大悪魔女帝の城(6)
文字数 1,578文字
萌香は既に腕輪は外しており、寧樹の意志だけで魔法少女の姿に擬態する。勿論、変身には何の意味もない。
「わ、分かった。降参するよ」
だが、火取志郎には、前にこの姿の相手にコテンパンにされたイメージが残されていた。そんな記憶が、そう簡単に拭 えるものではない。
ネイジュは腕輪を戻すことなく擬態を解き萌香の姿に戻った。元々変身は正体を隠す為だけのもので、腕輪を嵌める必要などは何もないのだ。
「とは言っても、小田原隊長が見逃したんだし、正直、あんたなんかに構っている余裕は無いのよね。私も……」
「じゃぁ!」
「見逃してあげるから、早々に地球から立ち去りなさい。間違えても、その不気味な触手で何かしようとしないこと! もし何かしたら、即座にあなたを処刑するからね」
寧樹は笑みを浮かべながら、恐ろしいことを平気で口にする。だが萌香には、寧樹が脅かしで言っているだけで、本当は処刑など考えていないことも分かっていた。
寧樹は腕輪を嵌め、身体の制御を萌香に戻した。そして彼女に話し掛けて来る。
「帰ろう、萌香。一旦、作戦室に顔を出して隊長に挨拶して……。それから、ここに戻って、こいつを送って行こうよ」
「分かりましたわ……」
そう答えると、火取志郎にここで待つ様に手で合図し、萌香も会議室を出て作戦室に向かった。
廊下を歩きながら萌香は思う。
正直、小田原隊長や風祭隊員と顔を合わすのは少々決まり悪い。何よりも板橋隊員には何て言葉を掛けて良いか分からなかった。
だが、何も言わず勝手に帰ることは許される訳ではないだろう。それは異星人討伐隊のメンバーの責務であると云うより、社会人としての基本的な常識だ。
作戦室は、基本的に廊下からは見えない造りになって居り、認証機能付きセキュリティードアを通り、もう1つのドアを通って始めて中に入ることが出来る。このドアとドアの間には、監視カメラと温度センサーが備え付けられていて、萌香の後ろから別人が隠れて入ったとしても検知できる様な仕組みになっていた。
作戦室内では、何時もと大きく変わった雰囲気もなく、小田原隊長が隊長席で何か書類に目を通していて、風祭隊員は手持ち無沙汰そうに天井を眺めて座っている。湯本隊員は目を閉じて瞑想しているようであり、板橋隊員は席を外している様であった。
萌香は作戦室に入るなり、隊長席の前に進み、小田原隊長が顔を上げたタイミングを見計らって、彼に帰宅する旨の挨拶を述べる。
「隊長、帰宅時刻も過ぎましたので、入生田萌香帰宅致します。モス星人は、わたくしが彼の自宅近くまで送って行こうと思います」
「ご苦労様、宜しく頼むよ。それと……、明日は気を付けて……。で、何時ごろに行く心算なんだね?」
「そうですね、午前10時には向うに着こうと思っています」
「そうか、頼んだよ……」
萌香は小田原隊長の言葉を聞くと、深く頭を垂れてから踵を返した。
彼女に、風祭隊員は一瞥をくれただけで何も言わなかった。湯本隊員は人差し指と中指で軽く敬礼をし、笑顔で彼女に挨拶する。
そんな湯本隊員であったが、実は彼の頭の中では、激しい感情と冷たい理性が渦を巻いていたのである。
心の中では萌香の勝利を強く熱望しながらも、彼は決して萌香ひとりに任せることなどせず、彼女が負けた時の為、既にチャレンジャー海淵への機雷攻撃準備を海軍に要請していた。それに加え、原子力潜水艦での核攻撃も彼は視野に入れており、最悪の場合、太平洋プレートの端ごと、大悪魔女帝の城をマントルの中へと落とし込もうと彼は考えていたのだった。
萌香が脇を通った時、湯本隊員は机の中に作戦資料を隠した。だが、寧樹からは何であっても隠せるものはない。仮に腕輪をしていたとしても、寧樹は相手の心を読む能力が出せるのだ。だが、寧樹はそれを萌香に伝える心算など微塵も有りはしなかった。
「わ、分かった。降参するよ」
だが、火取志郎には、前にこの姿の相手にコテンパンにされたイメージが残されていた。そんな記憶が、そう簡単に
ネイジュは腕輪を戻すことなく擬態を解き萌香の姿に戻った。元々変身は正体を隠す為だけのもので、腕輪を嵌める必要などは何もないのだ。
「とは言っても、小田原隊長が見逃したんだし、正直、あんたなんかに構っている余裕は無いのよね。私も……」
「じゃぁ!」
「見逃してあげるから、早々に地球から立ち去りなさい。間違えても、その不気味な触手で何かしようとしないこと! もし何かしたら、即座にあなたを処刑するからね」
寧樹は笑みを浮かべながら、恐ろしいことを平気で口にする。だが萌香には、寧樹が脅かしで言っているだけで、本当は処刑など考えていないことも分かっていた。
寧樹は腕輪を嵌め、身体の制御を萌香に戻した。そして彼女に話し掛けて来る。
「帰ろう、萌香。一旦、作戦室に顔を出して隊長に挨拶して……。それから、ここに戻って、こいつを送って行こうよ」
「分かりましたわ……」
そう答えると、火取志郎にここで待つ様に手で合図し、萌香も会議室を出て作戦室に向かった。
廊下を歩きながら萌香は思う。
正直、小田原隊長や風祭隊員と顔を合わすのは少々決まり悪い。何よりも板橋隊員には何て言葉を掛けて良いか分からなかった。
だが、何も言わず勝手に帰ることは許される訳ではないだろう。それは異星人討伐隊のメンバーの責務であると云うより、社会人としての基本的な常識だ。
作戦室は、基本的に廊下からは見えない造りになって居り、認証機能付きセキュリティードアを通り、もう1つのドアを通って始めて中に入ることが出来る。このドアとドアの間には、監視カメラと温度センサーが備え付けられていて、萌香の後ろから別人が隠れて入ったとしても検知できる様な仕組みになっていた。
作戦室内では、何時もと大きく変わった雰囲気もなく、小田原隊長が隊長席で何か書類に目を通していて、風祭隊員は手持ち無沙汰そうに天井を眺めて座っている。湯本隊員は目を閉じて瞑想しているようであり、板橋隊員は席を外している様であった。
萌香は作戦室に入るなり、隊長席の前に進み、小田原隊長が顔を上げたタイミングを見計らって、彼に帰宅する旨の挨拶を述べる。
「隊長、帰宅時刻も過ぎましたので、入生田萌香帰宅致します。モス星人は、わたくしが彼の自宅近くまで送って行こうと思います」
「ご苦労様、宜しく頼むよ。それと……、明日は気を付けて……。で、何時ごろに行く心算なんだね?」
「そうですね、午前10時には向うに着こうと思っています」
「そうか、頼んだよ……」
萌香は小田原隊長の言葉を聞くと、深く頭を垂れてから踵を返した。
彼女に、風祭隊員は一瞥をくれただけで何も言わなかった。湯本隊員は人差し指と中指で軽く敬礼をし、笑顔で彼女に挨拶する。
そんな湯本隊員であったが、実は彼の頭の中では、激しい感情と冷たい理性が渦を巻いていたのである。
心の中では萌香の勝利を強く熱望しながらも、彼は決して萌香ひとりに任せることなどせず、彼女が負けた時の為、既にチャレンジャー海淵への機雷攻撃準備を海軍に要請していた。それに加え、原子力潜水艦での核攻撃も彼は視野に入れており、最悪の場合、太平洋プレートの端ごと、大悪魔女帝の城をマントルの中へと落とし込もうと彼は考えていたのだった。
萌香が脇を通った時、湯本隊員は机の中に作戦資料を隠した。だが、寧樹からは何であっても隠せるものはない。仮に腕輪をしていたとしても、寧樹は相手の心を読む能力が出せるのだ。だが、寧樹はそれを萌香に伝える心算など微塵も有りはしなかった。