剛霊武獣(3)

文字数 1,142文字

 いくら何でも、「魔法少女だけは勘弁してくれ」と萌香は思う。
「あら、いいじゃない? それとも、萌香ちゃんの姿のまま、魔法少女として戦って欲しいのかなぁ?」
 萌香は答えに窮した。魔法少女は勘弁して欲しいが、自分の姿のままでは、それはそれで、もっと恥ずかしい。
「腕輪を外さなければ良いのよ~。で、OKでしょう?」
「擬態できるってことは、顔も変えられると云うことですわよね?」
「勿論よ」
「顔は寧樹のものにして頂戴。それが条件」
「もう! 腕輪を外されなけれ良いだけなのに……。恥ずかしがり屋ね、萌香は。ま、いいわ。それで妥協しましょう」
 萌香はもう仕方無いと思う。腕輪を外さなければ良いだけだし、最悪、自分だと云うことは、誰にもバレはしないだろうから……。
「あと寧樹、腕輪を消す方法は?」
「腕輪が嵌った状態のまま、右手の爪で腕輪を弾けばいいわ。ほら、小田原隊長が来る。会話は終了よ。腕輪を消して!」
 確かに寧樹の云う通り、休憩室に小田原隊長が入ってきた。萌香は彼に気付かれない様に爪で弾いて、手首から腕輪を消した。

「お待たせしましたね。一人では退屈だったでしょう?」
 小田原隊長はそう言って気を遣ってくれた。彼は基本的には礼儀正しい男らしく、個人的な会話では、萌香に命令口調では話さないようであった。
「いえ、それ程でもありませんわ」
 流石に寧樹と会話してたとも言えず、萌香は適当にお茶を濁した。
「直ぐに帰って頂いても良かったのですが、お約束がありましたので、お引止めしてしまいました」
「約束……ですか?」
「お忘れのようですね。私が『異星人討伐隊に入ったら、剛霊武(ゴレム)獣のことを教えましょう」と言ったことを」
 そう言えば確かに、小田原隊長は入隊試験会場で、その様なことを言っていたことを萌香は思い出した。
「お忘れなのなら、もう必要ないかも知れませんが、今後のこともありますので、簡単に説明だけはさせてください」
 萌香はただ頷いて、小田原隊長に見えない様に左手首を右手の爪で弾いた。
剛霊武(ゴレム)獣とは、異なった種族の死体を結合させた言わばキメラなのです」
「キメラ……。でも、死体って……」
「はい。『死体が何故動くのか?』ですね。それには、十年ほど前の戦争について説明しなければなりません」
「十年ほど前の戦争って……、異世界の船団が侵攻してきて、謎の爆発で、何もしないうちに勝手に帰ってしまったって言う、例のあれでしょうか?」
「はい。あの時の敵は、実は異星人ではなく、大悪魔と云う人間でした……。彼らには特別な能力があって、生きている人間や既に死んでしまった遺体へと憑依し、操ることが出来るのです」
「まさか……」
「そのまさかです。剛霊武(ゴレム)獣と云う怪物は、大悪魔が憑依することに因って蘇った、動く屍体なのです」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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