わたくし、やります(5)

文字数 1,685文字

 萌香は自分の衣装を、学校の家庭科室のミシンを借りて縫った。家で「ミシンを貸して」等と言うと、家政婦か誰かにやられてしまうことになるからだ。
 勿論、「自分でやる!」と抵抗することは出来るだろう。だが、その時、「萌香がやっても、結局は恥ずかしい物しか出来ないから、家政婦さんに任せなさい」と言われるだろうし、それが萌香には酷く嫌だったのだ。
 今迄、どれ程、その手の言葉で心を折られたことか……。自分がやっても、上手くない。そんなことは知っている。出来るって言い張って、やってみたところで、「ほら、言わないこっちゃない」って言われるのも分かっている。だから、最近の宿題などと同じように、萌香はそんな作業があることを、家人の誰にも言わなかった。
 そして、今回は学校で一人、こっそりと衣装作りをすることにしたのである。

 文化祭の練習は、授業の終了後、机を片付けて教室で行ったり、分担で体育館が使用できる時にクラス全員で集まって行った。
 指導は担任の教師が指導することもあったし、ダンスが得意な片平乙女がリーダーとして見ることもある。
 そして、今日は体育館使用最後の日、教師は用事があって座を外し、乙女が全員の動き、特にフィナーレの、全員が順番に行うジュテグランテカールの最終確認を行っていた。
「は~い、栢山さん、グランジュテはもっと大きく、ダイナミックに……」
 どうにも高さも幅もバラバラで、格好が付かない。それでも萌香に言わせれば、長い袖と青く長い帯の動きが美しく、鑑賞には充分耐え得ると思っているのだが、乙女はそれでは満足出来ない様であった。
 だが、体育館使用時間はあと少し、今からもう一度やり直す時間はない。
「仕方ないわね……。明日の土曜日と明後日の日曜日、先生にお願いして、もう一度体育館を使用させて貰えるか、交渉してみるわ。みんな、大丈夫よね!」
 皆、不満そうな表情を見せてはいたが、乙女の強烈なリーダーシップに、誰も反論することは出来なかった。
 そんな呆然と立ち竦むクラスメートの中から、一人、萌香が進み出て、乙女の前に立って意見を発した。
「あの~」
 萌香の言葉に乙女が反応した。
「どうしたの? 入生田さん」
「済みませんけど、わたくし、今度の土日はどうしても空けられない用事がありますの。ですから……」
 乙女の顔から驚きの表情が浮かんだ。
「入生田さん、あなただって、上手く行かないところがあるでしょう? みんな、もっと練習しないと」
「でも……」
 乙女の顔から驚きの表情が浮かんだ。そして、仁王立ちに立って、表情を殺し萌香に不満を返す。
「入生田さん……、私、あなたを見直していましたのよ。でも……、思い過ごしだったようですね」
「片平さん、他の日なら……」
「結構です!」
 そう言うと、乙女は萌香の脇を擦り抜けて、皆の方に向いて、萌香を無視する様に他のクラスメートに言葉を掛けた。
「じゃ、時間が決まったら電話連絡するから。みんな、あと少し、頑張ろう!」
 萌香は、そんな乙女の背中を何も言わずに、ただ寂しそうに見つめていた。

 勿論、萌香も自分のダンスが完璧でないことくらい分かっている。彼女の場合、皆よりジャンプしてから着地迄の時間が少し長く、皆との連続がスムーズに見えないのだ。実は萌香だって、もう少し皆と練習がしたかったのである。
 それに今回、入生田のお嬢様としてではなく、萌香はクラスの一員として皆と同じようにしていたかったのだ。だから、練習をすることは苦痛ではなかったし、休日練習だって、どんなに忙しくとも、皆と一緒に本当は参加したかったのだ。
 だが、そう言う訳には行かなかった。
 今度の土日は、同じ様に準隊員である湯本隊員の学園祭の日だったのである。
 彼とは相談の上、今度の土日は湯本隊員が休暇を取り、次の土日、萌香の文化祭の日には萌香の方が休みを取ると云うことで、調整が既に付いていたのであった。
 それを突然、異星人討伐隊の任務を休む訳には行かない。
 だが……、それは乙女に行っても仕方ないこと。所詮、言い訳にしか聞こえはしない。だから、萌香は何も言わなかった。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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