剛霊武獣(1)

文字数 1,325文字

「冗談は兎も角、あなたが実際に得意なのは、何なのかしら?」
 板橋隊員が余裕の笑顔を見せながら、萌香に彼女の特技を尋ねた。
「実は、お答えできる様なものは何もありませんの。でも、これから精一杯努力して、皆様のお役に立てるような技術を習得したいと思っておりますわ」
 湯本隊員がほっとした様に感想を漏らす。
「いやぁ、本当に魔法少女が加わったのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
 彼にしてみれば、空想世界に生きている人間と一緒に働くのは、正直勘弁してくれといったところなのであろう。
「では、全員解散。尚、入生田隊員は、この後、私と一緒に事務室に行って、隊員服と連絡用の腕時計型通信機を受け取る。そして、ロッカー室などの施設についてのレクチャーを受けた後、再度作戦室に戻って、それで本日の任務は終了だ」
 小田原隊長が、少し隊長と隊員の上下関係を意識した感じで萌香に指示を伝える。
「分かりましたわ。では、その後は……」
「帰宅して構わない。とは言っても、電車の乗り場も分からんだろうから、済まないが、休憩室で私を少し待っていて欲しい」
「了解ですわ」
 他のメンバーがそれぞれの職務に戻る中、小田原隊長に事務室へと案内された萌香は、小田原隊長とそこで別れ、事務員から入退出などのレクチャーを受けることとなった。

 この宇宙軍東京湾基地は、東京湾横浜沖の海底にあり、隊員は海底高速道路から専用道路で基地に入るか、地下鉄東京湾未来線を乗り継いで基地に入る必要があるらしい。萌香の場合は、『東京シティパーク』駅で、東京湾未来線に乗換えることになる。
 基地内は隊服に着替えて過ごす必要があるとのことであった。だが、萌香は正直この隊服のデザインが気に入らない。少し体の線が出過ぎている様に思えるのだ。それは兎も角、着替えは正面ゲートから少し先に行ったロッカー室で行うことになるらしい。
 腕時計型通信機については、基本的に常に装着している義務があるとのことである。萌香が「風呂の時はどうするのか?」と聞いたのだが、「完全防水なので、そのまま湯舟に浸かっても大丈夫だ」と答えられてしまった。これ以上、何を言っても仕方無いので、風呂場に持ち込むことだけは萌香も我慢することにした。
 こうしてレクチャーを終えた萌香は、腕時計型通信機を右手首に嵌め、隊服の方はロッカーに置いておこうと、地下一階にあると教えられたロッカー室へと向かう。
 地下一階に降り、真直ぐの廊下を進んで行くと、室名プレートに女子ロッカー室と書かれた部屋が見つかった。萌香がその部屋に入ってみると、幾つかの並んだロッカーのひとつに彼女の名札の付いたものがあった。
「意外と気を遣って下さっているのね」
 萌香はその中に用意されているハンガーに自分の隊服を掛けた。

 隊服をロッカーに納め、作戦室へと戻ってきた萌香であったが、見ると、まだ小田原隊長始め、他の隊員も忙しそうに何やら作業を続けているようである。萌香はどうしたら良いか少し迷った。そんな中、萌香に気付いた小田原隊長が声を掛けてくれる。
「ああ、入生田君、済まないが休憩室で待っていてくれたまえ」
 それを聞いて、萌香は、休憩室は廊下を出たら分かるだろうと、そのまま作戦室を後にした。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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