とある地方都市にて(7)

文字数 1,668文字

 剛霊武(ゴレム)獣のことについて、入生田萌香は小田原隊長から既に聞いていたので驚きはしなかった。だが……、それが人類が造っていたものだったこと、そして、大悪魔女帝がそれを利用して、大悪魔の復活を画策していると云う話は初耳であった。
 しかし、彼女の云うことが、もし真実だとすると、幾つかの矛盾する事実が浮かび上がってくる。
「でも、だったら、どうして人間の造った剛霊武(ゴレム)獣が人間を襲うのですか? 異星人を襲うのではなくて……。そして、どうして、人類の組織である異星人討伐隊が、剛霊武(ゴレム)獣と闘っているのでしょう?」
「それは萌香ちゃんには難しいかな? 剛霊武(ゴレム)獣が人間を襲うのは、異星人は凶悪なテロリストだと云う印象を、一般大衆に根付かせる為なの……。そして、異星人討伐隊が剛霊武(ゴレム)獣と闘っているのは、リーダーの小田原隊長が、異星人解放戦線の、

だからよ」
「小田原隊長が……?」
「そう。実は……小田原隊長も風祭隊員も、政府機関に潜入しているスパイなの。あ、これ内緒ね。萌香ちゃんだって、同じ様なもんでしょう?」
 確かに、萌香と寧樹は異星人を排斥しようと考えて戦っている訳ではなく、寧ろ衝突を避けようとしているのであるから、潜入スパイと大きな違いはない。
「分かって貰えたかしら? 私たち大悪魔は、率先して人類に攻撃などしていないし、侵略行為もしていない。ただ、人類と異星人が衝突し、衰退していくのを見守っているだけ。あくまで人類に攻撃しているのは、異星人テロリストとそれを騙った人類自身よ。そして、その邪魔しているのも、在住の異星人と地球人の活動家たち……」
「でも! 剛霊武(ゴレム)獣に憑依して破壊工作しているのは、異星人排斥に味方しているってことではありませんの!!」
 萌香は自分の口でそう叫んでいた。
「それは有希ちゃんも一緒でしょう? 萌香ちゃんに憑依して、人類と異星人の衝突を邪魔しようなんて、活動家のしていることと何も変わらないじゃない」
 確かにそうだ。有希のしていることは、明らかに、この時空の住人の、自滅して行くと云う自発的な行動を邪魔して、不当にこの世界の自決権を侵害しているのだ。
「勿論、私だって清廉潔白な人間じゃないから、不当な介在は結構しちゃうわ。それに、有希ちゃんだって、サーラちゃんに頼まれた以上、簡単には引けないでしょう?」
 そこで大悪魔女帝はニヤリと笑った。
「でね、有希ちゃんに提案したいのよ。私と勝負しないかって……」
「勝負?」
「有希ちゃんも、沼藺(ぬい)が創った金丹を持っているんでしょう?」
 萌香は、寧樹が火取黒筋に飲ませた金の丸薬を思い出した。あれは全ての怪我と病気を治すと寧樹が言っていた万能薬だ。
「私たちで殺し合いをして、相手に金丹を飲ませた方の勝ち。有希ちゃんが負けたら、黙って萌香ちゃんから憑依を解いて、今すぐ兄さんの所に戻る……」
「もし叔母さんが負けたら?」
剛霊武(ゴレム)獣を全て破壊して、私は私の時空に戻るわ。剛霊武(ゴレム)獣への憑依は、私が他の大悪魔の為に創った琰で行っている。剛霊武(ゴレム)獣から脱出する時の為にも持たせているけどね。
 それを私が破壊してしまえば、この時空に琰を創る技術のある法具のスペシャリストはもういない。政府がどう動こうとも、ブラウがどう足掻こうとも、もう剛霊武(ゴレム)獣は現れることは出来ない筈だわ」
「成程ね……」
「その後、萌香ちゃんや有希ちゃんがどう介在しようと、私は一切手を出さない……。それでどうかしら?」
「悪い話では無いわ……」
「ルールを決めて戦った方が、お互い、殺し合うのに遠慮なく出来るでしょう?」
「殺し合うとおっしゃるの?」
「ええ、そうよ。でも安心して、萌香ちゃん。私たちは簡単に死なないし、金丹を飲めば治ってしまう。これはあくまでゲームなの。だから、有希ちゃんが叔母である私を殺そうとしても、単なるゲーム上のお遊びなのよ。遠慮は要らないわ」
「OKよ、耀子叔母さん。で、ルールは?」
「地球が破壊される規模の攻撃は、お互いにしないこと。あと、過去への伝言によるやり直しは矢張り無しにしましょう! きりがないから……」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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