入生田萌香(5)

文字数 1,068文字

 翌朝、萌香は何も無かったかの様にセンチュリーに乗ってゴーラ女学院付属女子高に登校している。運転手(ドライバー)は今日から別の人間に変わっていた。恐らくその理由を聞いても、誰も正直には答えてくれないだろう。だから、萌香も気にしないことにした。
「さ、遅れない様に急いで頂戴!」
「フン、我儘な小娘が。何も出来ない癖に、何言ってやがんだ」
 彼女にとって、その様な反応をされることは思いも寄らないことであり、萌香も暫し驚きのあまりに言葉を失った。
「あ、あなた、失礼じゃありませんこと!」
「何でございますか? お嬢様」
 運転手(ドライバー)は、何事も無かったかの様に、平然と萌香の抗議に答えを返す。確かに冷静に考えれば、彼女の周りの人間が、萌香にその様なことを言う筈がない。あれは空耳だったのであろうか?
「何でも、ありませんわ!」
 萌香は割り切れない気持ちを残したまま、黙って学校まで運んで貰うことした。

 教室に入ると、取り巻きの塔野佐和子や宮ノ下里美らが、萌香におべっかを使いにやって来る。
「入生田さん、おはようございます!」
「あら、おはよう」
 萌香はいつもの様に朝の挨拶を返す。
「何が『あら、おはよう』よ、お嬢様だからって偉そうに……」
「どなた? 言いたいことがあったら、はっきりと仰ったら?」
 だが、萌香の問いに答える者はいない。
 萌香が我慢ならぬと、近くの学友に掴みかかろうとした時、彼女自身の頭から声が聞こえてきた。その声は、萌香が昨日会った、あの寧樹と云う女の声だ。
「あら、ご免なさい。私が憑依したせいで、あなた、他の人の心の中の声が、聞こえちゃったのね」
「あなた、いつの間に?」
 萌香は思わず大声を上げた。その声にクラス中の生徒が一斉に彼女を見る。
「もう、恥ずかしいわね。心の中で話せば、私には聞こえるわよ」
 そう言われてみると、周りの目が全て彼女を怪訝そうに見つめている。萌香は恥ずかしさのあまり、思わず真っ赤に顔が火照る。
 萌香は一呼吸入れて、心の中の寧樹に小声で話し掛ける。
「あなた、何、勝手に憑依しているのよ!」
「勝手に? ちゃんと昨日承諾を得たでしょう? 私は約束通り、あなたを無事に帰したわよ。文句を言われる筋合いはないわ」
「でも……」
 確かに、寧樹の言うことは何も間違ってはいない。とは云え、このまま彼女の言うことに納得するのも癪に障る。
「あなた、わたくしに憑依して、わたくしの体を使って、お祖父様に異星人排斥論の撤回を、お願いしようって魂胆ですのね!」
「昨日も、あの異星人テロリストが言ったでしょう? お嬢ちゃんが何をお願いしても、無駄だって」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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