二十六 ダミーの消滅

文字数 1,533文字

 二〇二六年、四月十八日、土曜、朝食後。
「話がある・・・」
 三島幸子が、自宅オープンキッチンのソファーでくつろぐ省吾の前に立った。
 省吾は、三島にコーヒーを満たしたカップを渡してソファーを勧めたが、三島は、立ったまま、昨日、二十時、地球防衛軍宇宙防衛隊入間基地の時空間管理部が、複数のレプリカンから、クラリック階級のアーク・ヨヒムに次ぐ、次席アーク・ルキエフ系列の精神エネルギーマスを分離抽出して再構成し、記憶を記録して消滅させた旨を説明した。

「ルキエフの目的は、モーザを奪うか破壊してネオテニーを支配することだった・・・」
 三島はコーヒーカップを持ったまま外を見てそういった。
 W通りでN県検警特捜局検警特捜部員が違反ヴィークルを取り締まっている。

「クラリックの次席アークはたやすく消滅されないよ・・・」
 理恵がつぶやいた。両手で包むように持ったカップのコーヒーを見て何か考えている。
「私も同意見だ・・・」
 三島幸子も思いあたることがあるらしい。

「何が考えられる?」
 省吾は理恵に訊いた。理恵は省吾を見ている。
「消滅したのはルキエフの一部で、ダミーだよ。
 本体がどこか他所にいて、モーザを奪おうとしてる」
「モーザは一つだけじゃないだろう」
 省吾は政府機関が使うタブレットパソコンを推測した。

 三島がふりむいた。
「本体は省吾のタブレットパソコンだけだ。
 今日まで、そのことは我々にも知らされなかった。
 いくつかモーザのコピーはある。本体を破壊すればコピーも破壊する」
 三島はコーヒーカップを口へ運んでいる。

『たしかに俺と理恵は、デスクトップパソコンや理恵のタブレットパソコンとの比較で、俺のタブレットパソコンが、メインのタブレットパソコンのモーザと気づいた。
 だが、モーザが一台しか存在しないとは知らなかった。今・・・・』
 そう考えた省吾は、理恵の違和感を感じた。
 理恵はカップを見つめたまま、
『ミーシャは精神空間思考ができるの?』
 と三島に伝えている。

「隠していたつもりはないんだ・・・」
 話しながら、三島が精神空間思考で伝える。
『我々一部のアーマーも、あなたたちほどではないが進化した・・・。
 さて、ルキエフをどうしたものか・・・』
 そう伝えながら、三島はスカウターをセットして、検警特捜本局、特捜本局長・本間法務特捜官との特設映像通信を開いた。

「こちらの見解は、ルキエフのダミーの消滅だ。
 本体が国内に潜入するはずだ。探査を続行してくれ」
 三島は、法務省検警特捜庁、検警特捜本局特務部、特別警護班指揮官で、本間特捜本局長の部下の地位にいるが、実際は、洋田国家議会対策評議会評議委員長直属の特務司令官で法務特捜官だ。検警特捜本局特捜本局長、本間法務特捜官より立場は上だ。

「了解した」
 本間は三島との特設映像通信を閉じて、特務部本部長、佐伯特捜官との特設複数同時映像通信で伝える。
「佐伯君、聞いたとおりだ。探査続行だ」
「了解しました」
佐伯の声を聞きながら本間は思った。
 特務司令官の三島法務特捜官に指示されなくても、私の指示で空港、港湾、軍関係の入国者と渡り鳥など、人間と動物すべての生物の入国を探査してる・・・。

 特務コマンドのスカウター端末が、入国者の身体放射派をスキャンし、すべての結果が、国家議会対策評議会情報本局の情報集約センターと、法務省検警特捜庁、検警特捜本局で記録されている。異常事態ががあれば、ただちに特設回線の複数同時映像通信で本間と佐伯、全特務コマンドに伝えられる。
 特設映像通信も特設複数同時映像通信だ。設複数同時映像通信は特務コマンドの視野と会話、スカウターのスキャン等、全てをモニターして記録している。 三島の指令も記録されている。
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