萌香のいない日に(6)

文字数 1,527文字

 湯本隊員の父須雲は、後継者である自分の息子に、過去に行われていた女忍者に対する修行について語りだした。
「母さんの実家である風間家は、実は風魔と云う忍者の家系で、この湯本家とは、湯本家が北条の家臣であった時代から近い関係にあったのだ。この為、湯本家では、後継者が敵方の女忍者に誑かされない様、元服を終えると直ぐに風魔の里に修行に出された」
「では、風間家に行けば、今でも修行をつけて貰えると……」
「それは、どうだろうか……」
「父さんは?」
「儂は……、その修行を拒否してな。まだ幼かった母さんを、嫁に貰う約束をすることで、何とか許して貰ったのだ……」
「ええっ?」
「江戸の昔、自由に土地を離れることの出来ない村人は、旅人が訪れると一夜の宿と食事を無償で提供した。その替わり、若い村娘を伽に出し、種を付けて貰うことで近親相姦の危険を逃れていたのだ……。生まれた子供は、誰が父親だという意識はなく、村の子供として育てられた」
「……」
「昔の風魔にも、そう云う意識があってな、風魔の女は誰の女房と云うものではなく、皆の女であり、皆の母だったのだ。まぁ、そう云う気持ちでないと、色仕掛けて敵方の武将の寝首を掻こうなどと云う、女忍者などは務まらなかったのかも知れんな」
「……」
「修行と云うのは、男衆全員が家を空けた風魔の里に、ひと月ばかり暮すだけのことだ。但し、その期間、女衆からの誘いがあったならば、それを拒否してはならないと云う仕来りがある。それを守れば何をしても構わないと云うものだ……」
「それだけって……」
「うむ。恐らく地獄だぞ……。相手は女になった者であれば、誰でも修行をつけて構わないそうだ。そいつらが、入れ替わり立ち替わり、次々と襲い掛かってくるのだ。初心な若者が餌食になりに来たとばかりに……。
 何より恐ろしいのが、修行最後に日に行われる湯祭りと云う奴らしい。参加する村の女が、皆、忍者頭巾を付けて顔を隠し、全裸になって、湯本の修行者と温泉にて夜通し過ごすと云うものだ。女は、自分が誰かと云うことを知られぬと分かれば、欲望の思うが儘に修行者に襲い掛かって来る。勿論、相手は仲間である風魔の女子だ。殺すことはおろか、傷つけたり、眠らすことも罷りならぬ。そして誘いを断ってはならぬ仕来りなのだ…」
「うう……」
「言い伝えでは、その修行を終えた者は、もう2度と、女の裸を見たいと思わなくなると言われている……」

 2人だけであった道場に、1人の女性が入ってきた。湯本隊員の母である。
「親子2人で道場に籠られては、遠慮して誰も入れないではありませんか……」
 そう言って、湯本隊員の母は自分の夫と息子に不満を述べた。
「お父さん、譲治にはちゃんと教えて上げてくださいね。真剣に悩んでいるのですから」
 湯本隊員は、ほっと息を吐く。父親の冗談だったのだ。彼が冗談を言うなんて、湯本隊員も初めて聞いた気がする。
「譲治、修行をしたいのであれば、風間の家に連絡してあげますよ。風魔の里では最近、湯本から修行に来る者が無くなったと残念がっておりましたからね。あなたのお父さんの時は、お父さんが修行を拒否したので、風魔の里では非難轟々だったのです」
「え?」
「お父さんは、初潮から閉経までならば、相手の女性は誰でも参加して良い様なことを言っておりましたが、明治になってからは20代と30代しか参加できないことになっています。子供やお婆さんの相手をすることなど決してありません。それと、参加する女性は皆、ちゃんと避妊を行っていますので、安心して修行できます」
「はぁ?!」
「折角ですから、筆おろしでもさせて貰えば良いでしょう。では、譲治、直ぐにでも修行に出られますか?」
「え、遠慮します……」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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