剛霊武獣(8)

文字数 1,260文字

「成程ね。そう言う訳か……」
 心の中で寧樹が呟いた。
「寧樹、余裕持っていらっしゃらずに、そろそろ助けて下さいませんこと?」
「了解、了解!」
 寧樹は頭を反らし、後頭部を相手の顔面にぶつける。そして、それで怯んだ剛霊武(ゴレム)獣の足を思いっきり踏みつけて、瞬間、右手の自由を得た。
 剛霊武(ゴレム)獣は「しまった」と思ったのだろう。左腕の集中も欠いた。そこに寧樹は、すかさず左の一本背負い。剛霊武(ゴレム)獣を前方に投げ落とす。
 剛霊武(ゴレム)獣が立ち上がろうと、片膝を着いて体を起しかけた。寧樹は、そのタイミングを狙い、敵の顎に思いっきり前蹴りを食らわす。それで敵は、翻筋斗打(もんどりう)って吹き飛んだ。
 それを見た湯本隊員は、思わず口笛を吹いて賛美と驚嘆の意を表した。
「お嬢様、やるねぇ」
 勿論、寧樹はそんなものに一々反応はしない。前転を繰り返しながら、仲間の元へと逃げ込んでいく。
 寧樹は心の中で萌香に話し掛けた。
「腕輪外してないけど、萌香が『やれ』って言ったんだから、別に良いわよね?」
「勿論ですわ」
 萌香はそう答えたのと略同時に、自分の体が自由に動かせることを感じとった。
 作戦の失敗を悟った剛霊武(ゴレム)獣は、起き上がり、背を見せて空へ逃げ出そうとする。だが、風祭隊員の射撃を食って、少し浮き上がっただけで撃ち落とされた。剛霊武(ゴレム)獣も、このままでは逃げることも不可能になると感じたのだろう。手の甲に付いた水晶玉を額に宛がい、その場で動きを止めた。蝙蝠型剛霊武(ゴレム)獣は憑依を解き、肉体を捨てて逃げ出したのである。

 剛霊武(ゴレム)獣が、その動きを止めたのを見極め、小田原隊長は萌香の肩を叩いて、彼女に声を掛けた。
「大丈夫だったか? 入生田隊員」
「ご心配お掛けしました。危ない所でしたが、もう大丈夫ですわ」
 風祭隊員と湯本隊員も萌香を心配し、駆け寄って来る。その二人にも萌香は頭を下げて礼を返した。
「しかし、隊長。奴らの狙いは何だったのでしょうか? こんな人気の無い駐車場に現れて……。それも民間人に簡単に見つかって、通報されるヘマを犯すなんて……」
 礼を言われた照れ隠しだったのか、湯本隊員が小田原隊長にそう質問をする。勿論、その答えを寧樹は持っている。だが、態々萌香の許可を受け、小田原隊長たちに説明する気は無かった。
「何とも言えない。奴らが何かを企んでいる事だけは間違いないだろう」
 だが、寧樹はこうも考えている。
「そう答えてはいるけど、恐らく小田原隊長にも、奴らの考えは、想像ついているに違いないわね……」

 そうこうしていると、放射線防護服を着た数名の作業員が、倒されて動かなくなった剛霊武(ゴレム)獣の抜け殻に集まって来た。そして、素手で触れない様に担架に乗せて運ぼうと、慎重、且つ手際良く作業を行っていく。
「取り敢えず、基地に戻ろう。剛霊武(ゴレム)獣の残骸回収班がやって来た。あいつら、我々を直ぐに邪魔者扱いするからな……」
 小田原隊長は風祭、湯本両隊員の肩も叩き、そう言って討伐隊の撤収を指示した。萌香もそれに従い、迷彩色に塗られた討伐隊移送車へと、仲間と共に肩を並べて歩いて行ったのである。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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