大悪魔女帝の城(7)
文字数 1,705文字
萌香は、宇宙軍東京湾基地地下駐車場に止まっている黒のセンチュリーに近づくと、寧樹に頼んで早雲山を『催眠』の呪文で眠らせて貰うことにした。
宮城野とも少し話したいし、火取志郎を同乗させたことを家族に告げ口されるのは避けたいと思ったからである。
勿論、寧樹に異論など無いし、難しいことではなかった。
萌香は早雲山が寝ているのを確認し、センチュリーの右の前ドアの方に行って運転席の宮城野に火取のことを説明する。
「宮城野さん、申し訳ありませんが彼を途中まで送っていきたいの……。よろしくて?」
「勿論ですよ、萌香お嬢様」
宮城野は車を降りて、萌香の為に後部ドアを開く。だが、そこから萌香は乗らず、柱の陰に隠れている火取に、こちらに来るように合図を送った。
「宮城野さん、わたくしは助手席に座らさせて頂くわ。一度、座って見たかったの」
「全く、我儘なお嬢様だ……」
宮城野はそう言って笑うと、助手席のドアを開いて萌香をエスコートした。そして、ぐるっとまわって運転席に着くと、萌香にシートベルトを締める様に注文する。例え、お嬢様であっても、交通ルールは守れと云うことだ。勿論、萌香もそう言って貰えるのが寧ろ嬉しい。
「で、どなたですか、お客様は?」
「あら、先程お会いになりましたでしょう? 火取志郎さん、蝶とか蛾みたいなモス星人という、異星人の方ですわ」
宮城野は、思わず車を始動させようとしていた手を止めた。だが、彼女が送ろうとしている相手なのだ。心配する必要はないだろう。そう思い、彼はエンジンを掛け、ゆっくりと車を走らせ始めた。
「それにしても、良いのですか? 異星人を後部座席などに座らせて……。後ろから撃たれることは心配ないのですか?」
「大丈夫ですわ。異星人だからと言って、誰もが人間に危害を加えると云うものではございませんのよ……」
宮城野は「重国氏が聞いたら、腰を抜かす様な台詞だな」と思う。
「でも、こちらは侵略者ですから、人間に危害を加える可能性が、全く無い訳ではありませんですけどね……」
この台詞には、異星人解放戦線の一員である宮城野ですら腰を抜かしそうになる。
だが、考えてみれば、彼女はサント・ネイジュなのだ。異星人を怖がっている様では、闘う事など出来はしないのだろう。それに彼は、一緒に部屋にいた異星人なのだ。侵略者と云う話しを本気にすることもない。
「冗談は止めてくださいよ。それと、そちらの異星人さん、正体を見せないでくださいね。異星人を乗せているのを人に見られると、面倒なことになりそうですからね……」
萌香は、そんな宮城野を器の大きさに、尊敬の念すら抱いている。彼は異星人であろうと、入生田重国の孫であろうとも、誰でも受け入れてしまうのだ。今、必要なのは、彼の様な許容量の大きな人類なのだ……。萌香はそう考えた。
走り出した車の中で、萌香は隣に座る宮城野に尋ねた。
「宮城野さん、宮城野さんは、どうして異星人解放戦線に加わったのでございますか?」
宮城野は少し走って、信号待ちとなった時にその返事をする。
「人に誘われたからですかねぇ……。そんな深い意味は無いんですよ。私は人類と異星人を差別するのが、嫌だったんです」
「でも……、異星人には特殊能力を持っている方も多いですわ。その方たちと生存競争になったとすると、旧人類は駆逐されてしまいますのよ。それでも構わないと?」
「人類と異星人が、何も考えない野生動物と同じであれば、そうでしょうね。ブラックバスが放たれたことにより、在来種の鮎などが減少あるいは絶滅してしまうみたいに……」
「それが分かってらっしゃるのに?」
「人類はもっと賢いと私は考えたいのです。単に優劣で競争していく社会ではなく、お互いを尊重し合える社会であれば、共存することだって決して不可能ではないとね……。
旧人類にも人種の能力差があるでしょう? それでも、スポーツで競うことが出来ますよね。人種だけじゃない。体重や身長、身体的なハンディ、あるいは性別の違い……。それらはルールを定めることで必ず共存できる。私はそれを信じたい……。勿論、それが理想論であるのは、間違いありませんけどね」
宮城野とも少し話したいし、火取志郎を同乗させたことを家族に告げ口されるのは避けたいと思ったからである。
勿論、寧樹に異論など無いし、難しいことではなかった。
萌香は早雲山が寝ているのを確認し、センチュリーの右の前ドアの方に行って運転席の宮城野に火取のことを説明する。
「宮城野さん、申し訳ありませんが彼を途中まで送っていきたいの……。よろしくて?」
「勿論ですよ、萌香お嬢様」
宮城野は車を降りて、萌香の為に後部ドアを開く。だが、そこから萌香は乗らず、柱の陰に隠れている火取に、こちらに来るように合図を送った。
「宮城野さん、わたくしは助手席に座らさせて頂くわ。一度、座って見たかったの」
「全く、我儘なお嬢様だ……」
宮城野はそう言って笑うと、助手席のドアを開いて萌香をエスコートした。そして、ぐるっとまわって運転席に着くと、萌香にシートベルトを締める様に注文する。例え、お嬢様であっても、交通ルールは守れと云うことだ。勿論、萌香もそう言って貰えるのが寧ろ嬉しい。
「で、どなたですか、お客様は?」
「あら、先程お会いになりましたでしょう? 火取志郎さん、蝶とか蛾みたいなモス星人という、異星人の方ですわ」
宮城野は、思わず車を始動させようとしていた手を止めた。だが、彼女が送ろうとしている相手なのだ。心配する必要はないだろう。そう思い、彼はエンジンを掛け、ゆっくりと車を走らせ始めた。
「それにしても、良いのですか? 異星人を後部座席などに座らせて……。後ろから撃たれることは心配ないのですか?」
「大丈夫ですわ。異星人だからと言って、誰もが人間に危害を加えると云うものではございませんのよ……」
宮城野は「重国氏が聞いたら、腰を抜かす様な台詞だな」と思う。
「でも、こちらは侵略者ですから、人間に危害を加える可能性が、全く無い訳ではありませんですけどね……」
この台詞には、異星人解放戦線の一員である宮城野ですら腰を抜かしそうになる。
だが、考えてみれば、彼女はサント・ネイジュなのだ。異星人を怖がっている様では、闘う事など出来はしないのだろう。それに彼は、一緒に部屋にいた異星人なのだ。侵略者と云う話しを本気にすることもない。
「冗談は止めてくださいよ。それと、そちらの異星人さん、正体を見せないでくださいね。異星人を乗せているのを人に見られると、面倒なことになりそうですからね……」
萌香は、そんな宮城野を器の大きさに、尊敬の念すら抱いている。彼は異星人であろうと、入生田重国の孫であろうとも、誰でも受け入れてしまうのだ。今、必要なのは、彼の様な許容量の大きな人類なのだ……。萌香はそう考えた。
走り出した車の中で、萌香は隣に座る宮城野に尋ねた。
「宮城野さん、宮城野さんは、どうして異星人解放戦線に加わったのでございますか?」
宮城野は少し走って、信号待ちとなった時にその返事をする。
「人に誘われたからですかねぇ……。そんな深い意味は無いんですよ。私は人類と異星人を差別するのが、嫌だったんです」
「でも……、異星人には特殊能力を持っている方も多いですわ。その方たちと生存競争になったとすると、旧人類は駆逐されてしまいますのよ。それでも構わないと?」
「人類と異星人が、何も考えない野生動物と同じであれば、そうでしょうね。ブラックバスが放たれたことにより、在来種の鮎などが減少あるいは絶滅してしまうみたいに……」
「それが分かってらっしゃるのに?」
「人類はもっと賢いと私は考えたいのです。単に優劣で競争していく社会ではなく、お互いを尊重し合える社会であれば、共存することだって決して不可能ではないとね……。
旧人類にも人種の能力差があるでしょう? それでも、スポーツで競うことが出来ますよね。人種だけじゃない。体重や身長、身体的なハンディ、あるいは性別の違い……。それらはルールを定めることで必ず共存できる。私はそれを信じたい……。勿論、それが理想論であるのは、間違いありませんけどね」