入生田萌香(3)

文字数 1,001文字

「ば、化け物め!」
 サングラスを掛けた黒服の男たちは、そんな捨て台詞を残して一目散に走って逃げ出して行った。
「失礼ね、誰が化け物よ!」
 寧樹と名乗った女性は彼らを追おうとはせず、呆れた様にそう言った。そして、ゆっくりと萌香に近づいてくる。萌香ももう安心したのか、怯え切っていたのもどこへやら、いつものお嬢様の態度が復活していた。
「中々遣りますわね。お祖父様に褒めて貰えるように伝えて置きますわ。さ、早く屋敷まで送って頂戴!」
「あら、あなた……、ふたつ間違っているわよ」
「間違っている?」
「ええ。助けて貰ったと思うのなら、その態度は無いわよね。まず『ありがとう』って、お礼を言うものよ。次に、あいつらをやっつけたからって、あなたの味方とは限らないでしょう? 分からないの? 私、これから、あなたを拉致しようって思っているのよ」
 萌香はそれを聞いて、逃げ出そうと後を向いて一歩目を踏み出した。だが、走り出す為の二歩目は動かすことは出来なかった。萌香はこの瞬間、完全に眠りに堕ちてしまい、その場に崩れ落ちていたのである。

 萌香が目を醒ましたのは、どこかのマンションの一室……。彼女は縛られもせず、リビングのソファの上に座らされていた。それと同時に、キッチンの方向から先程の女性がティーポットと二脚のティーカップを乗せたトレイを持って萌香の処へとやってくる。
「やっと目を醒ましたわね。ま、お紅茶でも飲んで。でも、お嬢様のお口に合うかしら? 一応、ダージリンのファーストフラッシュなんだけど……」
「あなた、早く、わたくしを帰しなさい! さもないと、お祖父様に言いつけますからね!!」
「もう、全然、立場が分かって無いのね。少し拷問でもしちゃおうかしら……」
 寧樹は笑いながらそう云うと、トレイをテーブルに置いて、自分は萌香の斜向(はすむ)かいに腰掛けた。一方、萌香は先程の寧樹の強さを思いだし、思わず恐怖に体を強張らせる。
「冗談よ」
 そう笑って言われても、萌香は寧樹の言うことなど信用できず、体は強張ったままだ。
「帰して欲しいのなら、私の要求を飲んでくれるかしら?」
「要求って……、何ですの?」
「そんな難しい事じゃないの。あなたに私が憑依するのを認めて欲しいのよ」
「憑依?」
「そう。あなたの心に、私を一時的に住まわせて欲しいの」
 そう言いながら、寧樹はティーポットの中の薄い色の液体を、其々(それぞれ)のティーカップへと注いだのである。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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