入隊選抜試験(4)
文字数 1,393文字
試合開始と同時に、その場で二人は構えを取った。寧樹も先程とは異なり、無造作に相手に近づくような真似はしない。
挑はその場で跳ねて、時折、前後に移動したり、踏み出す振りをしたりして、フェイントを掛け続けていた。
そして、何回目かのフェイントと思われた踏み込みが、彼の攻撃の始まりだった。
彼の左右の突きは目にも止まらない速さ、萌香には、とてもでは無いが見切ることは出来ない。それを寧樹は、下がりながらも全て躱していく。
突然、挑は足を止め、間合いが広くなったタイミングで後廻し蹴り……。だが、驚いたことに、寧樹も同様に後ろ廻し蹴りを放っており、蹴りが中央で十字に交錯する。
「これが、鈴木挑? 笑っちゃうわね。叔母さんの動きそのままじゃない……。でも、かなり動き難くそうだわ」
「寧樹、じゃ、偽物なの?」
「勿論、偽物よ。ほら、少し遊んでくれるみたいね……」
相手の男は、右手を突然鎌の様な刃物に変え、寧樹に向かって斬り掛かってくる。
「異星人テロリストの暗殺者?!」
誰かが大声でそう叫ぶ。
寧樹が鎌を躱して、相手のボディに左の拳を叩き込んだ。だが、相手は体こそ浮き上がったものの、大したダメージを受けてはいない様だった。
「う~ん、困ったわね……」
相手は武器を持っているが、寧樹には現時点で武器の持ち合わせが無い。相手の武器を取り上げようにも、肘から先がそのまま刃物に変わっている為、腕を蹴っても武器を弾き飛ばすことは出来ないであろう。
人間として戦っている寧樹は、この衆人環視の中、どうやって、この強敵から萌香の身を守ったら良いのか、流石に思い悩んだ。
最悪、人間としての戦いを放棄して、萌香の命を守ると云うことを優先せねばならないかも知れない。
寧樹がそう考えた、その時だった……。
会場の端から駆け上がってくる二つの影。一人は先程の小田原平蔵。人間技とは思えないスピードで寧樹たちに近づいて、挑のボディに跳び蹴りを見舞う。
「風祭!」
小田原に風祭と呼ばれたもう一人の男は、床に仰向けに滑り込み、そのままの形で銃を構えていた。そして蹴りを食って怯んでいる敵の頭部を、下からの一撃で撃ち抜いて粉砕する。
水平に銃を発射したのでは、流れ弾や貫通弾で怪我する人間が出る。恐らく、その危険性があることを考慮したのであろう。彼は銃口を斜め上に向ける形で相手を倒したのだ。
試験会場は、一瞬で混乱の渦に巻き込まれていた。審査員は大騒ぎで体育館から脱出していき、警察隊は逆に異星人テロリストがまだいないかと会場に雪崩込もうとしている。
そんな中、候補者である萌香は、小田原平蔵に庇われる形で、体育館の端に避難させられていた。
萌香は、危機を救ってくれた小田原に、まず礼を言わねばと考えた。
「ありがとうございます」
「ご無事で何よりです」
「でも……、異星人テロリストとは言え、問答無用で射殺するのは、どうかと思いますわ。彼らにも人権がありますもの」
彼女は既に体を返して貰い、萌香本人に戻っていた。その萌香の言葉を聞いた小田原は少し驚いた表情を見せる。
「これは驚いた。異星人討伐隊の入隊試験を受けに来た候補生で、異星人排斥論者の入生田重国氏の孫娘が、異星人の人権なんてことを言い出すとはね……」
この小田原の言葉に、「本当、自分でも何を言っているのでしょう?」と思い、萌香は頬を赤らめてしまうのであった。
挑はその場で跳ねて、時折、前後に移動したり、踏み出す振りをしたりして、フェイントを掛け続けていた。
そして、何回目かのフェイントと思われた踏み込みが、彼の攻撃の始まりだった。
彼の左右の突きは目にも止まらない速さ、萌香には、とてもでは無いが見切ることは出来ない。それを寧樹は、下がりながらも全て躱していく。
突然、挑は足を止め、間合いが広くなったタイミングで後廻し蹴り……。だが、驚いたことに、寧樹も同様に後ろ廻し蹴りを放っており、蹴りが中央で十字に交錯する。
「これが、鈴木挑? 笑っちゃうわね。叔母さんの動きそのままじゃない……。でも、かなり動き難くそうだわ」
「寧樹、じゃ、偽物なの?」
「勿論、偽物よ。ほら、少し遊んでくれるみたいね……」
相手の男は、右手を突然鎌の様な刃物に変え、寧樹に向かって斬り掛かってくる。
「異星人テロリストの暗殺者?!」
誰かが大声でそう叫ぶ。
寧樹が鎌を躱して、相手のボディに左の拳を叩き込んだ。だが、相手は体こそ浮き上がったものの、大したダメージを受けてはいない様だった。
「う~ん、困ったわね……」
相手は武器を持っているが、寧樹には現時点で武器の持ち合わせが無い。相手の武器を取り上げようにも、肘から先がそのまま刃物に変わっている為、腕を蹴っても武器を弾き飛ばすことは出来ないであろう。
人間として戦っている寧樹は、この衆人環視の中、どうやって、この強敵から萌香の身を守ったら良いのか、流石に思い悩んだ。
最悪、人間としての戦いを放棄して、萌香の命を守ると云うことを優先せねばならないかも知れない。
寧樹がそう考えた、その時だった……。
会場の端から駆け上がってくる二つの影。一人は先程の小田原平蔵。人間技とは思えないスピードで寧樹たちに近づいて、挑のボディに跳び蹴りを見舞う。
「風祭!」
小田原に風祭と呼ばれたもう一人の男は、床に仰向けに滑り込み、そのままの形で銃を構えていた。そして蹴りを食って怯んでいる敵の頭部を、下からの一撃で撃ち抜いて粉砕する。
水平に銃を発射したのでは、流れ弾や貫通弾で怪我する人間が出る。恐らく、その危険性があることを考慮したのであろう。彼は銃口を斜め上に向ける形で相手を倒したのだ。
試験会場は、一瞬で混乱の渦に巻き込まれていた。審査員は大騒ぎで体育館から脱出していき、警察隊は逆に異星人テロリストがまだいないかと会場に雪崩込もうとしている。
そんな中、候補者である萌香は、小田原平蔵に庇われる形で、体育館の端に避難させられていた。
萌香は、危機を救ってくれた小田原に、まず礼を言わねばと考えた。
「ありがとうございます」
「ご無事で何よりです」
「でも……、異星人テロリストとは言え、問答無用で射殺するのは、どうかと思いますわ。彼らにも人権がありますもの」
彼女は既に体を返して貰い、萌香本人に戻っていた。その萌香の言葉を聞いた小田原は少し驚いた表情を見せる。
「これは驚いた。異星人討伐隊の入隊試験を受けに来た候補生で、異星人排斥論者の入生田重国氏の孫娘が、異星人の人権なんてことを言い出すとはね……」
この小田原の言葉に、「本当、自分でも何を言っているのでしょう?」と思い、萌香は頬を赤らめてしまうのであった。