仮面舞踏会の終わり(4)
文字数 1,903文字
小田原隊長は何も語らなかった。そう、答える言葉が無かったのだ。だが、それは、サント・ネイジュの正体を現した萌香には、裏切りにしか思えなかった。
重苦しい沈黙が甘い香りの満ちている応接室を包み込んで行く。甘い香りはネイジュの登場に興奮した志郎が、思わず出してしまったコレマタのフェロモンであろう。だが、この部屋にいる女性は萌香と寧樹だけだ。この為、それは部屋に染み付いた単なる怪しい臭気と何ら変わらない。
この不思議な沈黙を破ったのは、その女性のうち1人、寧樹であった。
「私が話しましょうか? 出来れば、隊長の口から語って貰いたかったのですけど……」
「え? 寧樹は知っていらしたの?」
これはネイジュの心の中での萌香の声。だが、それに対する寧樹の答えは、小田原隊長にも聞こえる様に有声で行われた。
「ええ。小田原隊長の心は読めなかったんだけど、他の人の心なら読めるのよ。風祭隊員の心とかはね……」
「君は……、憑依されているのか……」
萌香は思う。
「小田原隊長は、大悪魔が憑依できることを知っている……」と。
「そうです。私は萌香に憑依しています。でも、私はシンディ小島ではありません。彼女と同じ様に人の心が読めるけど、私は彼女の姪です……。シンディ小島は、大悪魔女帝の方です。でも、あなたをサポートしていた人との関係なら話せるでしょう? 小田原隊長、いいえ、鈴木挑さん……」
寧樹が言った最後の言葉。その重大な意味が萌香や志郎には分からない。だが、鈴木挑と呼ばれた小田原隊長には、その名を呼ばれたことに相当のショックを受けたらしい。
その為か、彼も知っていることを全て話す気になった様であった。
「そうか……、彼女のことも知っていたのか。そして入生田隊員、君はSPA-1のお嬢さんに憑依されていたってことか……」
「SPA-1?」
「私の父のここでの名前。パパって適当だから、そんなの何も気にしないのよ」
今度の萌香の心の中の問いには、寧樹が心の中で答えた。勿論、それは志郎にも小田原隊長にも聞こえては来ない。
「確かに私は鈴木挑。異星人共生型強化人間にして、異星人警備隊の元隊長……。そして、モス星人を逃がしたのも、確かに私と風祭でやったことだ」
「風祭隊員の正体は、あなたの義理の弟、天空橋架さんですね……」
「ああ、そうだ。この国の異星人政策に同意出来なかった私は、異星人警備隊を止め、弟の架とともに異星人解放戦線に身を投じていたのだ。私には異星人の友人が多くいてね、彼らが異星人であったとしても、一緒に戦ってくれた仲間だったし、人種が違うからと言って、待遇に差別があるのが、どうしても許せなかったのだ」
「で、異星人討伐隊に潜入して、内部から異星人への虐待を阻止しようとしたのですね。でも、何で一度辞めたのに、同様の組織へと潜入をし直すことにしたのですか?」
「私の高校時代の同級生に、鳳サーラって子がいてね、十数年ぶりに連絡をくれたんで、私も懐かしくなって彼女に逢ったのだよ。そこで彼女が、『このまま人類と異星人がいがみ合っていると、大悪魔がその機に乗じて地球を支配してしまう。だから、異星人警備隊に戻って、大悪魔の野望を阻止してくれ』って、そう私に協力を依頼して来たんだ」
「そうか、サーラもこの時空に来て、陰で動いていたのか……」
「そして、度々サーラから連絡が来た」
「サーラから?」
「彼女から、剛霊武 獣と云う怪物が、何時、どこに出てくるかと云う情報が予めメールで送られて来るんだ。異星人討伐隊の専用通信機にね……。私がどこに剛霊武 獣がでるかを事前に知っていたのはその為さ。君が入隊試験の時、鈴木挑を名乗る人物が現れ、そいつの正体が剛霊武 獣だと知っていたのも、そう云う理由だったんだ」
「流石のサーラにも、そこまで分かる筈がないわ。恐らくそれは、サーラの名を騙った、別人からのメールね……」
「そんな馬鹿な……」
これまで、全く話についていけなかったモス星人の火取志郎だったのだが、そのタイミングでやっと質問を発することが出来た。
「そいつは誰だって言うんだよ?」
「耀子叔母さん、シンディ小島よ……」
「そのシンディ小島って、大悪魔女帝って奴なんだろう? なんでそいつが、大悪魔から地球を護ろうって云う奴に、剛霊武 獣の情報を送ったりするんだ?」
そう。萌香にも、それは理解出来ないことであった。
「なんで大悪魔女帝は、剛霊武 獣の出現情報を小田原隊長にリークしていたんだろう? 彼女自身が剛霊武 獣を造った張本人だし、それを操って侵略活動をしている大悪魔側の帝王である筈なのに……」
「私には分かるんだ……」
寧樹が心の中で呟いた。
重苦しい沈黙が甘い香りの満ちている応接室を包み込んで行く。甘い香りはネイジュの登場に興奮した志郎が、思わず出してしまったコレマタのフェロモンであろう。だが、この部屋にいる女性は萌香と寧樹だけだ。この為、それは部屋に染み付いた単なる怪しい臭気と何ら変わらない。
この不思議な沈黙を破ったのは、その女性のうち1人、寧樹であった。
「私が話しましょうか? 出来れば、隊長の口から語って貰いたかったのですけど……」
「え? 寧樹は知っていらしたの?」
これはネイジュの心の中での萌香の声。だが、それに対する寧樹の答えは、小田原隊長にも聞こえる様に有声で行われた。
「ええ。小田原隊長の心は読めなかったんだけど、他の人の心なら読めるのよ。風祭隊員の心とかはね……」
「君は……、憑依されているのか……」
萌香は思う。
「小田原隊長は、大悪魔が憑依できることを知っている……」と。
「そうです。私は萌香に憑依しています。でも、私はシンディ小島ではありません。彼女と同じ様に人の心が読めるけど、私は彼女の姪です……。シンディ小島は、大悪魔女帝の方です。でも、あなたをサポートしていた人との関係なら話せるでしょう? 小田原隊長、いいえ、鈴木挑さん……」
寧樹が言った最後の言葉。その重大な意味が萌香や志郎には分からない。だが、鈴木挑と呼ばれた小田原隊長には、その名を呼ばれたことに相当のショックを受けたらしい。
その為か、彼も知っていることを全て話す気になった様であった。
「そうか……、彼女のことも知っていたのか。そして入生田隊員、君はSPA-1のお嬢さんに憑依されていたってことか……」
「SPA-1?」
「私の父のここでの名前。パパって適当だから、そんなの何も気にしないのよ」
今度の萌香の心の中の問いには、寧樹が心の中で答えた。勿論、それは志郎にも小田原隊長にも聞こえては来ない。
「確かに私は鈴木挑。異星人共生型強化人間にして、異星人警備隊の元隊長……。そして、モス星人を逃がしたのも、確かに私と風祭でやったことだ」
「風祭隊員の正体は、あなたの義理の弟、天空橋架さんですね……」
「ああ、そうだ。この国の異星人政策に同意出来なかった私は、異星人警備隊を止め、弟の架とともに異星人解放戦線に身を投じていたのだ。私には異星人の友人が多くいてね、彼らが異星人であったとしても、一緒に戦ってくれた仲間だったし、人種が違うからと言って、待遇に差別があるのが、どうしても許せなかったのだ」
「で、異星人討伐隊に潜入して、内部から異星人への虐待を阻止しようとしたのですね。でも、何で一度辞めたのに、同様の組織へと潜入をし直すことにしたのですか?」
「私の高校時代の同級生に、鳳サーラって子がいてね、十数年ぶりに連絡をくれたんで、私も懐かしくなって彼女に逢ったのだよ。そこで彼女が、『このまま人類と異星人がいがみ合っていると、大悪魔がその機に乗じて地球を支配してしまう。だから、異星人警備隊に戻って、大悪魔の野望を阻止してくれ』って、そう私に協力を依頼して来たんだ」
「そうか、サーラもこの時空に来て、陰で動いていたのか……」
「そして、度々サーラから連絡が来た」
「サーラから?」
「彼女から、
「流石のサーラにも、そこまで分かる筈がないわ。恐らくそれは、サーラの名を騙った、別人からのメールね……」
「そんな馬鹿な……」
これまで、全く話についていけなかったモス星人の火取志郎だったのだが、そのタイミングでやっと質問を発することが出来た。
「そいつは誰だって言うんだよ?」
「耀子叔母さん、シンディ小島よ……」
「そのシンディ小島って、大悪魔女帝って奴なんだろう? なんでそいつが、大悪魔から地球を護ろうって云う奴に、
そう。萌香にも、それは理解出来ないことであった。
「なんで大悪魔女帝は、
「私には分かるんだ……」
寧樹が心の中で呟いた。