誰なのか(9)
文字数 1,441文字
ネイジュの放った『極光乱舞』は、大悪魔女帝の体を包み、彼女の身体と、その付近一帯のアスファルトの道路から、七色の陽炎の様な光を放出させていく。
その光エネルギーの元は、発光している物体が持つ熱エネルギーだ。こうして、この呪文の適応範囲の物体は、全ての分子振動を止め、光子へと強制的にエネルギー変換させられてしまうのである。
残されたのは、空気中の水蒸気を霜として纏った、白いソーサ―の上に立つ、人間の形をした樹氷だけであった。
「やりました! わたくしたち、大悪魔女帝を倒しましたわ!」
「う~ん、萌香。残念だけど、そうではないわ。彼女、私が呪文を唱えている間に逃げちゃったみたいだから……」
「でも、そこに、女帝がいらっしゃるではありませんか?」
「あれは魔法で作った抜け殻ね。彼女、私が呪文を完成させる寸前に、『瞬間移動』で逃げ帰ってしまったみたいよ。本当、彼女って、そういう思わせぶりな手品が好きなんだから……」
萌香は心の中でなければ、恐らく怪訝そうな表情を浮かべていたに違いない。
「寧樹、あなた、大悪魔女帝の正体を分かってらっしゃるの?」
それについて、寧樹は薄笑いをするだけで何も答えようとはしない。萌香は彼女が答えてくれないことに不満はあったが、今は敢えて文句を言うのは我慢した。その代わり、萌香は寧樹に念押しの確認をしたのである。
「後で、全部話して下さるって仰いましたわよね!」
「ええ、勿論よ……。さ、陰に隠れて変身を解除しましょう!」
萌香は寧樹の勧めに従い、直ぐそこのビルの陰へと『瞬間移動』を使って消えることに同意した。
その呪文を寧樹が唱えている間、萌香は混沌とする頭で色々な事を考えた。
「みんな、正体を隠している……」
寧樹の正体は?
大悪魔女帝とは?
それだけではない。小田原隊長も、人間にしては、随分怪しい所が在り過ぎる。
「フフフフ、それだけじゃないわよ。他にも正体を隠している人は何人もいるわ」
寧樹の悪魔の様な呟きを耳にして、萌香は「矢張り、寧樹は大悪魔ではないか……」と思わずにはいられなかった。
「皆様、大丈夫でした……」
萌香は、戦闘のあった交差点付近にいる仲間の元に走り寄った。
「おいおい、自分の持ち場を離れちゃだめだろう!」
そう萌香に言ってから、湯本隊員は刀を鞘へと納める。刀で戦う姿を、始めて萌香に見せたこともあり、少々照れ隠しの感が無いでもない。
「良いじゃありませんか、あの大悪魔女帝も倒し、戦いも終ったみたいですし……」
萌香はそう言って、大悪魔女帝が逃げたことに気付かない振りをして答えた。
だが、それを聞いても、小田原隊長は難しい顔を崩そうとはしない。
「いや、彼女は逃げたみたいだ……」
そう言って、小田原隊長は、大悪魔女帝の姿を模した空の樹氷を、拳で殴って砕いたのである。
その週の土日、ゴーラ女学院付属女子高は文化祭を迎えている。
萌香のクラスでは、日曜日の午後一番のステージで、中国舞踊をアレンジしたダンスを披露していた。
評判は中の下と云った所であろうか。
ステージでは、次々と演目が披露されていて、只でさえ観客は舞台に飽きている状態なのだ。演劇より、内容の分かり難いダンスは評価が高くなりにくい。
それでも、萌香はステージは成功だと思う。自分自身も力み過ぎず、周りに合わせた八分目の力で、ジュテグランテカールもリズム良く跳べた。何も言うことは無いのだ。
確かに、練習不足の宮ノ下美里がコケたのは、御愛嬌ではあったのだが……。
その光エネルギーの元は、発光している物体が持つ熱エネルギーだ。こうして、この呪文の適応範囲の物体は、全ての分子振動を止め、光子へと強制的にエネルギー変換させられてしまうのである。
残されたのは、空気中の水蒸気を霜として纏った、白いソーサ―の上に立つ、人間の形をした樹氷だけであった。
「やりました! わたくしたち、大悪魔女帝を倒しましたわ!」
「う~ん、萌香。残念だけど、そうではないわ。彼女、私が呪文を唱えている間に逃げちゃったみたいだから……」
「でも、そこに、女帝がいらっしゃるではありませんか?」
「あれは魔法で作った抜け殻ね。彼女、私が呪文を完成させる寸前に、『瞬間移動』で逃げ帰ってしまったみたいよ。本当、彼女って、そういう思わせぶりな手品が好きなんだから……」
萌香は心の中でなければ、恐らく怪訝そうな表情を浮かべていたに違いない。
「寧樹、あなた、大悪魔女帝の正体を分かってらっしゃるの?」
それについて、寧樹は薄笑いをするだけで何も答えようとはしない。萌香は彼女が答えてくれないことに不満はあったが、今は敢えて文句を言うのは我慢した。その代わり、萌香は寧樹に念押しの確認をしたのである。
「後で、全部話して下さるって仰いましたわよね!」
「ええ、勿論よ……。さ、陰に隠れて変身を解除しましょう!」
萌香は寧樹の勧めに従い、直ぐそこのビルの陰へと『瞬間移動』を使って消えることに同意した。
その呪文を寧樹が唱えている間、萌香は混沌とする頭で色々な事を考えた。
「みんな、正体を隠している……」
寧樹の正体は?
大悪魔女帝とは?
それだけではない。小田原隊長も、人間にしては、随分怪しい所が在り過ぎる。
「フフフフ、それだけじゃないわよ。他にも正体を隠している人は何人もいるわ」
寧樹の悪魔の様な呟きを耳にして、萌香は「矢張り、寧樹は大悪魔ではないか……」と思わずにはいられなかった。
「皆様、大丈夫でした……」
萌香は、戦闘のあった交差点付近にいる仲間の元に走り寄った。
「おいおい、自分の持ち場を離れちゃだめだろう!」
そう萌香に言ってから、湯本隊員は刀を鞘へと納める。刀で戦う姿を、始めて萌香に見せたこともあり、少々照れ隠しの感が無いでもない。
「良いじゃありませんか、あの大悪魔女帝も倒し、戦いも終ったみたいですし……」
萌香はそう言って、大悪魔女帝が逃げたことに気付かない振りをして答えた。
だが、それを聞いても、小田原隊長は難しい顔を崩そうとはしない。
「いや、彼女は逃げたみたいだ……」
そう言って、小田原隊長は、大悪魔女帝の姿を模した空の樹氷を、拳で殴って砕いたのである。
その週の土日、ゴーラ女学院付属女子高は文化祭を迎えている。
萌香のクラスでは、日曜日の午後一番のステージで、中国舞踊をアレンジしたダンスを披露していた。
評判は中の下と云った所であろうか。
ステージでは、次々と演目が披露されていて、只でさえ観客は舞台に飽きている状態なのだ。演劇より、内容の分かり難いダンスは評価が高くなりにくい。
それでも、萌香はステージは成功だと思う。自分自身も力み過ぎず、周りに合わせた八分目の力で、ジュテグランテカールもリズム良く跳べた。何も言うことは無いのだ。
確かに、練習不足の宮ノ下美里がコケたのは、御愛嬌ではあったのだが……。