家統合会議に加盟する》
 と緊急声明を発表した。

 報道クルーが大統領執務室から出ていった。
 ジャクソンは腹立たしく思いながら、執務机から立ちあがった。
 大統領ジョージ・ジャクソンは、昨年、再選されたアフリカ系革新派で、国家統合会議に反対するイスラエル系保守派と対抗している。

「我々の声明で、今後のミサイル発射はないはずだ・・・。
 今さら世界的な民主化は阻止できない。朝鮮と中国は、いったい、何を考えてる・・・」
 室内を歩きまわりながら、ジャクソン大統領はつぶやいた。
 朝鮮と中国では、政府機関から政府関係者の自宅まで、すべての建造物にシールドネットが整備され、関係者の行動区域は、防御エネルギーフィールドでシールドされている。情報収集衛星による政府関係者の思考記憶探査は不可能だ・・・。

 フレッド・チャイレッカー補佐官が、東南アジア・オセアニア国家連邦日本地球防衛軍中部師団の梨田司令官(宇宙防衛隊司令官)に訊いた。
「思念波で探査できないか?」
 梨田司令官は答える。
「思念波を使えば、我々GPMがディーコン位とコモン位、シチズン位だと気づかれる」
 梨田司令官のコメントに、東南アジア・オセアニア国家連邦日本政府、検警特捜庁国内検警特捜局本局長の本間と、N県検警特捜局N検警特捜部本部長の佐伯がうなずいた。

 GPMが、商務省内にいたクラリックの、ネオロイドとペルソナとレプリカンを一掃したが、政府内の全クラリックを一掃したわけではない。経済界は依然として、クラリックのアーク位とビショップ位が支配したままだ。学術関係はプリースト位が支配している。

 人類に意識内侵入しているニオブのクラリック階級は、アークとビショップとプリーストの三位である。
 彼らはネオロイド(実在する人類に意識内侵入して身体をセルにして存在する)やペルソナ(配偶子から育成したバイオロイドに意識内侵入して身体をセルにして存在)やレプリカン(クローンのバイオロイドに意識内侵入して身体をセルにして存在)になって存在している。あるいは猛禽類のバイオロイドをセルにして存在している。

 一方、人類に精神共棲しているニオブは、アーマー階級と、クラリック階級の唯一のプリースト位ケイト・レクスター系列、クラリック階級ディーコン位、ポーン階級コモン位と、ポーン階級シチズン位だ。


 十月十九日に発生した日本の軍需企業よる日本政府への恫喝とテロ事件に対し、合衆国が発表した、
「商務省を通じた日本経済界への圧力、日本の軍需産業の政府攻撃は、商務省内に存在する経済界に密着した勢力によるものであり、合衆国政府は関与しておらず、日米合同捜査を行い、合衆国政府の正義を明らかにする」
 との方針から、東南アジア・オセアニア国家連邦日本政府は、日本地球防衛軍中部師団の梨田司令官(宇宙防衛隊司令官)と、検警特捜庁国内検警特捜局本間本局長とN県検警特捜局N検警特捜部佐伯部長からなる、地球防衛軍と検警特捜庁の混成チームを、合衆国へ派遣している。

 合衆国特別チームと混成チームは、アメリカ先住民のイロクォイ連邦を起源とするGPM(Grand Peace Maker)と呼ばれ、メンバー全員が、ニオブのクラリック階級ディーコン位と、ポーン階級シチズン位、ポーン階級コモン位である。
 GPMはかつて旧GHQとして日本の民主化を指導した者たちだ。
 ポーン階級には二つの位がある。ニオブの亜種であるトトの種はコモン位、ニオブはシチズン位だ。精神生命体になる以前の二種がともに原種から分かれた亜種であり、ニオブとトトに精神生命体の違いはない。


「今さら朝鮮や中国の考えを知る必要はない。早急に民主化すればいい・・・」
 だが、どうやって民主化する?軍を国民側につければいいのか?
 ジャクソン大統領は閃いた。
「これから話すことはオフレコだ」
「わかりました」
 全員がオフレコを了解した。

「スター・ウォーズ計画を再開する。国際宇宙ステーションにビーム兵器を増設させよう。国家統合会議は事後承認させる。民主国家のための平和目的だ。必ず承認される」

「集光装置を増設させるのですね」
 チャイレッカー補佐官が捕捉する。
「地上のエネルギー不足解消目的で、巨大な太陽光集光パラボラ反射鏡を有するエネルギー転換装置を建設する、と国家統合会議が決めればいい」
 とジャクソン大統領。

「あと一つ方法がある」
 梨田司令官がジャクソン大統領に目配せした。
 ジャクソン大統領がいう。
「発射されたミサイルが、攻撃目標を変えればいいのだな?」
「方法は?」とフレッド・チャイレッカー補佐官
「コメントできない。機密だ・・・」
 地球防衛軍の情報収集衛星から特殊ビームを放ち、発射するミサイルのコンピュータープログラムを破壊するのだが、問題はある。
「そうか・・・。兵器のシールドを突破できるか?」と大統領。
「方法はある」と梨田司令官。
「これも、コメント不能だな?」
「そうだ」
「わかった。進めてくれ」
「了解した」と梨田司令官。
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