魅了する甘い香り(3)
文字数 1,603文字
塔野佐和子に案内されたのは、商業ビルの地下、高校生だけで入店するには、少しアダルト過ぎる雰囲気のレストラン……。階段以外には、脱出する出口など全く無さそうな場所であった。
常日頃、何も考えていない宮ノ下美里も、この怪しい雰囲気には不安の色を隠せない。
萌香は思う……。
敵のターゲットは恐らく自分ひとり。宮ノ下美里は、そのおまけで連れて来られたに過ぎない。いざとなったら、彼女が逃げ出すことは難しくはないに違いない。
それに、宮城野と早雲山が萌香らの乗ったハイヤーを追跡し、店の外で待機している筈だ。最悪の場合、宮城野と早雲山に彼女を護って貰い、宮城野の車に乗せて連れて帰って貰えば良いのだ。
そう。宮城野には、自分を追跡し店の前で帰りを待っている様に指示してある。勿論、塔野には、運転手に先に帰るように伝えたとだけ説明してのことだ。
塔野が予約してあった部屋には、既に3人のイケメン高校生が席に着いており、彼女らの到着を待ち侘びていた。
彼らは少女漫画か、韓流ドラマで出てきそうな雰囲気の男子たちで、どう見ても出来過ぎているとしか思えない。
昔の萌香なら、「私の相手をしようって言うのですもの、この位常識でしょう?」などと嘯いたかも知れないが、今の萌香から見ると、この男子高校生の姿は滑稽ですらある。
彼女らが席に着くと、店の女主人が6人の高校生の客に挨拶に現れた。
「皆様、本日は私共の店にご足労頂き、光栄にございますわ。わたくし、当店のシェフを務めさせて頂いております、コメットと申します。当店は中華風にアレンジしたフレンチのレストランで、コキーユサンジャックなどの新鮮な海産物料理を得意として居りますのよ。皆様のお口にあいますよう、誠心誠意お料理させて頂きますので、ご賞味頂きます様、宜しくお願いします」
そして最後に、「では、素敵なお時間をお過し頂けます様に……」と、そう言葉を残してキッチンへと戻って行った。
それと入れ替わるように、ウェイターが萌香らに飲み物をサーブする。だが、残念ながら、それはワインではなく、炭酸ガス入りの水。透き通ったグラスに小さな泡が止めどもなく湧き上がっていた。
一息吐くと、塔野が立ち上がった。
「では、私の方から、全員の紹介をさせて頂きますわ……」
いかにも、塔野が本日のホステスの様であった。だが、恐らく実際のホストは前の3人に違いない。
すると、その中の1人、中央に座っていた男子が塔野を遮った。
「そんな堅苦しい紹介は止めようぜ」
「でも……。入生田さんは、あの入生田重国様の……」
萌香も堅苦しいことは望みではない。それに、これから戦うかも知れない相手なのだ。マナーも何もないだろう。
「塔野さん、わたくしたち高校生ですのよ。もっとフランクに参りましょう。では、わたくしから……。わたくし入生田萌香と申します。塔野さんとゴーラ女学院でご一緒させて頂いておりますわ。今、塔野さんが口にされた様に、祖父は異星人排斥主義者の入生田重国です。あら、これは皆様、既にご存じだったかしら?」
萌香は、挑戦的な目で正面の3人を見下ろし、少し皮肉を込めて自分の紹介を終えた。相手が異星人だと知っていると、敢えて宣戦布告したのである。当然、それを聞いた相手の目にも怪しい光が灯ってくる。
次に宮ノ下美里が、オドオドと短い自己紹介を行う。萌香より目立たない様に苦心しているようであった。
そして、塔野佐和子を跳ばして男子3人が紹介を始めた。
「俺は火取志郎。北鎌倉高校の2年生だ」
県立北鎌倉高校と言えば、県内でも有数の進学校。それだけで、宮ノ下などはポーっとしてしまう。
「こいつの双子の兄の火取黒筋。似ていないだろう?」
「同級生の与那国燦です。僕は……」
「俺たちの友だちだろう?」
火取志郎が彼の言葉をそう引き継いだ。見た所、イケメン兄弟とその取り巻きと云う関係を装っているらしい。
常日頃、何も考えていない宮ノ下美里も、この怪しい雰囲気には不安の色を隠せない。
萌香は思う……。
敵のターゲットは恐らく自分ひとり。宮ノ下美里は、そのおまけで連れて来られたに過ぎない。いざとなったら、彼女が逃げ出すことは難しくはないに違いない。
それに、宮城野と早雲山が萌香らの乗ったハイヤーを追跡し、店の外で待機している筈だ。最悪の場合、宮城野と早雲山に彼女を護って貰い、宮城野の車に乗せて連れて帰って貰えば良いのだ。
そう。宮城野には、自分を追跡し店の前で帰りを待っている様に指示してある。勿論、塔野には、運転手に先に帰るように伝えたとだけ説明してのことだ。
塔野が予約してあった部屋には、既に3人のイケメン高校生が席に着いており、彼女らの到着を待ち侘びていた。
彼らは少女漫画か、韓流ドラマで出てきそうな雰囲気の男子たちで、どう見ても出来過ぎているとしか思えない。
昔の萌香なら、「私の相手をしようって言うのですもの、この位常識でしょう?」などと嘯いたかも知れないが、今の萌香から見ると、この男子高校生の姿は滑稽ですらある。
彼女らが席に着くと、店の女主人が6人の高校生の客に挨拶に現れた。
「皆様、本日は私共の店にご足労頂き、光栄にございますわ。わたくし、当店のシェフを務めさせて頂いております、コメットと申します。当店は中華風にアレンジしたフレンチのレストランで、コキーユサンジャックなどの新鮮な海産物料理を得意として居りますのよ。皆様のお口にあいますよう、誠心誠意お料理させて頂きますので、ご賞味頂きます様、宜しくお願いします」
そして最後に、「では、素敵なお時間をお過し頂けます様に……」と、そう言葉を残してキッチンへと戻って行った。
それと入れ替わるように、ウェイターが萌香らに飲み物をサーブする。だが、残念ながら、それはワインではなく、炭酸ガス入りの水。透き通ったグラスに小さな泡が止めどもなく湧き上がっていた。
一息吐くと、塔野が立ち上がった。
「では、私の方から、全員の紹介をさせて頂きますわ……」
いかにも、塔野が本日のホステスの様であった。だが、恐らく実際のホストは前の3人に違いない。
すると、その中の1人、中央に座っていた男子が塔野を遮った。
「そんな堅苦しい紹介は止めようぜ」
「でも……。入生田さんは、あの入生田重国様の……」
萌香も堅苦しいことは望みではない。それに、これから戦うかも知れない相手なのだ。マナーも何もないだろう。
「塔野さん、わたくしたち高校生ですのよ。もっとフランクに参りましょう。では、わたくしから……。わたくし入生田萌香と申します。塔野さんとゴーラ女学院でご一緒させて頂いておりますわ。今、塔野さんが口にされた様に、祖父は異星人排斥主義者の入生田重国です。あら、これは皆様、既にご存じだったかしら?」
萌香は、挑戦的な目で正面の3人を見下ろし、少し皮肉を込めて自分の紹介を終えた。相手が異星人だと知っていると、敢えて宣戦布告したのである。当然、それを聞いた相手の目にも怪しい光が灯ってくる。
次に宮ノ下美里が、オドオドと短い自己紹介を行う。萌香より目立たない様に苦心しているようであった。
そして、塔野佐和子を跳ばして男子3人が紹介を始めた。
「俺は火取志郎。北鎌倉高校の2年生だ」
県立北鎌倉高校と言えば、県内でも有数の進学校。それだけで、宮ノ下などはポーっとしてしまう。
「こいつの双子の兄の火取黒筋。似ていないだろう?」
「同級生の与那国燦です。僕は……」
「俺たちの友だちだろう?」
火取志郎が彼の言葉をそう引き継いだ。見た所、イケメン兄弟とその取り巻きと云う関係を装っているらしい。