とある地方都市にて(9)

文字数 1,545文字

「萌香……、ご免ね……」
 萌香の心の中で寧樹が謝っていた。
 萌香は寧樹に文句を言って、物を投げて、叩いて、わんわんと泣きじゃくりたかった。でも、寧樹が悪い訳ではない。萌香は、それが分かるだけの、分別ある大人だった。
「寧樹……」
「萌香……、もう帰ろうか……」
 萌香は考えていた。いや、考えていたと言うより、ただ、心を落ち着かせていただけだったのかも知れない。それでも、言葉を発するまでには、少し間を置かずにはいられなかった。
「寧樹、わたくしの為、人間の為に力を貸して頂けませんこと? 勿論、ルールと云うことも理解できましたし、叔母と姪と云う関係でいがみ合いたくないってことも分かった心算ですわ。でも……、わたくしだけでは、滅亡へ向かう流れを止めることなど出来ません。ですから、寧樹の力を、どうしても、お借りしたいのです!」
「何言ってんのよ! あったり前じゃない! 今まで以上に私、気合入れていくから。萌香も一緒に全開で戦ってね!」
「わたくし、ずっと勘違いしておりました」
「???」
「お友達に頼まれた寧樹が、わたくしの身体を借りて戦っているものだと……。ですから、わたくし、自分はあくまで戦いに巻き込まれただけの人間なのだと……。
 でも、実はそうでは無かったのですね。
 人類の、いえ、わたくし、入生田萌香の戦いを、寧樹がずっと手伝ってくださっていたのですね。わたくし、寧樹に感謝しても、しきれませんわ……」
「もう、何言ってんのよ! 萌香らしくない!!」
 寧樹は少し照れている様だった。
「じゃぁ、萌香。そろそろ帰ろうか? 明日から、ギアを1つ上げて行くからね」
「その前にわたくし、して置きたいことがありますの……」
 寧樹はどういう事だか分からない。
「ひとつ目は、世界遺産センターを見て行きましょう。寧樹、見たかったんじゃありませんの? わたくしのせいで叔母様に奢ってもらえませんでしたから……。わたくしが奢りますわ。1人分の料金ですし……」
 確かに2人で1人。料金は1人分だ。
「もう1つは、新田有希さんのご家庭を拝見したいと思っておりますの。だって、あの方、最初に逢った寧樹に瓜二つじゃありませんか……。これって、パラレルワールドって事ではご在ません? であれば、あの方のご両親、寧樹のご家族とそっくりなのかも知れませんでしょう? わたくし、本物に逢うことは叶わないと思いますけど、この時空の寧樹のご家族になら、挨拶くらいさせて頂けるのではないでしょうか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでよぉ! 私の両親、特に父なんか見たって、顔もいまいちで、格好も悪いし、ボケているし、本当、どうしょうもないんだから……」
「あら? そんな恥ずかしがらなくても、宜しいのではございません?」
 萌香は笑っていた。それを見て、寧樹も「会いに行くのは、仕方ないか……」と諦めた。それで萌香の元気が出るのなら、恥ずかしいことくらい我慢するしかないだろう。

 駅向こう、焼きそばを食べた場所の直ぐ手前にある世界遺産センターを一回り周ってから、2人はのんびりと南口に戻り、そこから新田有希の家へと立ち寄った。
 訪問の理由は、先程の異星人(実は大悪魔であるが……)は撃退したとの報告と、彼女に怪我が無かったか? とのお見舞いと云うことで誤魔化した……。
 陽はもう既に落ち、長い時間の訪問は出来なかった。さっと本人とご両親に逢って、挨拶だけ済ませただけである。勿論、帰りは瞬間移動で自分の部屋に直行する心算だ。

 萌香は、新田有希のご両親が、彼女の両親と似ていたかを敢えて訊ねなかった。
 彼女はご両親に逢った時、随分緊張していたみたいだし、帰路でも「似てなかった」とは一言も言わなかったからだ。萌香には、それで充分その答えになっている。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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