入生田萌香(4)

文字数 1,268文字

「わたくしの体を乗っ取って、自由になさろうって(おっしゃ)るのね! そのようなこと、許しは致しませんわ!」
 寧樹は興奮する萌香を無視し、自分のカップを取り、紅茶で喉を潤した。
「私、あんまりファーストフラッシュって好きじゃないのよね。ミルクに合わないでしょう? 私、ミルクティーに合わせてクッキーを食べるが大好きなのよ」
「絶対、憑依なんか、させはしませんことよ!」
 萌香は声を荒らげる。だが、寧樹は一向に気にする素振りも見せない。
「あなた、自分の立場、本当に分かってないのね……。ま、いいわ。憑依させてくれたら、直ぐに無傷でお家までお送りします。それから、憑依しても、あなたが許可しない限り、あなたを操ることはしません。でも、要望はするわよ、憑依するんですもの……」
「今、ここで、わたくしに憑依なさるのですか?」
「残念、それは無理ね。ここで憑依したら、今の体が抜け殻になっちゃうもの。憑依は私の体をどこか安全な場所に移動させて、それからの話よ」
 萌香は考える……。
「確かに今の立場を考えたら、この女の言うことを聞くしかないわね……」
 で、結論はこうである。
「分かったわ。憑依しても、よろしくてよ」
「ご理解、感謝するわ。で、直ぐにお送りします? それともティータイムの後にします?」
「さっさと帰して頂戴」
 萌香がそう言うと同時に、彼女の目の前が暗くなり、気付くと、そこは彼女の屋敷の敷地内、木戸の内側であった。
 それはもう、瞬間移動したとしか考えようがなかった。将に狐にでもつままれた様な気分である。だが、確かにそこから玄関まで左程距離は無い。どうなったのか……などは後で考えるとして、萌香は屋敷まで兎に角歩いて行くことにした。

 屋敷の玄関に入ると、彼女が一人で帰ってきたと屋敷中が大騒ぎとなった。もう下校の車を襲われて、運転手(ドライバー)が殺されたことが屋敷にも伝わっていたのだろう。
 使用人たちは、萌香の無事を喜ぶと同時に皆が皆、「怖くは無かったか?」と労わりの声を掛けてくる。本来なら、ここで萌香は「何のことも無くてよ」などと応えるのであるが、今晩は流石にその様なポーズも取れない。夕食も断り、彼女は「一人にさせてくれ」と自室に籠ることにした。

 部屋にたどり着くと、萌香はベッドに疲れ切った体を投げ出していた。このまま寝てしまいたいと思う。何せ、今日は体育でも無いのに、公園の中を黒服の男に追われ、散々に走らされていたのである。
 だが眠れない……。
 萌香は寝返りを打って仰向けになる。そして、天蓋の模様を眺めながら考えた。
「あの寧樹とか言う女、一体、何を企んでいるのでしょう?」
「でも、いいわ。わたくし、こうして無事に帰れたのですもの」
 萌香は考えながら、思わず思い出し笑いを漏らしてしまう。
「帰ってしまえば、こっちのものですわ。騙されたとも知らず馬鹿な女。あんな奴の言うことなど、わたくしが聞く訳ないじゃありませんか……。『憑依しに来た』なんて家に来たら、異星人テロリストの現行犯として逮捕して貰いますわ」
 そう思うと、萌香は少し溜飲が下がる思いがした。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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