誰なのか(4)
文字数 1,701文字
それでも、その日は学校に行くことを萌香は許可して貰えなかった。運転手は宮城野で妥協するとしても、未だセンチュリーの安全性について、重国は納得していなかったからだ。萌香もこれについては、仕方なく譲歩したのであった。
翌朝、萌香は後部座席に入ろうとすると、そこには、何故か、ごつそうな体つきの男が腕を組んで座っていた。
「済みませんが、わたくし、この車で学校まで行かなければ為りませんの。お退 きになって頂けませんこと?」
しかし、男は表情も替えず、正面を向いたまま微動だにしない。
「宮城野!! これは、一体、どう云うことですの?!」
萌香は運転手の宮城野にクレームを入れる。只、一応、第三者がいるので、萌香も宮城野に「さん」付けで呼ぶのだけは控えた。
「お嬢様、こちらは重国様の雇われになった萌香様の護衛で、早雲山さんと云う格闘家の方です。相撲界からプロレスラーに転職され、その方面では結構有名なお方ですよ」
「それが何で?」
「私だけでは不安なので、登下校には、常に彼が同乗することに決められたとのことでございます」
萌香は「面倒な事になった」と思い、思わず溜息を付いてしまった。
宮城野一人ならば、彼の目を盗んでサント・ネイジュに変身すれば良いだけのことだったのだが、これからは宮城野だけでなく、この早雲山と云う男にも見られない様に、上手く隠れて変身しなければならなくなってしまったのである。
仕方なく早雲山と入れ替わり、後部座席の奥側に乗り込んでから、萌香は一言二言 、愚痴が言いたくて、手首を爪で弾いて金の腕輪を出した。
そして、心の中で思いっきり、寧樹にこのことの文句を言う。
「寧樹、どうにかして下さいません?」
「上手いこと遣るから大丈夫よ。それより、一つ提案があるのだけど……」
「何ですの? 提案って」
「朝一だけで良いのだけど、一分ばかり腕輪を外してくれないかな?」
「どうしてですの? 朝から変身なんて、わたくし、少々低血圧気味なので、ご勘弁させて頂きたいのですけれど……」
「変身しなくていいのよ。『危険察知』をしておきたいの……。大悪魔女帝って人が言っていたんでしょう? 『腕輪を嵌めたままにするな』って」
「危険察知?」
「そう。その日一日、危険な罠が無いかを事前に察知しておくのよ。叔母さんみたいに上手じゃないけど、そうして置けば、昨日みたいな事は、もう無い筈よ」
「分かりましたわ。今、外しますから、ここで変身など、絶対にしないで下さいね」
「OK!」
萌香は腕輪を引っ張って外す。
しかし何も起こらず、暫くして後、寧樹は右手に持っていた腕輪を、直ぐに元の左手首へと戻した。
「寧樹、どうでした?」
「うん。異星人討伐隊の緊急招集に参加した後、具体的には分からないけど、剛霊武 獣が出るみたいね。でも、大した相手では無いわ。それ程の脅威を感じないもの!」
「分かりましたわ。それでも、お互い用心して参りましょう」
萌香が気が付くと、既に車は走り出していて、公園の先の交差点の所まで進んでいたのであった。
ゴーラ女学院に着くと、既に昨日のネット動画が拡散されていたのか、萌香は合う人、合う人に「大丈夫?」と心配された。勿論、おざなりの挨拶の言葉である。
だが、女子高であったことで、男子から嫌らしい目で見られたり、冷やかされなかったことは、萌香にとってラッキーだったと云える。流石にあの時の衣装は、ちょっと男子には刺激が強過ぎるものだったのだ。
だが、おざなりの挨拶ばかりと言っても、中には本気で心配してくれる友人もいた。片平乙女もそんな友人の一人である。
彼女は萌香の姿を目にすると、周りの目の気にせず、萌香の方へと走って来てくれた。そんな乙女に、萌香は笑顔で「お早うございます」と、普通に朝の挨拶する。
だが、乙女は今にも泣き出しそうだった。
彼女は拉致の現場に居合わせたこともあり、彼女なりに責任を感じていたのだろう。
「お早う、片平さん。心配をお掛けしてしまったようですわね」
「入生田さん……。良かったわ、無事で。本当に……」
萌香は、そうやって心配してくれる乙女の存在を、とても有難いことだと感じていた。
翌朝、萌香は後部座席に入ろうとすると、そこには、何故か、ごつそうな体つきの男が腕を組んで座っていた。
「済みませんが、わたくし、この車で学校まで行かなければ為りませんの。お
しかし、男は表情も替えず、正面を向いたまま微動だにしない。
「宮城野!! これは、一体、どう云うことですの?!」
萌香は運転手の宮城野にクレームを入れる。只、一応、第三者がいるので、萌香も宮城野に「さん」付けで呼ぶのだけは控えた。
「お嬢様、こちらは重国様の雇われになった萌香様の護衛で、早雲山さんと云う格闘家の方です。相撲界からプロレスラーに転職され、その方面では結構有名なお方ですよ」
「それが何で?」
「私だけでは不安なので、登下校には、常に彼が同乗することに決められたとのことでございます」
萌香は「面倒な事になった」と思い、思わず溜息を付いてしまった。
宮城野一人ならば、彼の目を盗んでサント・ネイジュに変身すれば良いだけのことだったのだが、これからは宮城野だけでなく、この早雲山と云う男にも見られない様に、上手く隠れて変身しなければならなくなってしまったのである。
仕方なく早雲山と入れ替わり、後部座席の奥側に乗り込んでから、萌香は
そして、心の中で思いっきり、寧樹にこのことの文句を言う。
「寧樹、どうにかして下さいません?」
「上手いこと遣るから大丈夫よ。それより、一つ提案があるのだけど……」
「何ですの? 提案って」
「朝一だけで良いのだけど、一分ばかり腕輪を外してくれないかな?」
「どうしてですの? 朝から変身なんて、わたくし、少々低血圧気味なので、ご勘弁させて頂きたいのですけれど……」
「変身しなくていいのよ。『危険察知』をしておきたいの……。大悪魔女帝って人が言っていたんでしょう? 『腕輪を嵌めたままにするな』って」
「危険察知?」
「そう。その日一日、危険な罠が無いかを事前に察知しておくのよ。叔母さんみたいに上手じゃないけど、そうして置けば、昨日みたいな事は、もう無い筈よ」
「分かりましたわ。今、外しますから、ここで変身など、絶対にしないで下さいね」
「OK!」
萌香は腕輪を引っ張って外す。
しかし何も起こらず、暫くして後、寧樹は右手に持っていた腕輪を、直ぐに元の左手首へと戻した。
「寧樹、どうでした?」
「うん。異星人討伐隊の緊急招集に参加した後、具体的には分からないけど、
「分かりましたわ。それでも、お互い用心して参りましょう」
萌香が気が付くと、既に車は走り出していて、公園の先の交差点の所まで進んでいたのであった。
ゴーラ女学院に着くと、既に昨日のネット動画が拡散されていたのか、萌香は合う人、合う人に「大丈夫?」と心配された。勿論、おざなりの挨拶の言葉である。
だが、女子高であったことで、男子から嫌らしい目で見られたり、冷やかされなかったことは、萌香にとってラッキーだったと云える。流石にあの時の衣装は、ちょっと男子には刺激が強過ぎるものだったのだ。
だが、おざなりの挨拶ばかりと言っても、中には本気で心配してくれる友人もいた。片平乙女もそんな友人の一人である。
彼女は萌香の姿を目にすると、周りの目の気にせず、萌香の方へと走って来てくれた。そんな乙女に、萌香は笑顔で「お早うございます」と、普通に朝の挨拶する。
だが、乙女は今にも泣き出しそうだった。
彼女は拉致の現場に居合わせたこともあり、彼女なりに責任を感じていたのだろう。
「お早う、片平さん。心配をお掛けしてしまったようですわね」
「入生田さん……。良かったわ、無事で。本当に……」
萌香は、そうやって心配してくれる乙女の存在を、とても有難いことだと感じていた。