入隊選抜試験(2)

文字数 1,227文字

 萌香は、体育館に付属している更衣室で道着に着替え、会場内の指示された位置に着坐する為、短い通路を移動していた。
 その移動の途中、正面から三十歳前後の少し小柄で細身の男が歩いてきて、擦れ違うと同時に立ち止まって彼女へと声を掛けた。
「入生田萌香さんですね? 悪いことは言いません。試験を受けるのは止めて、入隊を辞退してください」
「異星人討伐隊が危険な任務であることは分かっています。でも、誰かがやらねばならないでのです。わたくしは試験を受け、力を試します。もし、わたくしが試験に受かるようであれば、わたくしには、その力があると云うことですし、それと同時に、わたくしには地球を守る義務もあると云うことです」
 寧樹の言葉ではなく、それは萌香の言葉であった。彼女は彼女なりに、この試験に真剣に向き合っているのだ。
「お気持ちはご立派ですが……」
「ご心配頂き、ありがとうございます」
「恐らく、あなたは分かっていない」
 男はそう言うと、萌香に振り返ることなく、そのまま廊下を進み立ち去って行った。
 萌香は寧樹に尋ねる。
「あの方、わたくしの何が分かって無いと(おっしゃ)りたいのかしら?」
「萌香は重国氏の孫娘。ただでさえ標的なのよ。討伐隊の隊員にでもなったら、真っ先にテロリストに狙われるってことね」
「ええ! どうしましょう?」
「萌香、言ったじゃない? 『試験に受かるなら、その力がある』って。大丈夫よ。私が憑依しているんだもの。試験にも受かるし、テロリストにも殺されたりしない」
 寧樹にそう言われても、そう簡単に萌香の不安は拭えない。
「さ、萌香。そこに座りましょう」
 いつの間にか萌香は、体育館の選手控えの席の場所までやって来ていた。そう、もう後戻りなど出来ないのだ。
「寧樹、ところでさっきの人、誰なの?」
「彼は前回の試験で合格した、小田原平蔵さんだそうよ。実務経験などを考慮した場合、今回合格のメンバーを加えた新組織の隊長には、彼がなるんじゃないかって噂ね」
「小田原平蔵隊長か……」

 だが今、闘うべき相手は、反対サイドにいる道着の女性だ。
 彼女は堂々とした体躯で、こちらを不敵に眺めている。萌香は緊張を紛らわす様に、道着の白い帯をぐっと締めた。
「寧樹、あなた。勿論、あちらの方に勝てますわよね?」
「当然よ」
「ギッタギタにして頂戴!」
「あら? さっき迄は怯えていたのに……」
「あの方、わたくしの帯が白いのを見て、歯を見せて笑いましたのよ。例え、どんな理由があるにしても、わたくしを馬鹿にするなど、絶対に赦せませんわ!」
「そうね。ま、帯だけではないと思うけど、見た目で相手を笑うようでは、実力は兎も角、心の修行は全然足りていないみたいね」
 萌香は立ち上がった。だが、それは彼女の意志ではない。もう既に彼女の肉体は寧樹の意志で動かされている。
「相手を見くびらず、常に平常心を保つ。それが出来ないようでは、実戦で足を掬われるってこと、彼女に嫌と云うほど思い知らせてあげましょうか……」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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