二十三 宣戦布告

文字数 2,716文字

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月七日。
 オリオン渦状腕深淵部、グリーズ星系、主惑星グリーゼ、北半球北部。
 グリーゼ国家連邦共和国、ノラッド、カンパニー、地下五階、研究ユニット。


 Jは円盤型小型宇宙艦〈SD〉のコントロールポッドで溜息をついた。スキップ速度に差が無ければ実行できない思いきった作戦だった。JはPDとLとDとKと大佐に指示した。
「行動開始だよ~。PD、L、伝えてね」
「了解しました」
 グリーゼ艦隊は、ニオブのアクチノン艦隊を基盤にしているが、アクチノン艦隊のような高度の技術レベルに達していない。
 PDは旗艦〈グリーゼ〉のコントロールユニットのAIグリーゼを容易にコントロールして、AIグリーゼが〈SD〉のコントロールポッドに投影する4D映像と3D映像を操作した。

「予定どおり、Lのアバターを使って、グリーゼ国家連邦共和国はデロス帝国へ宣戦布告しました。デロス帝国への宣戦布告は、リブラン王国にも連絡しました」とPD。
「了解・・・」とL。
〈SD〉のコクピットに、グリーゼ艦隊の旗艦〈グリーゼ〉の縮小された4D映像が現れた。旗艦〈グリーゼ〉のブリッジに、Lのアバターが立っている。

「ルペソ将軍!
 私は、グリーゼ艦隊を、グリーズ星系とデロス星系とリブライト星系の星系間宙域から、惑星ダイナスの宙域にスキップさせた!
 AIグリーゼを通じて、グリーゼ国家連邦共和国は、デロス帝国に宣戦布告した!」
 アバターのLが、旗艦〈グリーゼ〉のブリッジのコントロールポッドにいるルペソを睨みつけた。グリーゼ艦隊は亜空間スキップ時の臨戦態勢のまま、惑星ダイナス宙域にいる。

「私は、デロス帝国の二艦隊とも、攻撃も航行も不能にしたぞ!
 今すぐ、ダイナスを攻撃しろさ!
 攻撃が遅れれば、帝国は戦艦を修復して反撃するべさ!
 なんかあれば、私がコントロールポッドごと回収してやんべ!」
 Lの口調が東部訛りへ変ってゆく。

「しかし、デロス帝国は軍事要請を求め・・・」
 星系間ラグランジュポイントに、デロス帝国の艦隊は出現していない。リブラン王国と連合できなかったが、グリーゼ艦隊を惑星ダイナスの宙域に移動する手間が省けた・・・。
 言葉と裏腹に、ルペソは腹の中で薄笑いした。コントロールポッドのシートに身を沈めたまま脚をブラつかせ、Lの勧告を無視しようとしている。

「返答を一週間先延ばししろ、と伝えたはずだべ!」
 Lはルペソを睨んだ。ルペソとジェレミ。お前らは主惑星グリーゼとモンターナ星系の惑星グリーゼ13がデロス帝国からメテオライト攻撃されているのを知っていた。以前からデロス帝国はグリーゼ国家連邦共和国を敵対視してる。それを利用するお前たちの腹は読めてんだ・・・。

 突然、〈グリーゼ〉のコントロールデッキが揺れた。デロス帝国が攻撃している。
「早く攻撃しろさ!」
「・・・・」
 ルペソは黙ったままだ。


 Jは〈SD〉のコクピットに現れている、アバターLとルペソの4D映像に異変を感じた。ルペソは、〈グリーゼ〉のブリッジに現れている惑星ダイナスの4D映像をぼんやり見ている。今、PDは〈グリーゼ〉の4D映像を操作していない。4D映像は、AIグリーゼが惑星ダイナス宙域の波動残渣を亜空間転移伝播探査した映像だ。

「L。将軍は腑抜けになったから、参謀をグリーゼ艦隊の指揮官にしてね!」
「わかったさ。キシロフ大佐!将軍に代って、グリーゼ艦隊を指揮しろ!」
 Lはエリーナ・キシロフ大佐に命じた。
 ルペソの参謀、エリーナ・キシロフ大佐は部下を連れて、旗艦〈グリーゼ〉のアクレン・ロン艦長とともにブリッジに居る。
「了解しました」とキシロフ大佐。
「ロン艦長!キシロフ大佐の指揮に従え!」とL。
「わかりました」とロン艦長。


「グリーゼ。状況を伝えろ!」
 キシロフ大佐が〈グリーゼ〉のAIグリーゼに指示した〈グリーゼ〉のブリッジに戦況表示する4D映像が現れた。
「惑星ダイナスの衛星防衛システムから、多数の粒子ビームパルスが発射されました。
 全艦、外殻隔壁閉鎖し、位相反転シールドで防御しました。
 艦隊損傷0。
 衛星防衛システムから、電磁パルス魚雷と巡航ミサイルが発射されました。 
 全艦、多重位相反転シールドとビームネットで防衛しています。
 反撃します」
 AIグリーゼが伝えると同時に、グリーゼ艦隊が惑星ダイナスの衛星防衛システムと発射された電磁パルス魚雷と巡航ミサイルへ、レーザーパルスをいっせい砲撃した。

 グリーゼ艦隊に向って近づく電磁パルス魚雷と巡航ミサイルが、グリーゼ艦隊のビームネットに触れて炸裂し、ビームネットをすり抜けた電磁パルス魚雷と巡航ミサイルが、レザーパルスを被弾して炸裂する。その間も、惑星ダイナスの地上から対艦粒子ビームパルスの攻撃が続き、グリーゼ艦隊のビームネットと防衛シールドが赤い閃光を放ち続けている。
「地上攻撃の前に、衛星防衛システムを叩け!
 エネルギーを、シールドとビームネットへまわせ! 
 不足分を恒星デロスのソーラーエナジーから補給しろ!」
 キシロフ大佐が、ブリッジに現れている各艦艦長の3D映像に命じた。

 ルペソはコントロールポッドのシートに座ったまま、ブリッジの4D映像に現れた衛星防衛システムからの攻撃と惑星ダイナスの地上からの攻撃を見つめて考え込んだままだ。

 ルペソは何を考えてる?
 Dは〈グリーゼ〉のブリッジに現れた4D映像に疑問を抱いた。
「PD。〈グリーゼ〉のセキュリティーは万全か?」とD。
「〈グリーゼ〉のセキュリティーは不完全です」
「ルペソは何を考えてる?」
「ルペソ将軍は何も考えていません。思考記憶探査しても、何も現れません・・・。
 現在ブリッジに現れている惑星ダイナスの地上4D映像は、〈グリーゼ〉の亜空間転移伝播探査によるものですが、一部に、惑星ダイナスからの4D映像が紛れています」

「何だって?」
 DはPDの説明に違和感を感じた。D自身がこのグリーズ星系に精神と意識を時空間スキップされる以前の記憶を確認した。
 皇帝ホイヘウスには、ニオブのクラリックのアーク・ルキエフのネオロイドのオイラー・ホイヘンスが、半意識内進入と半精神共棲している。

 かってアーク・ルキエフは自己意識の一部をヒューマに精神共棲的意識内進入してヒューマをネオロイドにした。そしてそのヒューマから、プロモーションビデオの映像信号に進入して、ビデオ再生されて映像通信回線を移動し、ディスプレイから他のネオテニーや動物に精神共棲した。かつてのように、4D映像通信を通じて、皇帝ホイヘウスがルペソに移動することはないのか?
 Dはルペソの態度に疑問を抱いた。
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