誰なのか(5)

文字数 1,620文字

 放課後、萌香は特別出勤という形で異星人討伐隊基地へと向かっていた。
 今まで萌香は、電車を使って基地へ向かっていたのだが、重国の命に依り、今日からは専用自動車道からの通勤に変わっている。そして、そのことは、既に討伐隊基地内部にも通知されていた。
 当然、彼女の出勤には宮城野の車が使われ、早雲山も同乗している。そして退社時には、宮城野も早雲山を乗せて基地の地下駐車場に迎えに行くことになっていた。
「本当、ご苦労様ですこと。この様なことされなくとも良ろしいのに」
「仕方ありませんよ。あの様な事件があったのですから……」
 早雲山は、相変わらず腕を組んだまま黙っており、萌香の皮肉には宮城野が答えた。

 基地の作戦室に入ると、今日は全員が出隊していた。高校生である湯本隊員も、放課後からの出隊に違いない。
 その湯本隊員であるが、萌香の姿を見ると、熱でもあるのか、何故か顔を真っ赤にしている。
「お早うございます。湯本隊員、お加減でも悪いのですか?」
 萌香は湯本隊員に質問したのだが、それには板橋隊員が答えを返す。
「湯本隊員はね、日曜日の入生田隊員の姿が目に残っちゃって、入生田隊員を見て、あの時の姿を想像しちゃってるのよ!」
 それを聞いて、湯本隊員だけでなく、萌香までが顔を真っ赤にする。その湯本隊員はと云うと、それを誤魔化す為に、無理矢理に別の話題に持っていくことにしたようだった。
「そ、それにしても、あの大悪魔女帝なんて大仰な名前の小母さん、一体何者なのですかね? それに僕たちは、あの時動けなくなったのだけど、何をしたのでしょうかね?」
 それを聞いたからか、小田原隊長が作戦室のテーブルの方にやって来て、この話しに加わってきた。
「もし、あれが私の良く知る人物であったとしたら、大変なことになる」
「隊長のお知り合いなのですか?」
 湯本隊員が、前回答えを貰えなかった質問をする。だが、今度は、小田原隊長も話す決断が出来たようであった。
「私に古い知り合いがいてね、私は彼女が、この世界に戻って来たと云う、予感に近い確証があったのだ。最初、私はそれは入生田隊員ではないかと考えていた……」
 皆はきょとんとした表情で、隊長の話しを聞いている。小田原隊長はそれを無視して話しを続けた。
「だが今は、あのサント・ネイジュか、あるいは大悪魔女帝が、その女性なのではないかと考えているんだ……」
 それに湯本隊員が疑問を投げかけた。
「ちょっと待ってください。なんで入生田隊員が、その人だと思ったのですか? それに……、それ程、その人が入生田隊員に似ているのだとしたら、どうして、魔法少女や大悪魔女帝がその人だと思うのですか? 三人とも歳も違うし、全然似ていないじゃないですか?!」
「私の友人はね、擬態することが出来るのだよ。そして、やろうと思えば、実在の入生田隊員に成り済ますことも可能なんだ」
「それでは、隊長の古い友人ってのは?」
「人間ではない……。大悪魔と言われる人種だよ。彼女は当時、シンディ小島と云う実在の人物に入れ替わっていたのだ」
 小田原隊長の答えは、皆に衝撃を与えた。
 大悪魔軍襲来の時代、異星人討伐隊の前身とも云うべき、異星人警備隊と云う非公式な組織があったのは、既にここにいる全員が知っている。そして、その組織は、異星人で構成されており、その時の参謀の名前が、シンディ小島と云う名前だったのであった。
「もし、大悪魔女帝の正体が、昔シンディ小島と名乗っていた女性で、彼女が異星人テロリストに味方しているのだとしたら……、我々人類では、どう足掻いても、絶対に勝てはしない……」
 皆が信頼している隊長自らが、「勝てない」などと発言したのだ。嫌でも異星人討伐隊内部に、重苦しい沈黙が広がってしまう。
 それを打ち払ったのは、萌香の体を借りた寧樹であった。
「『勝てない』なんてことは、決して無いと思いますよ。世の中に、絶対などと云う物は在りはしないのですから!」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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