勝利、だが……(6)
文字数 1,843文字
ブラウの前に立っていたのは、死んだ筈の大悪魔女帝だった……。
「あなた、本当に、あの状態で光線砲なんか撃てると思ってたの? そんなこと、私だって不可能よ……」
「何を言っている! 見ていなかったのか? 私は、確かに、サント……」
目の前にあった筈のサント・ネイジュの亡骸は、もうそこに無かった……。そこは、白い壁、白い天井、白い床の、最早何も無い世界へと姿を変えている。
彼は膝を着く。そして、四つん這いになって頭を垂れた。
「何だ、これは? これもサント・ネイジュの大悪魔能力だと言うのか?!」
「違うわ……。あの娘 に、そんな力なんか無いわよ……」
ブラウは狼狽えた。そして、訳が分からなくなった。何が起こったのだ?!
「あなた……、まだ、自分が死んだことを理解できていないの?!」
「そんな馬鹿な!!」
「だったら、なんで生気の空腹感が無くなるのよ、生気の補給もしていない癖に……。あなたは『危機察知』なんか無くたって、生気不足で瀕死の状態だったのよ」
「す、すると……」
「そうよ。彼女が『大悪魔封じ』を解除して、『光線弾』を撃つ直前、あなたは生気が尽きて死んでしまったの……。これは、あなたが死の淵で見ている幻なのよ」
ブラウが頭を上げると、そこにいた筈の大悪魔女帝も見えなくなっていた……。
白い壁、白い天井、白い床、これらすら、照明を失った為か、段々に暗くなっていき、黒く輝きを失う。
そして、彼女の声だけが響いている。
「ブラウ……。あなたは『光線弾』を選ぶべきじゃなかった。『光線砲』の類は、生気の消費が非常に高い技なのよ。
あなたが選ばなければならなかったのは、『過去への伝言』。それで、過去の過ちを反省し、もう一度、やり直すチャンスに賭けるべきだったの……。その為に、有希ちゃん、態々無駄話までして、考え直す時間まであげたのにね……。
勿論、過去のあなたが、説得に応じるかどうか分からないし、その前に生気が尽きたかも知れなかったけど……」
「さよなら……。ブラウさん……」
寧樹はそう呟いた。
ブラウの最後は、確かに哀れとしか言い様のないものであった。苦しみ悶え、のたうち回った挙げ句、生気を全て失い死んでいったのである。そして、そこには、黒く干からび、枯れ枝の様になった彼の死骸が無残に残されているに過ぎなかった。
「耀子叔母さんの『危機察知』は、危険の大きさを自分への不快感で知るもの。だから、脅威が大き過ぎると、それは耐えがたい地獄の苦しみとなってしまうものなのよ……」
寧樹の呟きに、萌香も感慨深く応える。
「自業自得と云うものでございますわね」
「……」
「でも寧樹……、大悪魔女帝のこと、少し残念ですわ。出来れば、わたくし、彼女を助けたいと思ってましたから……」
「え、萌香?! 何言ってるの?」
「叔母様がお亡くなりになられたこと、お気を落としにならないでくださいね……」
「ちょっと、萌香! 叔母さん、死んでないよ。彼女、自分の時空に逃げただけだよ」
「え? でも、あのブラウと云う男に法具で力を吸い取られ、大悪魔女帝は亡くなってしまったではありませんか?! あの琰とか云う法具を宛がわれると、逃げることも出来ず、大悪魔は生気を奪われ死んでしまうって、以前、寧樹が仰っていたではありませんか?」
「ああ。あれは叔母さん本人じゃなくて、彼女が創り出した思い出、つまり分身よ。叔母さんは、私がミスリルウォーリアーを纏った時に負けを認め、瞬間移動で逃げて、替わりに『十の思い出』の中の自分を呼び出して、あの場に出現させたのよ……。それが証拠に、彼女の死骸なんて、どこにもないでしょう? 思い出は10分経つと白い煙になって消えてしまうものなの……」
「でも、ブラウと云う大悪魔は、大悪魔女帝の『危機察知』を奪った為、お亡くなりになったのでしょう? ならば、矢張り、本物なのではないかと思いますが……?」
「思い出からでも能力はコピー出来るのよ。私たちの『擬態』や『魅了』、『未来予知』も、そうやって取得したものなの……」
「そうでしたの。でも、良かった! では、何で大悪魔女帝は、思い出など残したのでしょう? あのブラウに、『危機察知』をコピーさせて、敢えて自滅をさせる心算だったのでしょうか……?」
それを聞いて寧樹はつい笑ってしまう。
「そうかも知れないけど……。
多分、叔母さん、萌香たちを驚かそうとしただけじゃないかしら? だって、あの人、死んだふりして人を驚かすの、本当、大好きなんだもの……」
「あなた、本当に、あの状態で光線砲なんか撃てると思ってたの? そんなこと、私だって不可能よ……」
「何を言っている! 見ていなかったのか? 私は、確かに、サント……」
目の前にあった筈のサント・ネイジュの亡骸は、もうそこに無かった……。そこは、白い壁、白い天井、白い床の、最早何も無い世界へと姿を変えている。
彼は膝を着く。そして、四つん這いになって頭を垂れた。
「何だ、これは? これもサント・ネイジュの大悪魔能力だと言うのか?!」
「違うわ……。あの
ブラウは狼狽えた。そして、訳が分からなくなった。何が起こったのだ?!
「あなた……、まだ、自分が死んだことを理解できていないの?!」
「そんな馬鹿な!!」
「だったら、なんで生気の空腹感が無くなるのよ、生気の補給もしていない癖に……。あなたは『危機察知』なんか無くたって、生気不足で瀕死の状態だったのよ」
「す、すると……」
「そうよ。彼女が『大悪魔封じ』を解除して、『光線弾』を撃つ直前、あなたは生気が尽きて死んでしまったの……。これは、あなたが死の淵で見ている幻なのよ」
ブラウが頭を上げると、そこにいた筈の大悪魔女帝も見えなくなっていた……。
白い壁、白い天井、白い床、これらすら、照明を失った為か、段々に暗くなっていき、黒く輝きを失う。
そして、彼女の声だけが響いている。
「ブラウ……。あなたは『光線弾』を選ぶべきじゃなかった。『光線砲』の類は、生気の消費が非常に高い技なのよ。
あなたが選ばなければならなかったのは、『過去への伝言』。それで、過去の過ちを反省し、もう一度、やり直すチャンスに賭けるべきだったの……。その為に、有希ちゃん、態々無駄話までして、考え直す時間まであげたのにね……。
勿論、過去のあなたが、説得に応じるかどうか分からないし、その前に生気が尽きたかも知れなかったけど……」
「さよなら……。ブラウさん……」
寧樹はそう呟いた。
ブラウの最後は、確かに哀れとしか言い様のないものであった。苦しみ悶え、のたうち回った挙げ句、生気を全て失い死んでいったのである。そして、そこには、黒く干からび、枯れ枝の様になった彼の死骸が無残に残されているに過ぎなかった。
「耀子叔母さんの『危機察知』は、危険の大きさを自分への不快感で知るもの。だから、脅威が大き過ぎると、それは耐えがたい地獄の苦しみとなってしまうものなのよ……」
寧樹の呟きに、萌香も感慨深く応える。
「自業自得と云うものでございますわね」
「……」
「でも寧樹……、大悪魔女帝のこと、少し残念ですわ。出来れば、わたくし、彼女を助けたいと思ってましたから……」
「え、萌香?! 何言ってるの?」
「叔母様がお亡くなりになられたこと、お気を落としにならないでくださいね……」
「ちょっと、萌香! 叔母さん、死んでないよ。彼女、自分の時空に逃げただけだよ」
「え? でも、あのブラウと云う男に法具で力を吸い取られ、大悪魔女帝は亡くなってしまったではありませんか?! あの琰とか云う法具を宛がわれると、逃げることも出来ず、大悪魔は生気を奪われ死んでしまうって、以前、寧樹が仰っていたではありませんか?」
「ああ。あれは叔母さん本人じゃなくて、彼女が創り出した思い出、つまり分身よ。叔母さんは、私がミスリルウォーリアーを纏った時に負けを認め、瞬間移動で逃げて、替わりに『十の思い出』の中の自分を呼び出して、あの場に出現させたのよ……。それが証拠に、彼女の死骸なんて、どこにもないでしょう? 思い出は10分経つと白い煙になって消えてしまうものなの……」
「でも、ブラウと云う大悪魔は、大悪魔女帝の『危機察知』を奪った為、お亡くなりになったのでしょう? ならば、矢張り、本物なのではないかと思いますが……?」
「思い出からでも能力はコピー出来るのよ。私たちの『擬態』や『魅了』、『未来予知』も、そうやって取得したものなの……」
「そうでしたの。でも、良かった! では、何で大悪魔女帝は、思い出など残したのでしょう? あのブラウに、『危機察知』をコピーさせて、敢えて自滅をさせる心算だったのでしょうか……?」
それを聞いて寧樹はつい笑ってしまう。
「そうかも知れないけど……。
多分、叔母さん、萌香たちを驚かそうとしただけじゃないかしら? だって、あの人、死んだふりして人を驚かすの、本当、大好きなんだもの……」