わたくし、やります(1)
文字数 1,429文字
その日、萌香は登校の際、何時ものセンチュリーに乗って直ぐ、車を止めるよう運転手に命じた。
「宮城野さん、お車を止めて下さるかしら? わたくし、ここから、皆様と同じように電車で登校しようと考えていますの」
運転手は車を停車してから、後部座席の萌香に向いて言い返す。
「お嬢様、何をお考えなんですか?」
「あら? わたくしには、電車も一人では乗れないとお考えですの?」
「その様なことは申して居りません。お嬢様が一人で電車に乗られると、私を始め皆が迷惑するんです」
「でも、宮城野さん!」
「本当、我儘なお嬢様ですね、あなたは!」
「宮城野さん!」
「これ以上なければ、発車しますよ」
運転手は正面を向いて、約一分程待ってから、萌香が何も言わないのを確認し、車を発車させた。
結局、萌香は電車で学校に通うことを諦めた。だが、運転手の宮城野は「降りる」と言った萌香のことを、また改めて見直した。そして本来ならば、主人の愛娘にあのような失礼な言い回しはしてはいけないのだが、彼はそれを言ってしまった。
そこには、萌香に対する彼の信頼があり、通学途中に何かあってはいけないと云う、萌香への彼なりの愛情がある。そしてそれは、今の萌香ならば感じられるものであった。
萌香の変化は授業にも現れていた。
彼女は黒板に書いた宿題の答えを、始めて間違えたのだ。
「珍しいな、入生田が間違うなんて」
教師も驚いていた。
そう、今まで宿題は萌香一人でやったことがない。形だけ萌香がやって家庭教師が誤りを全て書き直すのだ。完璧な答案にして。
だが、今回彼女は家庭教師のチェックを受けなかった。全部自分でやって、自分で見直した。その結果、間違いを犯した。だが、それを萌香は後悔などしていない。
極めつけは放課後のことであった。
帰ろうと席を立つ萌香に、同級生の片平乙女が声を掛ける。
「入生田さん、今日も掃除当番をサボる心算? せめてゴミ捨てくらいやってったらどうなの?」
それを聞きつけ、萌香の取り巻きである塔野佐和子や宮ノ下美里が駈けつけて来る。
「入生田さんはお忙しい方なのよ。掃除当番をさせようなんて、片平さん、あなた、失礼じゃありませんこと!」
だが、そんな宮ノ下の言葉を無視し、萌香は片平乙女に謝罪した。
「ご免なさい。今までサボっていて……。とりあえず、このゴミ箱のゴミを捨てて来れば良いかしら?」
萌香はそう言うと、慌ててオロオロする塔野や宮ノ下を尻目にゴミ箱を抱えると、ゴミ捨て場へとそれを運んでいった。
廊下の途中では、萌香のことを知っている他クラスの生徒もそれを見て驚き、コソコソと何かを話している。萌香にそれは何を話しているのかは分からない。だが、聞いて楽しいことでは無いと確信していた。
ゴミを捨てて戻ってくると、どうして良いか分からない塔野や宮ノ下と、ゴミ捨てを指示した乙女が残っていた。
「ご免なさい。ゴミ捨てしか出来ませんでした。次は最初からお掃除させて頂きますわ」
萌香の言葉に、乙女が仁王立ちで腰に手をやった乙女が少し笑顔で応えてきた。
「へ~、何も出来ないお嬢様かと思ってたけど、やれば出来るじゃん。一寸 見直したね」
「いえ、まだ何も出来ません……。でも、少しずつやっていけば、いつか、皆さんと同じように、色々と出来るようになれると、わたくし、信じています」
萌香はそう言って、ゴミ箱を元あった位置に戻すと、乙女、そして塔野や宮ノ下にも頭を下げ、鞄を手に教室を後にしたのである。
「宮城野さん、お車を止めて下さるかしら? わたくし、ここから、皆様と同じように電車で登校しようと考えていますの」
運転手は車を停車してから、後部座席の萌香に向いて言い返す。
「お嬢様、何をお考えなんですか?」
「あら? わたくしには、電車も一人では乗れないとお考えですの?」
「その様なことは申して居りません。お嬢様が一人で電車に乗られると、私を始め皆が迷惑するんです」
「でも、宮城野さん!」
「本当、我儘なお嬢様ですね、あなたは!」
「宮城野さん!」
「これ以上なければ、発車しますよ」
運転手は正面を向いて、約一分程待ってから、萌香が何も言わないのを確認し、車を発車させた。
結局、萌香は電車で学校に通うことを諦めた。だが、運転手の宮城野は「降りる」と言った萌香のことを、また改めて見直した。そして本来ならば、主人の愛娘にあのような失礼な言い回しはしてはいけないのだが、彼はそれを言ってしまった。
そこには、萌香に対する彼の信頼があり、通学途中に何かあってはいけないと云う、萌香への彼なりの愛情がある。そしてそれは、今の萌香ならば感じられるものであった。
萌香の変化は授業にも現れていた。
彼女は黒板に書いた宿題の答えを、始めて間違えたのだ。
「珍しいな、入生田が間違うなんて」
教師も驚いていた。
そう、今まで宿題は萌香一人でやったことがない。形だけ萌香がやって家庭教師が誤りを全て書き直すのだ。完璧な答案にして。
だが、今回彼女は家庭教師のチェックを受けなかった。全部自分でやって、自分で見直した。その結果、間違いを犯した。だが、それを萌香は後悔などしていない。
極めつけは放課後のことであった。
帰ろうと席を立つ萌香に、同級生の片平乙女が声を掛ける。
「入生田さん、今日も掃除当番をサボる心算? せめてゴミ捨てくらいやってったらどうなの?」
それを聞きつけ、萌香の取り巻きである塔野佐和子や宮ノ下美里が駈けつけて来る。
「入生田さんはお忙しい方なのよ。掃除当番をさせようなんて、片平さん、あなた、失礼じゃありませんこと!」
だが、そんな宮ノ下の言葉を無視し、萌香は片平乙女に謝罪した。
「ご免なさい。今までサボっていて……。とりあえず、このゴミ箱のゴミを捨てて来れば良いかしら?」
萌香はそう言うと、慌ててオロオロする塔野や宮ノ下を尻目にゴミ箱を抱えると、ゴミ捨て場へとそれを運んでいった。
廊下の途中では、萌香のことを知っている他クラスの生徒もそれを見て驚き、コソコソと何かを話している。萌香にそれは何を話しているのかは分からない。だが、聞いて楽しいことでは無いと確信していた。
ゴミを捨てて戻ってくると、どうして良いか分からない塔野や宮ノ下と、ゴミ捨てを指示した乙女が残っていた。
「ご免なさい。ゴミ捨てしか出来ませんでした。次は最初からお掃除させて頂きますわ」
萌香の言葉に、乙女が仁王立ちで腰に手をやった乙女が少し笑顔で応えてきた。
「へ~、何も出来ないお嬢様かと思ってたけど、やれば出来るじゃん。
「いえ、まだ何も出来ません……。でも、少しずつやっていけば、いつか、皆さんと同じように、色々と出来るようになれると、わたくし、信じています」
萌香はそう言って、ゴミ箱を元あった位置に戻すと、乙女、そして塔野や宮ノ下にも頭を下げ、鞄を手に教室を後にしたのである。