入隊選抜試験(6)
文字数 1,061文字
入隊選抜試験の翌日は月曜日。休む理由のない萌香は、ゴーラ女学院高にいつもの様に登校している。
ここ最近、萌香は運転手 に何か言う気にもなれず、登校中は黙っていて、車から降りる時だけ「ありがとうございます」と礼を述べるようにしていた。
学校内でも、お嬢様然とした高飛車な態度は控えるようにし、極力普通の喋り方に戻す様に彼女は意識している。
「そう言えば、この様な話し方にしたのは、中学校に入ってからでしたわね……」
小学生の時は気にしなかったのだが、中学に入って、自分がお嬢様だと言われるようになると、そういう態度を取らなければいけない気がして、萌香は行動を改めだした。
それと同時に、いままで付き合っていた友だちと離れ、今傍らにいる塔野や宮ノ下と言った連中と行動を共にする様になっていったのである。
「なんで、そうなってしまったのかしら?」
煽てあげられると、確かに気分が良い。完璧な、お嬢様、萌香……。だが、それは祖父の影が創った幻であった。
それを嫌と言うほど見せつけたのが、今彼女に憑依している寧樹であった。
彼女は運動が出来、萌香の知らないことを幾つも知っていて、おまけに萌香より遥かに美しい。幾ら萌香が着飾ったとしても、寧樹の個体としての美しさには、萌香ではどうやっても敵わない様に思えた。
恐らく寧樹は、自分の世界では誰からも愛される存在であるに違いない。萌香とは大違いだ。そう思うと、悲しくなる前に虚しい笑みが零れてくる。
昔、萌香の境遇を羨んで、「人は生まれながらにして平等ではない」と言った人がいたが、萌香自身、今そのことに心の底から納得できた。
授業も終り、彼女は家に帰る為、迎えに来たセンチュリーに乗り込んだ。そして帰路の途中、萌香は珍しく運転手 に声を掛けた。
「すみません、前の運転手さんのこと、ご存知ありますか?」
「え?」
「運転手さんに替わる前、私の為に怪我をされたんじゃないかと……」
運転手 は何も答えなかった。
萌香は詰まらないことを訊いたと思い、下を向いて黙り込んだ。
暫く走って、やっと運転手が言葉を返す。
「意外ですね。お嬢様が、運転手風情を気に掛けられるなんて……」
「ご免なさい……」
「いえ、別に」
車の中はまた暫く無言の世界に戻る。そして、今度は数分後、運転手 がやっと重い口を開いた。
「彼は死にましたよ」
「え!」
「どうです? 彼の墓はここから近いのですが、墓参りにでも立ち寄りますか?」
「是非、是非、お願いします」
彼女の言葉と同時に、何時も左に曲がる交差点を車は真直ぐに走り抜けて行った。
ここ最近、萌香は
学校内でも、お嬢様然とした高飛車な態度は控えるようにし、極力普通の喋り方に戻す様に彼女は意識している。
「そう言えば、この様な話し方にしたのは、中学校に入ってからでしたわね……」
小学生の時は気にしなかったのだが、中学に入って、自分がお嬢様だと言われるようになると、そういう態度を取らなければいけない気がして、萌香は行動を改めだした。
それと同時に、いままで付き合っていた友だちと離れ、今傍らにいる塔野や宮ノ下と言った連中と行動を共にする様になっていったのである。
「なんで、そうなってしまったのかしら?」
煽てあげられると、確かに気分が良い。完璧な、お嬢様、萌香……。だが、それは祖父の影が創った幻であった。
それを嫌と言うほど見せつけたのが、今彼女に憑依している寧樹であった。
彼女は運動が出来、萌香の知らないことを幾つも知っていて、おまけに萌香より遥かに美しい。幾ら萌香が着飾ったとしても、寧樹の個体としての美しさには、萌香ではどうやっても敵わない様に思えた。
恐らく寧樹は、自分の世界では誰からも愛される存在であるに違いない。萌香とは大違いだ。そう思うと、悲しくなる前に虚しい笑みが零れてくる。
昔、萌香の境遇を羨んで、「人は生まれながらにして平等ではない」と言った人がいたが、萌香自身、今そのことに心の底から納得できた。
授業も終り、彼女は家に帰る為、迎えに来たセンチュリーに乗り込んだ。そして帰路の途中、萌香は珍しく
「すみません、前の運転手さんのこと、ご存知ありますか?」
「え?」
「運転手さんに替わる前、私の為に怪我をされたんじゃないかと……」
萌香は詰まらないことを訊いたと思い、下を向いて黙り込んだ。
暫く走って、やっと運転手が言葉を返す。
「意外ですね。お嬢様が、運転手風情を気に掛けられるなんて……」
「ご免なさい……」
「いえ、別に」
車の中はまた暫く無言の世界に戻る。そして、今度は数分後、
「彼は死にましたよ」
「え!」
「どうです? 彼の墓はここから近いのですが、墓参りにでも立ち寄りますか?」
「是非、是非、お願いします」
彼女の言葉と同時に、何時も左に曲がる交差点を車は真直ぐに走り抜けて行った。