入隊選抜試験(1)
文字数 1,240文字
入隊選抜試験は筆記試験から始まった。
会場は宇宙軍大学の鎌倉キャンパスで、今は一つの教室を借りて五十人程の人間がペーパーテストに頭を抱えている処である。
「何ですの、『初速1000km毎秒で仰角60度で発射された砲弾の落下位置までの距離を求めよ。但し風向、空気抵抗の影響は考慮しなくて良い』って?」
「えっとね、60度の向きでベクトルって線を書くでしょ、この上向きの方向が上がって下がる動き、横向きが移動量よ。横への移動量は落下するまで等速で移動するから、落下までの時間を求めて掛ければ良いの。でね、落下までの時間なんだけど、上向きに発射された速度は、重力によって下方向に加速されるから……」
「分かりました。寧樹、説明はよろしくてよ。あなたに全てお任せするわ」
「もう萌香ったら!」
そうは言っても、萌香も何もせず試験会場にいるのも退屈で、つい試験問題を読んでしまう。
「これなら知っていますわ。風上から火を掛けられた時は、風下の草を刈ってスペースを作りながら、風下側に火を放って脱出するのですのね!」
「それは引っ掛け。この風速だと前後からの火で焼け死んじゃうわね。ここはそんなことせず、火を防ぐ兵を残し、大将は一気に風下に逃げるのが正解よ。でも当然、敵もそれを想定しているだろうから、伏兵を避ける算段が必要になるみたいね」
そうこうして筆記試験は終了した。だが、萌香はまだ試験の興奮から冷めやらない。
「ねえ寧樹、あの『嘘吐いている一人は誰でしょう』って問題ですけど、どうやって解くのかしら?」
「あれはそんな難しくないわよ。AからDまで、一人ずつ、意見を反対にしていって、全員の意見に矛盾がなければ、意見を反対にした人が嘘吐きってことね」
「そうなのですか……」
「でも、現実世界はそんな簡単じゃないわね。嘘を吐くのが一人と決まっているなんて、そんな状況あり得ないもの」
「でも、推理小説で犯人が一人なら、そう云うこともあるのじゃなくて?」
「小説ね……。でも、それでも嘘吐きが一人とは限らないわ。犯人も嘘を吐いていないかも知れないし、犯人以外が嘘を吐いている可能性だってあるのよ」
「でも、犯人以外は悪い人ではないのだから、嘘吐くのっておかしくないですか?」
「犯人以外が善人とは限らないわ。それに悪意の無い人だって嘘を吐くわ。この前、あなた、『異星人を討伐する為に討伐隊に志願する』って嘘を言ったでしょう。それに、重国氏だって、萌香が無能だから試験を諦めろと言っているわ。あれも嘘。でも……」
そう、あれは萌香を馬鹿にしてことではない。萌香を心配しての嘘だ。世の中、嘘は至る所に落ちている。
「さ、三十分休憩の後は実技試験よ。折角だから萌香がやってみる? 一緒に練習したわよね、総合格闘術」
「ご冗談でしょう? 勿論、寧樹にお任せしますわ。わたくし、寧樹と違って、あのような野蛮なもの、全然向いていませんもの」
そう冗談を言って、萌香は自分で笑い出す。釣られて寧樹も、思わず笑ってしまうのであった。
会場は宇宙軍大学の鎌倉キャンパスで、今は一つの教室を借りて五十人程の人間がペーパーテストに頭を抱えている処である。
「何ですの、『初速1000km毎秒で仰角60度で発射された砲弾の落下位置までの距離を求めよ。但し風向、空気抵抗の影響は考慮しなくて良い』って?」
「えっとね、60度の向きでベクトルって線を書くでしょ、この上向きの方向が上がって下がる動き、横向きが移動量よ。横への移動量は落下するまで等速で移動するから、落下までの時間を求めて掛ければ良いの。でね、落下までの時間なんだけど、上向きに発射された速度は、重力によって下方向に加速されるから……」
「分かりました。寧樹、説明はよろしくてよ。あなたに全てお任せするわ」
「もう萌香ったら!」
そうは言っても、萌香も何もせず試験会場にいるのも退屈で、つい試験問題を読んでしまう。
「これなら知っていますわ。風上から火を掛けられた時は、風下の草を刈ってスペースを作りながら、風下側に火を放って脱出するのですのね!」
「それは引っ掛け。この風速だと前後からの火で焼け死んじゃうわね。ここはそんなことせず、火を防ぐ兵を残し、大将は一気に風下に逃げるのが正解よ。でも当然、敵もそれを想定しているだろうから、伏兵を避ける算段が必要になるみたいね」
そうこうして筆記試験は終了した。だが、萌香はまだ試験の興奮から冷めやらない。
「ねえ寧樹、あの『嘘吐いている一人は誰でしょう』って問題ですけど、どうやって解くのかしら?」
「あれはそんな難しくないわよ。AからDまで、一人ずつ、意見を反対にしていって、全員の意見に矛盾がなければ、意見を反対にした人が嘘吐きってことね」
「そうなのですか……」
「でも、現実世界はそんな簡単じゃないわね。嘘を吐くのが一人と決まっているなんて、そんな状況あり得ないもの」
「でも、推理小説で犯人が一人なら、そう云うこともあるのじゃなくて?」
「小説ね……。でも、それでも嘘吐きが一人とは限らないわ。犯人も嘘を吐いていないかも知れないし、犯人以外が嘘を吐いている可能性だってあるのよ」
「でも、犯人以外は悪い人ではないのだから、嘘吐くのっておかしくないですか?」
「犯人以外が善人とは限らないわ。それに悪意の無い人だって嘘を吐くわ。この前、あなた、『異星人を討伐する為に討伐隊に志願する』って嘘を言ったでしょう。それに、重国氏だって、萌香が無能だから試験を諦めろと言っているわ。あれも嘘。でも……」
そう、あれは萌香を馬鹿にしてことではない。萌香を心配しての嘘だ。世の中、嘘は至る所に落ちている。
「さ、三十分休憩の後は実技試験よ。折角だから萌香がやってみる? 一緒に練習したわよね、総合格闘術」
「ご冗談でしょう? 勿論、寧樹にお任せしますわ。わたくし、寧樹と違って、あのような野蛮なもの、全然向いていませんもの」
そう冗談を言って、萌香は自分で笑い出す。釣られて寧樹も、思わず笑ってしまうのであった。