入隊選抜試験(3)

文字数 1,280文字

 相手の名前は太原慧。女子総合格闘技では、その名を良く知られた女性であった。その彼女が何故、異星人討伐隊の入隊試験など受けているのであろうか?
 それは入生田重国の差し金である。彼は入隊する心算などない慧を雇い、臨時で試験だけを受けさせたのであった。
 そう云う訳で、相手が萌香が入生田重国の孫娘であることを当然知っている。そして、萌香に少し花を持たせてから、最後は腕でも捻って降参させようなどと考えていた。
 だが、結果は将に瞬殺であった。
 慧に無造作に近づいた萌香、いや寧樹は、組むなら組ませて遣ろうと余裕を見せる慧に対し、隼が獲物を捕えるように急加速し、右袖と右の奥襟を掴み、右の(かいな)を反して首を押さえ込む。そして、その勢いそのままに慧を大内刈りで押し倒した。
 不意を突かれた慧が、振り解こうと身体を捻って俯せに為ろうとするが、それより遥かに速く、慧の背に回った寧樹は、両足で胴締めをしながら、左手を持ち替えて、送り襟締めで慧の首を締め上げる。
 開始五秒。勝負は慧がタップしたことで終了した。審査員からもどよめきの声が沸き上がり、萌香からも賞賛の声が上がる。
「さすが寧樹、やりますわね」
「当然でしょう? さ、礼をして控え席に戻るわよ。あと2回は戦わなくちゃいけないみたいだから……」
 寧樹は相手、主審、正面に礼をし、相手の手を取る。相手も寧樹のことを見直したようであった。
「驚いたわ。萌香さんと仰ったわね、あなたなら本気で金メダル狙えるわよ」
「いいえ、本気で来られたら、私は勝てなかったかと思います」
 これは寧樹のリップサービスである。
 そうやって、お互いの健闘を讃え、二人は其々の控え席に戻った。

 第二試合。相手が出てきて、その名前が呼び上げられた時、体育館に再び低くどよめきが湧き上がる。
「白、鈴木挑」
「赤、入生田萌香」
 寧樹は気合を入れる為に、自分の頬と膝を両手で二回ずつ叩いた。
「ねぇ、どうして相手が男の人ですの?」
「なんか、主審から説明があるみたいよ」
 主審が二人を中央線の処に呼んで、男女の対戦となった理由を述べる。
「実戦では女性であっても、男以上に強力な異星人と闘うこともある。また、色仕掛けをしてくる異星人もあろう。その様な状況にも、動ぜず戦闘ができるかとの判断も含め、今回は急遽、男女混合の試合を組ませてもらうことになった。君たちも突然のことで動揺しているだろうが、このような状況で、どれ程の力をだせるかの試験でもある。勝ち負けを度外視し、最高のパフォーマンスが出せるよう、お互いに頑張ってくれたまえ」
 寧樹と対戦相手の男性は、納得したように主審に頭を下げた。
「何なのですか、これは?」
「さあね。これも重国氏の策謀じゃないかしら? ま、それにしても、随分と苦しい言い訳だったわね……。でも、会場のどよめきは、男女の対戦だからではないのよ」
「え?」
「相手の名前が、鈴木挑だってこと……」
「鈴木挑?」
「昔あった宇宙軍の組織、異星人警備隊の二代目隊長、人間でありながら、異星人能力を身に付けたと言われる伝説の男。その男の名前が、鈴木挑って言うの……」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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