仮面舞踏会の終わり(2)

文字数 1,429文字

 運転手の宮城野は、彼女の指示に従って車を急停止させた。そして、後部座席に振り返り、萌香にその意図を訊ねる。
「どうなさったのですか? 萌香お嬢様」
 だが、萌香はそれに答えるよりも前、既に黒のセンチュリー車道側扉から車外へと飛び出していた。
 彼女が目にしたのは1人の男子高校生。勿論、それが、ゴーラ女学院付属女子高の生徒であろう筈はない。
「あなた、なぜ、いらっしゃるの?」
 話し掛けられた相手は、北鎌倉高校の制服を身に付けていた。
「本物の入生田萌香さんだね。俺は火取志郎と云う者だけど……」
 そう、その男子高校生は火取志郎。モス星人の変化した姿だ。
「自己紹介は不要ですわ。正体は分かっておりますの。でも、モス星人は皆、捕まったと聞いておりましたが……」
「なんだ。バレているのか……。他の奴らは全員逃げたよ、自分の星にね」
「なんてことでしょう……。でも、何故、あなたは逃げなかったのですか?」
「俺は人を探している。サント・ネイジュと云う女性だ。彼女は俺に魅了の術を掛けたまま、去って行ってしまったのだ!」
「術は解いたわよ!!」
 心の中の寧樹の声は彼には伝わらない。その替わりに萌香が彼に訊ねる。
「サント・ネイジュに復讐でもしようって仰るの? 今、彼女はとても忙しいのです。あなたのお相手などしている暇は、彼女にはありませんことよ!!」
「復讐なんてとんでもない! ただ、彼女にもう1度、逢いたいだけだ!」
 宮城野と早雲山も車から降りて来て、萌香の前に出て、志郎との間に入って彼女を護ろうとする。
 萌香はその宮城野に後から言葉を掛けた。
「宮城野さん、車に戻りましょう。彼との話は終りました。急ぎましょう。遅刻してしまいますわ」
「ちょっと待ってよ。あんた、彼女の居場所を知っているんだろう? 教えてくれよ!」
 その言葉に、車の方に歩み始めていた萌香は立ち止まり、彼に振り返って、ひと言だけ言葉を返した。
「宇宙軍東京湾基地に出頭してきたら、ネイジュをあなたに会わせてあげますわ」
 そして、それ以上は時間の無駄だとばかり、萌香は志郎を置き去りにし、さっさとセンチュリーに乗り込んだ。

 萌香は授業が終わった後、急遽、宇宙軍東京湾基地に出隊した。その場所で火取志郎を待ち合わせたからだ。
 萌香も、モス星人が来ることを信じていた訳ではない。それでも奴に来いと言った以上、約束を彼女の方からすっぽかすなんて、萌香のプライドが許しはしなかったのだ。
 正直、異星人討伐隊基地に顔を出したくはない。特に小田原隊長と風祭隊員には会いたくなかった。勿論、萌香に彼らを非難することなどは出来ない。それでも、彼らが異星人テロリスト側の人間かと思うと、何となく、割り切れないものを感じているのも間違いではない。
 その風祭隊員から、出隊したばかりの萌香に、来客があるとの伝言が伝えられた。彼は萌香を見出すと、銃の手入れ作業の手を休め、彼女にこう言ったのである。
「お嬢様にお客さんだぜ。応接室に待たせてあるからな」
「ありがとう、風祭隊員」
 萌香はそう礼を言うと、隊長席に座っている小田原隊長の元に近づき、来客との面談の許可を求めた。
「小田原隊長、来客を待たせているそうなので、席を外すことの許可をお願いします」
「ああ、構わないよ……」
「相手は異星人侵略者かと思われるので、申し訳ありませんが、隊長の同席をお願い出来ませんでしょうか?」
「私の?」
 意外な萌香の提案に、小田原隊長は少しばかり眉を顰めた。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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