二十八 査問会

文字数 9,126文字

 グリーゼ歴 二八一五年、十一月八日。
 オリオン渦状腕深淵部、グリーズ星系、主惑星グリーゼ、北半球北部。
 グリーゼ国家連邦共和国、ノラッド、グリーゼ国家連邦共和国議会議事堂、査問会場。


 査問会の会場に、PDの4D映像探査で記録した3D映像が現れた。
「ジェレミ対策評議会議長。ここに現れている人物は誰ですか?」
 査問委員会、アンデラ・フォン・マチス査問委員長の表情は険しい。

「私とグリーゼ国家連邦共和国防衛軍総司令官のコロン・デ・ルペソ将軍、グリーゼ国家連邦共和国議会議長リサ・アンダーソンです」
 グリーゼ国家連邦共和国議会対策評議会議長フェリス・ジェレミがそう答えた。
「何を話しましたか?」
 3D映像を見ているのだから、確認しなくてもわかっているが、マチス査問委員長は訊いた。
「リサ・アンダーソン共和国議会議長から、共和国議会の承認を得るまで、デロス帝国からの軍事要請の返答を一週間待つように指示されました」
「あなたはどうしました?」
「デロス帝国内のリブラン王国がデロス帝国からの独立宣言を発してデロス帝国に宣戦布告した、と連絡がありましたから、事実確認をするよう、ルペソ将軍に指示しました」
「この3D映像ですね?」
 マチス査問委員長が3D映像を先へ進めるよう指示した。


『議会議長の主張を無視して、議会承認を得ぬまま、艦隊を出動させるのか?』
『いつまでも、共和国議会や議会議長に支配させておくわけにゆかないわ。
 共和国は国民のもので、奴らのものじゃないのよ』
 ジェレミ対策評議会議長の顔が引きつっている。
『では、出動態勢を整える。帝国へ軍事要請に応ずる旨を伝え、グリーゼ艦隊を発進する』
 ルペソ将軍はグラスを口へ運び何か考えながら言う。
『ところでジェレミ議長。カンパニーの議長に、どう説明する?』
『考えてないわ。無視するのよ』
 ジェレミは縦皺がめだつ唇へグラスを近づけた。
『何か言ってきたら、議長特権を行使するわ。リブラン王国か惑星ダイナスかはわからないけど、メテオライト攻撃は、デロス帝国が行ってるのは確かよ。
 デロス帝国と同盟を結んでるんだから、表向きは、要請に応ずるしかないでしょう』


「停止してください」
 マチス査問委員長は映像を停止させた。
「あなたは共和国議会とアンダーソン共和国議会議長について、
『いつまでも、共和国議会と議会議長に支配させておくわけにゆかない。共和国は国民のもので、奴らのものじゃない』
 と言っています。
 共和国議会とアンダーソン議会議長が共和国を支配している事実はありません。
 何をもって、共和国を支配していると言うのですか?
 答えてください」
 マチス査問委員長は笑みを浮かべてジェレミを見ているが目は険しさを増している。

「共和国議会の議員草案と、共和国議会議長による草案が共和国議会を通って立法化されるのに対し、共和国議会対策評議会の草案がないがしろにされているからです。
 これは共和国議会と共和国議会議長の独裁と言える裁定結果です。共和国議会対策評議会が機能していません」
 ジェレミが笑みを浮かべて話し終えた。うまく説明したつもりなのだろう。

「共和国議会対策評議会の草案が低俗過ぎるとの批判が出ています。
 その事は、共和国議会対策評議会の草案を、アンダーソン共和国議会議長が大幅に修正した結果、立法に至った事でも証明されています。
 このような事は、共和国議会対策評議会の草案の全てにわたって言えます。
 今回のデロス帝国の件とは別に、査問委員会は事前調査を行ってきました。
 調査で、対策評議会は草案の立案を、アンダーソン共和国議会議長に丸投げしていた事実が明らかになりました。
 共和国議会と共和国議会対策評議会を私物化しているのは、ジェレミ対策評議会議長、あなたです。反論がありますか?」
 マチス査問委員長の目つきが鋭くなっている。

「私は、共和国議会議事を速やかに進行させるために、アンダーソン共和国議会議長の意見を草案に盛り込むよう要請しただけです。その事が今回の件と関係しているとは思えません」
「関係するか否か、判断するのは私です!あなたではありません!
 委員会と委員長への批判を、罪状として付加します。
 罪状を増やしたくなければ、今後、余計な事を話さないでください!」
 マチス査問委員長は厳しく言った。
「・・・」
 ジェレミは返す言葉がない。


「3D映像で、
『では、出動態勢を整える。帝国へ軍事要請に応ずる旨を伝え、グリーゼ艦隊を発進する』
『ところでジェレミ議長。カンパニーの議長に、どう説明する?』
『何か言ってきたら、議長特権を行使するわ・・・』
 と話しています。これらは、どう言う事ですか?」
 とマチス査問委員長。
「グリーゼ国家連邦共和国議会対策評議会議長の議長特権です。緊急時に行使できる独裁的特権です。デロス帝国からの軍事要請は緊急事態です」
 ジェレミは、わかりきった事を訊くんじゃない、との態度で答えた。

「共和国議会承認を得ようとした、最高権威の共和国議会議長リサ・アンダーソンの指示を無視してですか?」
「デロス帝国からの軍事要請は緊急事態です」
 自分ながら取って付けたような答弁だとジェレミは思った。
「ジェレミ対策評議会議長は、デロス帝国の軍事要請に応じてグリーゼ艦隊を出動し、遅れて移動してくるデロス帝国のオータホル艦隊を、潰滅しようと考えたのではありませんか?」
「デロス帝国の軍事要請は、罠だと判断したからです」
 先ほどの答弁と辻褄が合わなくなってきた、とジェレミは思った。顔から血の気が失せてゆくのがわかった。

「罠なら、デロス帝国の軍事要請は緊急事態ではありません。
 なぜ、艦隊を出動させる判断したのですか?」
「デロス帝国は、オータホル艦隊で共和国のグリーゼ艦隊を待ち伏せして潰滅する気だ、と判断したからです。
 いち早くグリーゼ艦隊を星系間ラグランジュポイントへ移動して、遅れて移動してくるオータホル艦隊を潰滅しなければならなかったのです。
 そうでなければ、いずれデロス帝国はグリーゼ国家連邦共和国に侵攻したでしょう」
 うまくまとめたとジェレミは思った。

 グリーズ星系とモンターナ星系の全惑星ラグランジュポイントは、防衛態勢が取られて封鎖されていた。交戦中のデロス星系とリブライト星系は、どちらの宙域の惑星ラグランジュポイントも、グリーズ星系とモンターナ星系と同様に、封鎖中だった。
 デロス帝国のオータホル艦隊も、グリーズ星系とデロス星系とリブライト星系の三星系の星系間ラグランジュポイントへ亜空間スキップして、そこからリブライト星系へ出撃する気だったはずだ。したがって、グリーゼ艦隊は、デロス帝国の艦隊が移動する前に星系間ラグランジュポイントへ移動するしかなかった。
 ジェレミは言い逃れを話しはじめた。
「この場合の戦線は、恒星間宙域における局地戦です。
 しかし、デロス帝国のオータホル艦隊がダイナスに留まっていれば、グリーゼ艦隊は、デロス帝国との同盟を破棄し、惑星ダイナスからのメテオライト攻撃を示す証拠を突きつけて、惑星ダイナスを攻撃する予定でした。
 惑星ダイナスを中心とするデロス帝国と、グリーゼ国家連邦共和国の全面戦争になれば、グリーゼ国家連邦共和国はリブラン王国と連合して、戦況を打開できます。
 グリーゼ国家連邦共和国の立場は不利ではありません。
 そのような考えのもとに、私はルペソ将軍にグリーゼ艦隊の出動を指示しました」
 ジェレミは戦況の好転を説明して、査問委員の目を、デロス帝国のディノス支配へ向けようとした。

 マチス査問委員長は、ジェレミ対策評議会議長が、
『ヒューマは、ディノスやラプトより、優れている』
 と考えているのを実感した。
「映像を進めてください」
 マチス査問委員長は、停止している3D映像を先へ進めるように指示した。


『ルペソ将軍。リブラン王国と連絡をとって、実態を調べてください。
 結果次第で、帝国との同盟を破棄し、リブラン王国と連合しましょう・・・』
『了解した。リブラン王国もデロス帝国の一部だ。デロス帝国の軍事要請を、ありのままに伝えて様子をみよう』
『ルペソ将軍に任せるわ。くれぐれも、こちらの手の内は見せないようにしてください』
 共和国防衛省総司令官執務室からジェレミ対策評議会議長の3D映像が消えた。


「停止してください」
 マチス査問委員長が映像が停止させた。
「手の内とは何ですか?」
「先ほど述べた戦略です」
「3D映像を進めてください」
 マチス査問委員長は、ふたたび3D映像先へ進めるように指示した。


 ルペソはソファーから立ちあがって、執務デスクのシートに座った。デスクに、グリーゼ艦隊の旗艦〈グリーゼ〉のコントロールポッドの内部3D映像表示して、コントロールユニットのAIグリーゼに指示した。
『リブラン王国に、デロス帝国から軍事要請があった旨を説明し、行政官と交渉したい、とを伝えてくれ』
『亜空間転移伝播通信は、デロス帝国に傍受される可能性があります。通信しますか?』
『通信してくれ。同盟国に情報要求するのだ。デロス帝国を気にしなくていい』
『了解しました』
 AIグリーゼは、無機質な合成音で答えた。
『なんだ?』
『リブラン王国から、亜空間転移伝播通信が入りました。 
「通信はデロス帝国に傍受される可能性があるが、それでよければ、デロス帝国から攻撃されているリブラン王国の現況を説明した上で、交渉に応ずる」
 とのことです。3D映像表示しますか』とAIグリーゼが伝えた。
『かまわん。表示してくれ』

 総司令官執務室に、〈オミネント〉のブリッジにいるラプトの3D映像が現れた。
『私はリブラン王国の行政官カムトン・リブラン・アライスだ。
 三十六時間前から、リブラン王国はデロス帝国の攻撃を受けている。
 そちらの主惑星グリーゼとモンターナ星系惑星グリーゼ13と同様のメテオライト攻撃に加え、ホイヘンス艦隊とアスロン編隊の攻撃、モーザのスキップ攻撃を受けている。
 我々は、〈オータホル〉を除くオータホル艦隊の四戦艦を掌握したが、リブラン王国宙域防衛に各戦艦が対応しているため、デロス帝国を攻撃できない状態にある。
 なお、デロス帝国は〈ホイヘンス〉を旗艦とするホイヘンス艦隊に加え、〈オータホル〉を旗艦とする、新たなオータホル艦隊を建造した。現在、二艦隊は惑星ダイナスに留まっている。今後、どのように進攻するか、不明だ・・・・』
 3D映像が乱れて、説明を聞きとれない。

『タイムラグか?』
『通信が妨害されました。デロス帝国からの干渉です・・・』
『グリーゼ。デロス星系とリブライト星系の5D座標と4D映像を見せてくれ』
『わかりました』
 グリーゼ艦隊の旗艦〈グリーゼ〉が探査したデロス星系リブライト星系の5D座標と4D映像が執務室の空間に現れた。5D座標に戦艦や宇宙船の移動は表示されていない。

『寝ているところをすまない』
 ルペソはジェレミとのホットラインを開いて3D映像表示し、リブラン王国の情報と、考えられる状況を説明して、方針を述べた。
『ルペソ将軍の要請に応じて、グリーゼ艦隊の出動を許可するわ。
 デロス帝国の軍事要請に返答する必要はありません!
 リブラン王国と連合して、同盟を破ったデロス帝国の艦隊を潰滅しなさい!
 皇帝ホイヘウスを捕獲して、あたしの前にひれ伏せるのよ!
 いえ、共和国の前にひれ伏せるのよ!』
 パジャマ姿のジェレミの3D映像が消えた。

 ルペソは苦虫を噛み潰したような顔で、各艦艦長への指令ラインを開いた。
 執務室に十八隻の戦艦の縮小されたブリッジが現れた。
『各艦艦長に告ぐ。
 全艦、〇六〇〇時に発進する。発進準備しろ。
 目標、星系間非重力場。
 グリーゼ、デロス、リブライトの三星系ラグランジュポイントだ』
 各艦艦長の敬礼に答礼し、ルペソは指令ラインを閉じた。


「停止してください」
 マチス査問委員長委員長が映像が停止させた。
「なぜ、デロス帝国とリブラン王国の状況を、議会議長に伝えなかったのですか?
 その後に、グリーゼ艦隊を出動させることもできたはずです」
「状況は急を要していました」とジェレミ。
 緊急だったのは私だ。あの場を逃せば、私の立場を好転させる機会はない。一か八かの策に出たのだ・・・。

 マチス査問委員長が穏やかに述べるが、表情は険しい。 
「デロス帝国のオータホル艦隊は、惑星ダイナスに留まったままです。
 デロス帝国の攻撃対象はリブラン王国であって、グリーゼ国家連邦共和国ではありません。その事は、ルペソ将軍とリブラン王国との3D映像ではっきりしています。
 グリーゼ国家連邦共和国にとって、どこに緊急事態があったか疑問です。
 ジェレミ対策評議会議長が、アンダーソン共和国議会議長の指示を無視して、独断で事態を進めたのは明らかです。反論がありますか?」
「・・・・」
 ジェレミは答弁できなくなった。

「これから示す、宙域機雷が記録した3D映像は、非常にゆゆしきものです」
 マチス査問委員長は不快の表情だ。
 3D映像が現われた。


 惑星ダイナスを制圧したと判断したグリーゼ艦隊が、主惑星グリーゼの惑星ラグランジュポイントへ亜空間スキップした。主惑星グリーゼの惑星ラグランジュポイント防衛網は、グリーゼ艦隊が惑星ダイナスを制圧したと判断した時点で厳戒態勢を解除している。亜空間スキップしたグリーゼ艦隊はこの防衛網の中に居る。


 マチス査問委員長が3D映像を停止させた。
「本来なら、グリーゼ艦隊はグリーゼ国家連邦共和国防衛軍施設に帰還します。
 グリーゼ艦隊が惑星ラグランジュポイントに留まっている事に異常を感じて、アンダーソン共和国議会議長は、急遽、防衛網の厳戒態勢を指示しました。
 したがって、グリーゼ艦隊は、宙域機雷群の防御シールドで捕捉され、宙域機雷と巡航ミサイル・スティングの防衛網の中に留まりました。防御シールド内では、亜空間スキップによる艦隊の逃亡は不可能です。
 ジェレミ対策評議会議長。ルペソ将軍は、なぜ、グリーゼ艦隊をグリーゼ国家連邦共和国防衛軍の宇宙港に帰還させずに、惑星ラグランジュポイントへ亜空間スキップしたまま留まったのですか?」
 マチス査問委員長はジェレミ対策評議会議長を睨みつけている。

「私にはわかりません・・・」
 ジェレミは俯いた。ルペソに、グリーゼ艦隊を惑星ラグランジュポイントに留まるように指示した記憶はない。
「映像を進めてください」
 マチス査問委員長は怒りを露にした。査問委員たちに怒りの表情が現れている。


〈グリーゼ〉がゆっくり向きを変えて、全ての粒子ビーム砲が主惑星グリーゼに向いた。
 グリーゼ艦隊の全艦が旗艦グリーゼにシクロし、全ての粒子ビーム砲が主惑星グリーゼに向いた。
 3D映像の隅に、攻撃目標はノラッドのカンパニーだと表示されている。
 グリーゼ艦隊の粒子ビーム砲が大量の粒子ビームパルスを放った。放たれた粒子ビームパルスは、強固な宙域機雷の防御シールドで反射と消滅をくりかえし、グリーゼ艦隊に降り注いだ。宙域機雷の防御シールド内が高温になっている。グリーゼ艦隊は主惑星グリーゼの地上を攻撃できない。
 その時、宙域機雷と巡航ミサイルが一瞬開いた宙域機雷の防御シールド間隙を突いて艦隊へ飛翔した。グリーゼ艦隊は防御シールドを張るが、二艦隊の戦艦が、コントロールユニットとスキップドライブを破壊され、航行不能に陥った。
 残ったのは旗艦〈グリーゼ〉と一艦隊だ。それらも粒子ビーム砲とレーザー砲など重火器と、ミサイル発射サイロとランチャーを破壊され、宙域機雷の防御シールド内に捕捉されたままだ。コントロールユニットもスキップドライブも、重火器も、搭載しているミサイルも破壊されて、グリーゼ艦隊が壊滅していった。
 宙域機雷が強力な防御シールドと牽引ビームを放った。破壊された全艦を一ヶ所に集め、宙域機雷から放った強力なレーザービームで、グリーゼ艦隊を熔解、昇華しはじめた。


 マチス査問委員長は3D映像を停止させた。
「さて、このような結果は招いた原因が、どこにあると考えますか?
 惑星ラグランジュポイントの防衛網の厳戒態勢維持に原因はありません。
 また、惑星ラグランジュポイントの防衛網内部から攻撃すれば、グリーゼ艦隊に何が起こり、どのような結果になるか、ルペソ将軍が知らなかったはずはありません。
 ルペソ将軍は、なぜ、惑星ラグランジュポイントへグリーゼ艦隊を移動したのですか?」

「わかりません・・・」
 ジェレミ対策評議会議長は俯いた。

「ルペソ将軍は、防衛網の自動防衛システムで、グリーゼ艦隊が壊滅するのを知らなかった、と言うのですか?」

「わかりません・・・」
 俯いたジェレミ対策評議会議長の声は小さくてよく聞えない。

「約二万名の兵士が死亡するのを知らなかったと言うのですか?」
 グリーゼ艦隊は三艦隊から構成されていた。一艦隊は、旗艦一隻と六隻の副艦から構成され、各艦に多数のスペースファイター〈⊿2〉を搭載していた。
 艦隊指揮系統を担当するヒューマは二百二十一名。〈⊿2〉のパイロットは交代要員も含め七千八百名。その他乗組員は戦闘要員と機工兵員など一万一千八百名の、総勢一万九千八百二十一名。これらがグリーゼ艦隊に居た。

「わかりません・・・」
 完全にジェレミ対策評議会議長は返す言葉を無くした。

「グリーゼ艦隊の出動を命じたのは、ジェレミ対策評議会議長、あなたです。
 あなたに、全責任があります。なぜ、グリーゼ艦隊は主惑星グリーゼの惑星ラグランジュポイントに現れて、主惑星グリーゼを攻撃したのですか?」

「わかりません。指揮したのはルペソ将軍です。私に責任はありません」

「もう一度、二つの3D映像を、同時に見てください。
 一つは、デロス帝国の軍事要請に関する、あなたとルペソ将軍の最初の3D映像です。
 もう一つは、就寝中のあなたが起こされた3D映像です。
 途中で3D映像を停止し、会話を文字表現します。
 3D映像を見せてください」

 査問会場に3D映像が現れた。

『議会議長の主張を無視して、議会承認を得ぬまま、艦隊を出動させるのか?』
『いつまでも、共和国議会や議会議長に支配させておくわけにゆかないわ。
 共和国は国民のもので、奴らのものじゃないのよ』
 ジェレミ対策評議会議長の顔が引きつっている。
『では、出動態勢を整える。帝国へ軍事要請に応ずる旨を伝え、グリーゼ艦隊を発進する』
 ルペソ将軍はグラスを口へ運び何か考えながら言う。
『ところでジェレミ議長。カンパニーの議長に、どう説明する?』
『考えてないわ。無視するのよ』
 ジェレミは縦皺がめだつ唇へグラスを近づけた。
『何か言ってきたら、議長特権を行使するわ。リブラン王国か惑星ダイナスかはわからないけど、メテオライト攻撃は、デロス帝国が行ってるのは確かよ。
 デロス帝国と同盟を結んでるんだから、表向きは、要請に応ずるしかないでしょう』

 3D映像が停止した。映像下部に文字が現れている。
『いつまでも、共和国議会や議会議長に支配させておくわけにゆかないわ。共和国は国民のもので、奴らのものじゃないのよ』

 さらに3D映像が現れた。

『寝ているところをすまない』
 ルペソはジェレミとのホットラインを開いて3D映像表示し、リブラン王国の情報と、考えられる状況を説明し、方針を述べた。
『ルペソ将軍の要請に応じて、グリーゼ艦隊の出動を許可するわ。
 デロス帝国の軍事要請に返答する必要はありません!
 リブラン王国と連合して、同盟を破ったデロス帝国の艦隊を潰滅しなさい!
 皇帝ホイヘウスを捕獲して、あたしの前にひれ伏せるのよ!
 いえ、共和国の前にひれ伏せるのよ!』

 こちらも3D映像が停止して会話が文字が現れている。

『ルペソ将軍の要請に応じて、グリーゼ艦隊の出動を許可するわ。
 デロス帝国の軍事要請に返答する必要はありません!
 リブラン王国と連合して、同盟を破ったデロス帝国の艦隊を潰滅しなさい!
 皇帝ホイヘウスを捕獲して、あたしの前にひれ伏せさせるのよ!
 いえ、共和国の前にひれ伏せさせるのよ!』


「あなたの会話に、
『いつまでも、共和国議会や議会議長に支配させておくわけにゆかないわ。共和国は国民のもので、奴らのものじゃないのよ』
『皇帝ホイヘウスを捕獲して、あたしの前にひれ伏せさせるのよ!
 いえ、共和国の前にひれ伏せさせるのよ!』
 とあります。
 独裁的立場を誇示する内容を、共和国と国民と言う言葉でごまかしているに過ぎない事がわかります。
 反論があれば思考記憶探査します。どうしますか?」
 マチス査問委員長はジェレミ対策評議会議長の返答を待った。

 これは罪状を認めさせる脅しだとジェレミは思った。
「行わなくてけっこうです」
 今さら反論しても何もならない。全て判明しているのだ。

「今回、主惑星グリーゼの防衛態勢を整備しないままグリーゼ艦隊が出動し、思いがけない亜空間スキップで惑星ラグランジュポイントに移動しました。
 そのため、急遽、惑星ラグランジュポイント防衛網の拡充が、アンダーソン共和国議会議長の指示によって成されました。
 デロス帝国のメテオライト攻撃に対して、このような安定した防衛網の拡充が整備できたにも関わらず、これまであなたが共和国防衛軍に主惑星グリーゼの防衛態勢を整備させなかった事実も判明しています。
 これらの事実を認めますか?」

「・・・」
 ジェレミは唇を噛みしめた。ルペソがヘマをしなければ、こうはならなかった・・・。

「これまであなたは、故意に、デロス帝国のメテオライト攻撃を防衛せずにいました。
 そして、グリーゼ艦隊を出動するきっかけを作り、グリーゼ国家連邦共和国の主惑星グリーゼを兵力で掌握しようとしました。この事を認めますか?」

「・・・・」
 認めないと言っても、グリーゼ国家連邦共和国議会を無視して行動した3D映像が揃い過ぎてる・・・。

「反論が無いので、認めたと判断します。
 グリーゼ国家連邦共和国議会対策評議会議長フェリス・ジェレミ。
 あなたを、第一級グリーゼ国家連邦共和国反逆罪として起訴します。
 裁判でも、この査問委員会の結論が重視されます。罪状は覆ることはありません。
 第一級の共和国反逆罪は、永久幽閉の刑に処せられます。恩赦はありません。
 以上で、査問会を閉会します。
 ジェレミ対策評議会議長を連行してください」
 マチス査問委員長は、会場の周囲を警護している憲兵隊に、そう指示した。
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