召喚されしもの（３）

　大悪魔女帝は、分かって貰えたとばかりに歓びを隠そうとしない。
「そうよ。だって、有希ちゃんに『呪文封じ』を掛けても、あなたの方が魔力が強いでしょう？　失敗する可能性が高いんだもん。だから、私自身に『攻撃魔法避け』を施したのよ。これで有希ちゃんは『極光乱舞』どころか、『睡眠』や『呪文封じ』すらも使えなくなったわね……」
　実際は、ネイジュの魔法が封じられた訳ではない。だが、大悪魔女帝への魔法攻撃は一切通用しなくなった。
　寧樹も対策として、『攻撃魔法避け』を自分にも掛けておく。相手の方が魔力が劣るにしても、魔法攻撃を集中されては堪らないからだ。勿論、大悪魔女帝にも、そのようなことは想定内である。
「それでも、互角とは言えないわね。大悪魔能力は私の方が上よ。私の『左掌高温』を有希ちゃんは『右掌低温』で抑えきれないし、私が『重力質量変換』で有希ちゃんの質量を増やしたら、有希ちゃんが幾ら『重力質量変換』を持っていても、戻しきれないでしょう？　同じ悪魔能力でも、熟練度が全然違うのよ。じゃ行くわね！」
　大悪魔女帝はそう言うと、『高速移動』で一気に近づいて攻撃を加えようとする。だが、彼女の身体は一向に前に進まない。
　彼女はこのことに当惑した。
「何？　有希ちゃん、何したの？！」
　今度、したり顔で胸を張るのはサント・ネイジュの方であった。良く見ると、彼女は魔法少女ではなく、本来の入生田萌香の姿に戻っている。
「どう？　『高速移動』も出来ないでしょう？　身体を軽く出来ないもんね……。叔母さんは、２点戦力分析を誤っている。叔母さんの予想通りだったら、私のことを『危機察知』で見ても、脅威なんか感じ無かったでしょう？　でも、そんな筈ないわよね。私の『危機察知』に依ると、叔母さんとの戦力差は殆ど無いもの……」
　大悪魔女帝にも思い当たる節があったのだろう。少し口を開き呆然としていた。
「私には、叔母さんにはない『悪魔能力封じ』の能力があるのよ！　そして今、この部屋全部を含む範囲を『悪魔能力封じ』のフィールド内に置いた！」
「呪文？　私も知らない古い魔法……？」
「そうじゃないわ。大悪魔を知らない魔法使いには、『悪魔能力封じ』なんか必要としないもん。だから魔法使いが、そんな呪文を考えていた訳ないし、アルウェンだって大悪魔の能力のシステムを良く知らないから、そんな魔法を一朝一夕に創ることは出来ないわ」
「じゃぁ、大悪魔能力なの？　有希ちゃん、いつの間にそんな能力を持った大悪魔と知り合いになったの？　どうして、私たちに教えてくれなかったのよぉ～」
　サント・ネイジュは含み笑いをした。
「その人はね、大悪魔の母親から生まれたんだけど、生まれた時、何の大悪魔能力も持っていないと思われていたの……。心配した母親は、琰なんかを使って、他の能力をコピーさせようともしたんだけど、彼はどうしても大悪魔能力を使うことが出来なかったわ。
　結局、その人は、人間として育てられた。彼は私と同じハイブリッドだったから……。でも、彼は無能ではなかった。人間離れした身体能力と高い知性を持っていた……。そして、彼が人間であることを心配した母親は、彼に魔法を教えたわ。でも、決して彼は母親が心配するような弱者ではなかった。何と言っても、彼は凄いイケメンだし……」
　萌香は、それは関係ないだろうと思う。
「それだけじゃない……、彼は大悪魔能力を持っていなかった訳じゃ無かったのよ！」
「え？！」
「彼は『悪魔能力封じ』を持っていた。それは、『悪魔能力封じ』以外の全ての大悪魔能力を封じるフィールドを創るもの……。でも、その基本サイズは、彼自身の身体の範囲だったの。だから、彼は自分の大悪魔能力だけが封じられてしまったよ。だから、琰でどんな悪魔能力を得ても、彼は使うことが出来なかった……」
「まさか……、それって……、修君？」
「そうよ。藤沢修一、耀子叔母さんの息子の修兄よ！！」