二十 我々がモーザだ

文字数 2,629文字

 二〇二六年、二月二十一日、土曜。
 N市W区の自宅で、理恵は早めの産休に入った。政府(洋田国家議会対策評議会評議委員長)から勤務先へ特別な指示がでたらしい。
 これまでのN県検警特捜局N検警特捜部警護班の戸外警護員八名三交代の計二十四名に加え、法務特捜官の三島幸子が指揮する全員女性の検警特捜本局特務部警護班医療警護員と三島幸子指揮官の計六名が、医療警護班として加わった。
 医療警護員は、使っていない理恵の部屋と客用のキッチンを使い、二人ずつ三交代で常駐警備している。


 二月二十五日水曜、朝。
 ハムエッグがのった大皿と野菜サラダの鉢と取り皿二つをテーブルに並べて、トースト二枚にバターとイチゴジャムを塗って大皿にのせ、理恵の前に置いた。医療警護員たちも客用のキッチンで食事中だ。省吾たちの近くにいない。
「いっただきま~す」
 理恵は取り皿にサラダをとって食べはじめた。

 最近、理恵の食欲は徐々に増えている。食卓にはこれまで理恵が口にしなかった高タンパク質の食品と脂質のない肉類が並ぶようになった。子供たちの成長が順調な証だ。先月と今月の検診でそのことが確認されている。
 検診を受けなくても、マリオンを通じて子供たちの体調を確認できるが、なぜか理恵は俺にくわしいことを伝えようとしない。人並みの手続きを踏めということか・・・。
 そんなことを思う省吾に、オープンキッチンのテレビがニュースを伝えた。


《朝鮮は、世界各国へ輸出した朝鮮の武器が、一月十日、保管状態のまま炸裂して使い物にならなくなったのは合衆国のスターウォーズ計画による破壊工作だ、と判断し、メディアを通じ、国際社会へ何度も、
「国家統合会議に加盟する国家連邦をミサイル攻撃する」
 と発表しています。

 昨年の朝鮮のミサイル発射以来、東南アジア・オセアニア国家連邦(FRSEAON)をはじめ、国家統合会議に加盟する国家連邦は、朝鮮のミサイル攻撃に対処するため、現在も厳戒態勢を布いています。FRSEAON・東南アジア・オセアニア国家連邦地球防衛軍は、ミサイル防空体制と国境の防衛体制を維持しています。

 これに対し、中国は朝鮮支援を否定しつつも、朝鮮のミサイル攻撃を想定して厳戒態勢を布く国家統合会議加盟国に対し、中国に対する挑発だとして、軍事増強計画を実行すると発表しました。これまで以上に東シナ海、南シナ海、太平洋の離島の領有権を主張しています。さらに、他の離島の領有権まで主張し、艦船を各海域に出航させました。

 中国の挑発的発表と艦船の領海侵犯と離島の実効支配を警戒し、東南アジア・オセアニア国家連邦地球防衛軍は、さらなる増強防衛網を布きました。
 東南アジア・オセアニア国家連邦支援にむけ、南北コロンビア国家連邦は航空母艦を旗艦とする二十艦隊を、東シナ海、南シナ海、西太平洋に出航させました。
 日本の地球防衛軍各師団は、北方諸島、佐渡、対馬、竹島、尖閣諸島、石垣諸島など国境海域に、イージスフリゲート艦五隻、イージス駆逐艦五隻、航空母艦二隻、巡洋艦五隻、潜水艦五隻から成る艦隊、十艦隊の防衛網を布いたまま、増強艦隊を派遣しました。

 事態は一触即発の様相を呈しています。
 陸海空の封鎖で、中国は国際社会から孤立しています。中国との国交を除き、表向き国際社会から孤立していた朝鮮は、これまで水面下でつづけてきた、反民主勢力や反資本主義勢力との裏取引ができなくなったと伝えられています。日に日に両国で兵器の爆発事故が重なり、軍事力は低下し・・・・》


 朝鮮は過去に何度も、日本や合衆国や韓国に挑発的発言をしてる。前回のミサイルは撃墜されたから今度は本気だろう。いったい何が目的だ?
 理恵がトーストをとって食べながらいう。
「同盟を結ぶために、キム第一書記が全人代に出席するんだよ・・・」
「ミサイルは何のためだ?」
 省吾は食パン二枚をトースターに入れた。
「プロミドンで調べたら?未来予測できるはずだよ。タブレットパソコンはモーザだから調べられるよ」
 理恵はハムエッグを食べはじめた。

 省吾は驚いた。
「「ほんとか?以前からできたのか?」
 省吾は、トースターからパンを取りだして、バターとイチゴジャムを塗って大皿に置き、椅子に座った。
「うん。私も今気づいたの。以前からできたんだけど、私たちに必要なかったからだって」
 理恵はトースト二枚を食べ、大皿のトーストをとった。
「これからは必要になるのか?」
「そうだよ。プロミドンを使う必要があるらしいの・・・」
「トーストより、これを食べる方がいいよ」
 省吾は自分のハムエッグの皿とサラダの鉢を理恵の前へ移動した。
「ありがとう、そんなに食べれないよ」

「プロミドンのプログラムを変えられか?」
「タブレットパソコンはモーザだから変えれるよ。どうするの?」
 理恵は省吾を見た・・・。
 省吾と私の精神空間思考は、タブレットパソコンのモーザと同じだよ。素粒子信号を時空間伝播するの・・・。

「直接プロミドンを使う。我々がモーザだ」
 タブレットパソコンで、正義と正義の政治を書いてきた。今度は直接、クラリックを排除しよう・・・。
「えっ?プロミドンでクラリックの直接排除はできないよ・・・」
 ニオブが互いを排除しないよう、プロミドンをプログラムしたんだ。
 プロミドンでクラリックを排除すれば、私たちも排除される。プロミドンによるクラリックの宇宙艦の破壊は、ニオブの宇宙艦すべての破壊だよ・・・。

「わかってる。方法を考えるよ」
 といっても省吾に名案は浮かばない。省吾はトーストを食べながら立ちあがり、トースターに二枚のパンを入れた。
「もう一枚、食べるだろう?」
「うん、サラダ、もらっていい?」
「ああ、全部食べていいよ。もう少しサラダを作ろう・・・。
 ささみを茹でてサラダに入れるよ。ちょっと醸造酢を効かせたサラダにする・・・・」
 省吾は冷凍庫から鳥のささみを取りだして電子レンジで解凍した。

「食べすぎになっちゃうよ・・・。
 もうクラリック排除の方法を、考えてるでしょう?」
「考えてる・・・」
 省吾は、何事も後まわしにできない性格だ。
「考えながら調理したら、味がわからなくなるな・・・」
 省吾は椅子に座りなおした。
「このささみ、昼ご飯の分にするよ」
 省吾は電子レンジを示す。
「うん、ゆっくり食べようね・・・」
 諭すように理恵がそういった。この言葉は、私にだろうか、それとも、子供たちにだろうか・・・・。
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