十四 開戦

文字数 2,539文字

 ガイア歴、二〇六二年、七月。
 オリオン渦状腕、外縁部、テレス星団、オーレン星系、惑星キトラ、首都スザーラ、キトラ帝国政府、キトラ帝国議会議場。


 キトラ帝国議会議場に、キトラ政府が捕捉したヒューマの巨大宇宙船からの3D映像が流れた。

『その後は・・・、何も、ない・・・』
 ヘッターラ・デ・ディノス検閲官は返答にこまってしどろもどろしている。

 ヘッターラ・デ・ディノス検閲官の消化器官に消化液が分泌される3D映像が現れた。検閲官は人類捕食に条件反射している。
 さらに3D映像に、人類を捕獲する場面が現れて、解体されて食肉になった部位が、その場で、解体担当キトラ人の口へ運ばれた。そして、検閲官の手でバーベキューにされている。

 映像が消えた。二十隻の巨大な球体型宇宙戦艦からなるアポロン艦隊のカスミ・シゲル総司令官の映像が現れた。
「私は地球国家連邦共和国宇宙防衛軍アポロン艦隊の総司令官カスミ・シゲルだ。
 お前たちは我々を騙した。我々はお前たちの食糧ではない。
 我々はお前たちに宣戦布告する。お前たちを殲滅する。
 我々を騙したお前たちに、一日の猶予を与える。
 それ以前に、お前たちが攻撃すれば、その時が開戦だ」
 3D映像が消えた。


 3D映像で緊急招集されたマルメ・ディア・ディノス大臣が議場で喚いた。
「なんたる失態!なんたる醜態じゃ!ヒューマに、計画を読まれるなんて、ありえん!」
 3D映像で緊急招集された議会だ。マルメ・ディア・ディノス大臣は食糧省の大臣執務室にいる。マルメ・ディア・ディノス大臣は、ロン・デ・ディノス補佐官を蹴飛ばした。
 蹴飛ばしたところで情勢は変らないのはわかっているが、蹴飛ばしたい衝動を抑えられない。

 速やかに帝国軍を派遣して、ヒューマの巨大宇宙船を破壊せにゃなんねえ。
 いや、宇宙船なんかじゃねえぞ?ありゃあ戦艦だ。小惑星とも呼べる巨大な球体型の宇宙戦艦だ。
 あんなんが二十隻も惑星キトラを囲んどるっちゅうに、デルス・フォン・ラプト議員!早よう、軍隊を出動させんかい!
 はようせんと、皇帝ホイヘウスに、大目玉和食らうぞ!。
 マルメ・ディア・ディノス大臣は怒りを隠せない。その姿は議場に3D映像で現れている。

「何が、良きヒューマが来るぞだ。まったく、すばらしいのが来たもんだ!」
 デルス・フォン・ラプト議員が議場の演壇で吠えるように発言した。
「まず、攻撃の第一陣はマルメ・ディア・ディノス大臣に行ってもらう!
 大臣の私軍を注ぎこんで、ヒューマの戦艦がどの程度のものか判断すべきだ!
 これは皇帝ホイヘウスの命令だ!」
 皇帝命令と聞いて、デルス・フォン・ラプト議員の発言に議場が沸いた。
 圧倒的にディノス議員が多い帝国議会だ。ディノス議員は、ラプト議員やイグアノン議員より思考形態が単純だ。
「皇帝命令が全会一致と承認された。
 即刻出動してくれ」
 デルス・フォン・ラプト議員のアップした3D映像が、マルメ・ディア・ディノス大臣に迫っている。

「なんてこった!キトラ帝国のために行った政策だぞ!
 なんで儂の軍を使うんじゃい?」
 マルメ・ディア・ディノス大臣は怒ってディスプレイに顔を近づけた。これで他のディスプレイに、怒りに燃えるマルメ・ディア・ディノス大臣がアップで3D映像表示される。

「帝国議会が承認した計画じゃあないんだ。大臣が私的に行った計画が失敗したんだぞ。責任をとるのは当然だろう。
 まあ、どう、あがいても、一族もろとも食肉の刑だ。覚悟するんだな」
 3D映像で、デルス・フォン・ラプト議員の発言に、また、議場が賛成に沸いている。
 ディノス議員は血気盛んだ。キトラ帝国の危機などそっちのけで、血を見るのを好んでいる。

 マルメ・ディア・ディノス大臣は、デルス・フォン・ラプト議員を不信に思った。
「さては、我が一族の失脚を画策しておったな!」

「バカを言うんじゃない!お前を失脚させるためだけで、帝国を危険に晒すアホな計画を見過ごしたりはせぬぞ!
 ヒューマの戦艦を一隻でも駆逐すれば、情け深い皇帝と議員たちのことだ。情状酌量の余地もあるはずだ」
「そうだ!一隻でも駆逐しろさ!」
「早く出撃しろ!」
 3D映像で議場が沸いている。
 まったく、アホなディノスたちだ・・・。デルス・フォン・ラプト議員はそう思った。

「うぅぅっ、ロン補佐官!
 儂のディノス艦隊に、出撃を命じろ!
 ヒューマの球体型宇宙戦艦を駆逐させろ!」
 大臣は、執務室に控えているロン・デ・ディノス補佐官に命じた。

「了解しました・・・。大臣、外に・・・」
 補佐官が執務室の外部へ警戒を露にしている。
「なんだ?」
 外から足音が聞こえる。軍靴の音らしい。
 誰かが執務室の通路にスキップ(時空間転移)したな?帝国議会は儂を拘束する気だ。
 マルメ・ディア・ディノス大臣は舌打ちした。

 ドアが開いて憲兵隊が現れた。
「儂を連行すると、儂の軍の指揮官がおらんぞ!
 儂を我が軍の旗艦に連れて行け!
 我がディア・ディノス一族の勇軍を知っとるだろう!?」
 マルメ・ディア・ディノス大臣は憲兵隊を怒鳴りつけた。

 憲兵隊の隊長が言う。
「そのつもりで貴軍の旗艦〈ディノス〉に、大臣をお連れするよう、皇帝の指示で参りました」

「了解した・・・。しかし・・・」
「何でしょう?」
「いや、なんでもない。
 ロン補佐官。お前も来るんだ」

「はぁあ?失態を演じたのはマルメ・ディア・ディノス大臣、お前だぞ!
 なぜ、お前のの尻ぬぐいを、我が輩がせにゃあならんのじゃい?」
 補佐官は呆れている。
「補佐官も攻撃の指揮に加わるようにとの皇帝命令です。
 食肉の刑は免れないのです。あきらめてください」
 憲兵隊の隊長は情け容赦なく言った。
「わかったさ・・・」
 補佐官は、渋々、憲兵隊の指示に従った。


 マルメ・ディア・ディノス大臣の私軍ディノス艦隊は、静止軌道上へスキップした。レーザーパルスと、ありったけのミサイルを放ちながら、アポロン艦隊の球体型宇宙戦艦に接近した。その光景は、まさに大牛に群がる蠅だった。

 だが、尻尾の一叩きで姿を消す蠅のように、マルメ・ディア・ディノス大臣の艦隊は、アポロン艦隊の球体型宇宙戦艦が放った新型エネルギー弾を浴びて、一瞬に消滅した。
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